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兄に男として「新人」教育されます (5)

「35! 36! 37! ……38……!」

「ステラ! 剣の振るい方が雑になってるぞ!」

「はっ……! はい!」


 兄から初めて剣を習い初めてから十日。

 男性に姿が変わっている時には、兄から剣術と言葉遣いに社交術をならい、女性に戻っている時はレノンから化粧品の作り方を教わっている。

 まだ男性になれるのは一粒飲むと四時間ほどだけど、順調だとレノンからお墨付きをもらい、飲み方を変えている。

 今までは毎食前だったけど、今は、「朝食、夕食前の服用で」と言われ、一日二回にしているのだ。


 まあ、とにかく今の私は忙しい。


 男になったり女になったり。

 そして男の時は兄から「男として生きる術」を教えてもらい

 レノンからは「男になった時、生活するための手段」を教えてもらっている。

 兄は資金を援助してくれるつもりらしいが「そこまで考えているなら」とレノンからの受講にとやかく言ってこない。


 でも、「ハーレムの資金のため」というのは隠している。

(ハーレムを作るための資金を稼ぐために教えてもらってる、なんて言ったら流石にお兄様も反対するわよね)


 日に日に男性でいる時間が延びていくと、周囲の様子が変わっていった。


 兄と剣術の時間に庭にいると、どこからか村娘がたむろき始めたのだ。

 何しにきているのか?

 それは、自分を見に来ているのだとコニーから言われ、ようやく気づいた。

 試しに、兄を誘いたむろっている村娘達に手を振って微笑んでみる。

 すると「きゃー!!」と顔を真っ赤にして甲高い声を上げながら、あちらからも手を振ってくる。

「……女性の声って、こんな黄色かったんだ」

「おまえ、今更……」

 

 耳につんざく声にたじろきながら言うと兄が呆れたように返したが、思いついたように

「そうだ、いい機会だ。教えた『社交術』と『言葉遣い』をつかってあの村娘達と話してこい」

と言ってきた。

「――えっ? 私一人で?」

「女言葉は止めろ。いいか? 言葉遣いに気をつけろよ?」

「お兄様も一緒にきてよ!」

 だだをこねる私の背中を押し出し、「さっさといけ!」という兄。

 私が男でいるときの兄は、思っていたけどめちゃくちゃ厳しい。

 剣の稽古だって容赦ない。

「短い間で男として使い物にならないといけないんだ! ビシビシいくぞ! 女とばれる行動や言葉遣いに気をつけろよ! 見てるからな、もし不信がっていたら腕立て百回!」


 何その脳筋思考。


 兄がなかなかの脳筋だったと知って、私は結構衝撃を受けつつ剣をしまうと村娘達に近づく。

(ええと……まず笑顔よね)

 口の歪みを気にしつつ、なるべく爽やかな微笑みを心がける。

「やあ! いい天気だね」

と、話しかけたら……

「キャー!!」

と、ちりぢりになって退散してしまった……


「……えっ?」

 脱兎のごとく逃げてしまって、私、呆然。

「よし!合格!」

と、後ろで太鼓判を押す兄。

 ……何が「合格」なんだろう?

「お兄様、逃げられたんですけど……?」

「それだけステラが『声をかけれるのがおこがましいほどの美青年』ということだ」

「……それじゃあ、全く会話の勉強にならないんですけど」

「いきなり数人の女性に囲まれながら会話ができるか?」

「そうですね……」


 村娘なら多少女言葉でも、誤魔化せることができるだろう。

「きっとまた懲りずにやってくるから、気長に話しかけて打ち解けて会話の勉強をしてこい」


◇◇◇◇◇


「って、言われたのよ。コニーはどう思う?」

 女性に戻ったので、急いで別荘に入りドレスに着替える。

「……いいんじゃないですか?」

 そう、短く言うとコニーは黙々と私の着替えを手伝う。

 コニーも最近、様子が変わった。

 気がつけば、ぼぉっとしているし、かと思えば何か思い詰めたような顔をしてるし、何より元気がない。

「コニーどうしたの? 最近元気がないわ。身体の調子、悪いの?」

「……いいえ……いえ、少し、疲れているのかもしれません」

「――それはいけないわ! 仕事は他の使用人に任せてコニーは休んで!」

 私はコニーの手から櫛を奪うと、彼女の額に手を当てる。

 

 よく見れば、確かにコニーの顔色は良くない。

 ここ数日様子がおかしかったのに、早く気づくべきだった。

 自分の気の遣いのなさに後悔する。

「熱はないようね……。今からレノンの家にいくから帰りにお薬処方してもらってくるから、ゆっくり横になっていて」

「ステラ様……」

 コニーはジッと私を見つめる。

 彼女の目から涙が溢れてきて、私は酷く慌てた。

「泣くほど辛かったなんて! 気の利かない主人でごめんなさい! 主人失格だわ……!」

「いいえ、申し訳ないのは私のほうです……! ステラ様がご自分で決心されたことなのに……私……!」

「コニー……?」


 すいません、休ませてもらいます――コニーは私から逃げるように、部屋を退出した。







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