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兄に男として「新人」教育されます(2)

 扉の前で、兄とご対面。


 兄は、突然現れた若者に呆然としている。

 そんな兄に私は、クールに微笑む。

 これは鏡の前で練習したんだから! いかにも男前風になるように!

 

 ……って、最初に試したのが自分の兄ってね……


「お前……誰だ?」

 ようやく兄が発した台詞がそれ。

「私、ステラよ。お兄様」

 男みたいな言葉で話そうと思ったけど、兄にはいつもの私の喋り方の方がいいと判断。

 呼吸のできない魚のように、口をパクパクさせて私を指さす。

「嘘……だ! お前は誰だ! ステラは? ステラはどうした!?」

 兄は後ろの部屋を見渡すけど、当然そこには誰もいない。

 先ほどまで私が着ていた女性のドレスが、脱ぎ捨ててあるだけだ。

「――!?」

 いきなり兄に肩を掴まれて揺さぶられる。

「ステラをどこに隠した!? 新手の誘拐か! ステラを返せ!」

「お兄様! 私だって! ステラです!」

「お前のどこがステラだ! どう見たって男だろう!」

「だから男になれるって言ったよね!?」

「それはステラの幻視だ!」

 兄を止めようとコニーが飛びかかる。


「クリフ様! 落ち着いて! 本当に目の前にいる若者はステラ様なんです!」

「お前まで言うか!? ――もしかしたら何かの伝染病!?」

 どうしてそう考えるかな。

「鏡見て! お兄様と私、よく似てるでしょ!?」

 はっ? と兄が私を鏡の前まで引きずっていく。

 兄と私、顔を並べて鏡をガン見。

 たちまち兄の顔が血の気が失せて、真っ白になっていく。

「何故だ……? 貴様、もしかしたら父上の隠し子……?」

「想像力逞しすぎ……」

「ご兄妹のステラ様だから、こうも似ているとお思いになりませんか? クリフ様」

 コニーが助太刀してくれる。

「いや……! だから、男になるというのはステラの幻だよ!? ステラはきっと隣の部屋のどこかに隠れているはず!」

 と、兄は着替えの部屋に突進して、あちこちかき回している。

 タンスや、机の下、ベッドの下にはては敷き布を取り外してクッションの中まで探っている。

「私の寝室が……めちゃくちゃ……」

 無数の羽が飛ぶ部屋の惨劇を、呆然と眺めている私にコニーは

「……なるべく元の通りに直しますね」

と慰めてくれた。


「いない……! ステラ! いるなら返事をしてくれ!」

「はーい」

「貴様が返事するな!」

 返事しろというからしたのに兄に怒鳴られて、いい加減カチンときた。

「だから! 私がステラだって言ってるでしょ! あと数十分したら元に戻るから少し待ってなさい!」

「貴様、そういってその間にステラをどこかへやるつもりだな!? 仲間までいるのか!?」

 想像力逞しすぎるって!

「クリフ様、ここにいる若者がステラ様だと証言をしてくださる方をお呼びしましょうか? それまでお待ちになっては?」

「コニー……?」

 兄がコニーにやんわりとそう告げる。

「私はステラ様を五つの頃からお世話をしております。そしてこの別荘にきてからもずっとお世話をしております。私は、目の前にいる若者がステラ様だとよく知っております。――そんな私をクリフ様は信じていただけないのなら、もう一人、ステラ様男にした張本人にきていただいてお話を聞いて、またステラ様が女性に戻るところを見ていただくしかありません」

「……コニーはここにいる男は、ステラだと言うのだな?」

「はい、間違いございません」

 コニーはしっかりとした口調で断言してくれた。

(コニー!素敵!)

「コニー!格好いい!」

 思わずコニーを抱きしめてしまう。

「!?」


 ――えっ?


 抱きついた途端、コニーの顔が赤くなる。

「……えっ、あ、ぁ、はぁ……はい……」

 彼女にしては、珍しく歯切りの悪い言い方だ。

「お、お離しください。……あ、あの、レノン様にし、至急ご連絡しますので……っ」

「あ、う、うん……そうね」

 コニーは兄に一礼すると、そそくさと部屋から出ていった。

「ええと……」

 今のコニーの様子は……?

 コニーがああいう態度をとるのは初めて見たけど、私には覚えがある。

(ええ……と、私に……その気があるってこと? よね?)

 元々、男になったらコニーを第一夫人にしよう! とか思っていたけれど、現実味が帯びてきた感覚に背筋がゾクゾクと震える。

(ええ……!? ま、まずいわよ……!)


 ――えっ?


 咄嗟に出た感情に私は「?」と首を傾げる。

 どうして、まずいの?

 これって願ったり叶ったりの展開よね?

 コニーが私を「男」として意識し始めている。それはいいことじゃない?

 なのに、どうして困るわけ?


「おい、そこのステラと名乗る男!」

「ふぇ?」

 兄に呼ばれ、現実に引き戻される。

「お前、薬術師のレノンの知り合いなのか?」

「何言ってるの。幼なじみじゃない」

「ステラはな!」

「私がステラだって何度も言ってるでしょ?」

「女言葉で喋るな! 気持ち悪い!」

 シッシ、と手で払いのける仕草をとる兄。

 なかなか信用しないよね。これはレノンがきても納得しないかも。

「何が欲しいんだ? 金か? 金な望む通りくれてやる。コニーが帰ってくる前にステラのいる場所を教え、さっさとこの屋敷から出て行け!」

 スラ――っと兄の手が腰に帯びている剣を抜き取り、剣先を私に向ける。

「ステラをどこへやった!言え!!」

 兄の気色が悪い。私を心配してくれてる……?

「兄様! そこまで私を心配してくださってるのね!?」

「だから、お前はステラじゃないだろう!!」

「私、ステラですって。いずれ分かります」

「信用できるか!」

「レノンが来て彼に尋ねるか、それとも――私が女に戻るかが先です。それまで待っていてくれませんか? 私は逃げも隠れもしません。長くて二時間ほど、短くてそれ以下ですから……!」

 飲んでまだ十日。長くなってきているとはいえ、男になれるのは数時間だけだ。

 私は女性用化粧品の作り方の勉強のために、毎日レノン宅を訪問している。

 なので、彼は私の男性の姿も知っている。


 レノンが来るのが先か。

 私が男になるのが先か。


「……良かろう。もし、お前の言っていることがデタラメなら……覚悟しろ!」

 キッ、と私を睨みつつ。剣をしまう兄。

 その姿は血の繋がった兄でありながら……

「か、かっこいい……!」

「……はっ?」

「兄様! 今度剣を私に教えてくださいね! 私もお兄様のように剣をもったら、格好良く決まる男になりたいです!」

「き、気持ち悪い……なよなよした口調で寄るな!!」

 シッシ、と手で、また虫でも払うようにされて、私はむくれた。

 その様子も「気味悪い」と兄に呟かれ、私、ちょっと落ち込みました。


(いいわよ! これから紳士の仕草とか口調とか覚えるから!)







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