沮渠の王
芸史は身支度を整えると通行手形を使って王宮を後にした。彼女は馬に乗れたから馬で都大路を颯爽と駆け抜けていった。大昌城には馬をとばせば二刻ほどで着く。裏を返せば、それだけ沮渠に勢いがあり都まで迫っているということだ。芸史が都を抜けて大昌城に着いた頃は昼過ぎであった。大昌城の周りには幕が何個も設営されている。芸史は兵士の妻らしき女に声をかけて沮渠の王、烏達に謁見を願い出た。しかし、烏達は狩りに出ていていないという。芸史はこの妻の幕で待たせてもらうことにした。幕には寝台があり、中央には爐がある。女たちは髪を編み込み、翡翠の管をつけていた。男たちは髭を蓄えて皮と鉄の鎧を身にまとっている。おまけにがたいがよく、いかに都の男が軟弱であるかを物語っている。
半時、幕の中で待っていると先ほどの女が現れて謁見を承諾してくれたと言ってきた。芸史は襟を正して烏達の幕へ向かった。烏達の幕は大きいが、殺伐としていた。寝台に、絨毯くらいしか目に付かなかった。
烏達は芸史を待っていた。烏達は芸史が思っていたより若い男だった。
「沮渠王、今回は願いがあってきた」
「女絡みだな」
芸史が顔を上げると烏達はにやりとした。しかし、それは嫌らしいものではなく図星であることを喜んでいるような感じであった。
「お前の話は聞くが、安易に取引はしない」
「わかった。王にある女を奪って頂きたい」
「他国からの側室か?」
「いや、肅の公主だ」
芸史の言葉に烏達は一瞬、目を丸くしたがその刹那、声を上げて笑った。




