プロローグ
とあるビルの一室。
灯り一つない空間でスゥースゥー、と女の子の静かな寝息が聞こえる。
ボロボロのソファに横になって眠る少女を、俺は対面のソファでただ見守る様に見つめる。
少女は俺の彼女だ。
いや、正確には彼女であった–––、だろうか。
俺と少女の距離は1メートルもない、彼女の可憐で無防備な姿。
俺の前でスヤスヤと寝ている彼女はどうしようもなく愛おしく、彼女を見つめているうちに、触れたい、話したい、横に寝たい、遊びたいという様々な願望が込み上げ、無意識に右手が出ているのに気づき、俺は反射的に手を引っ込めた。
まただ、また俺は彼女に触れようとしていた。
……今の俺には彼女と一緒に寝ることも遊ぶことも、触れることすら叶わない。いや、そもそも願ってはいけないのだ。
俺と彼女の2人しかいない暗い部屋の片隅に置いてあった割れた鏡に映る俺の顔を見る。
俺の顔色は蒼白で、唇は紫色。目は充血しており、皮膚は腐っているかのような色になっていて、顔のいたるところには化膿したような醜く赤く染まった傷跡がある。
服はボロボロに破れ、至るところに返り血が付着している。
どこからどう見ても俺はすでに死んでいる。だが俺は動く。
よくホラー系映画に出てくるアレと同じなのだ。
つまり、動く死体。アンデット。ゾンビ。
今の俺はそう言い換えることが出来る。人ではなくなってしまった"元"人間だ。
この世界は原因不明のゾンビ発生により各地で爆発的な感染拡大が進み、10日も経たないうちに崩壊した。
その2日目に俺は彼女を庇ってゾンビの餌食にされたが、数奇な運命によって完全なゾンビにならずに済んだ。
しかし、完全なゾンビではないにしろ、俺の心臓はもう止まっている。死んでしまった代償として俺は、並外れた身体能力や様々な能力を手に入れた。
そんなゾンビとなった俺の存在理由はただ1つ。
人間である彼女をあらゆる敵から守る。それだけだ。
あの日から今までもそうだったように、これからもそうであり続ける……。
色々な思いで彼女を見ていると、部屋に少しづつ暖かい光が差し込み始める。
そろそろか……。
俺は割れた窓の先にある景色を見つめる。
全ての飲み込むブラックホールのごとく暗闇に潜んでいた崩壊都市が日の出とともにポゥっと照らされ、浮き上がるように姿を現わす。
かつてあった世界のように朝日が昇れば、犬が鳴き出し、早朝出勤のサラリーマンの足音や静かに走り出す電車の走行音、踏切の音が聞こえ始める……ことはもうない。
車も電車も人もいない、時が止まってしまったまま廃れたような世界。
そんな世界にも朝は来る。
希望の陽がこの闇を消して、彼女が目を覚ませば移動開始だ。
彼女を死なせないために進む道に今日は一体、どれほどの敵が待ち構えているだろうか?
さあ、今日も彼女を守る戦いを始めよう。
『崩壊した世界で『ゾンビ』になった戦闘マニアな俺~少女を守りたいから最強目指す~(電撃小説大賞に応募予定)』を読んでいただきありがとうございます。
作者の大橋 リッキーです。
本作はゾンビの少年と人間の少女が共存し、ゾンビと戦う小説です。
投稿する話の文字数は2000字以上を目安にしています。(別作品のペースを落とさないようにするためです)
ブックマークや評価、感想等をよろしくお願いいたします。
ーー別作品のお知らせーー
飛行機を主題とした小説、「ハードフライト」も連載中ですので、そちらの方もよろしくお願いします。