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王の娘  作者: 大友うさぎ
楽好公主
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沮渠の王

静かになったのを見計らって華陽夫人は王に昼間のことを聞いた。あくまでも今日、初めて聞いたように演技を加えて。

「華陽、お前は王后が公主と生母を捨てると思うか?あの王后は知らないのだ」

「なにをでございますか?」

「公主と生母を追放したのは、王后の姉だからな」

王は全てを話した。華陽夫人はそのすべてを受け止めようとつとめる。

「今の王后は継室だ。先妻は王后の姉であった。彼女は王后と共に入宮して、王后となった」

「もしや、元后とされている方で?」

「そうだ。正式には廃后だ。元后はわしが犯した禁忌を使って己自身の権力を拡大しようとした」

そこから話しは長いものになっていった。元后は禁忌の原因は王にあるとして、彼の禅譲を要求した。何故なら、彼女には幼い太子がいたからである。この太子が王になれば元后はすんなり政治干渉ができるのだ。ただ、彼女の誤算は景氏が産んだ子どもの性別を間違えていたことだ。王子であれば世継ぎで派閥ができると感じた元后は確認もせずに景氏と娘を追い出したのである。そのことが王太后に露見して廃后とされたのだ。

「華陽や、そなたに頼みがある」

「何でございましょう」

「柴尚宮の姪として生きている我が娘を引き取ってくれないか?」

華陽夫人は柴尚宮が王にまで願い出ていたことに驚いたが、それを引き受けた。入宮の日は4月5日と決めて柴尚宮に伝えた。すると柴尚宮は涙をこぼして華陽夫人に礼を何回も何回も述べた。

寝耳に水だったのは容華夫人だった。もう一人の公主が現れれば、鴻城公主の将来が危うくなる。公主が将軍の妻になると将軍は側室がもてない。他の女に愛情が分配されないために公主だけが最大に愛されるのだ。それは女の喜びであった。方や、公主が王后、側室として他国に嫁ぐとなると話は別である。容華夫人は何とか入宮を阻止しようと趙将軍を呼び出した。

「趙将軍、このたびは慶事が重なりましたね」

「有り難きことです。我が家から大王の側室が出ようなど考えもしませんでした」

「入宮の日にもう一人の公主も入宮するそうね。正しくは回宮だけれど。警備は抜かりないかしら?」

「このように警備はなっております」

趙将軍は皮で出来た地図を取り出した。そしてそれを宮女が受け取り、容華夫人に手渡した。

公主が通る道には沮渠(そきょ)が自治を主張する大昌城(だいしょう)がある。沮渠を使い、公主の入宮を阻止できれば。容華夫人は地図を脳裏に焼き付けて、趙将軍に返した。その後、趙将軍とたわいもない話をしてから彼を見送った。そして腹心の芸史(げいし)を呼んだ。謹慎中の容華夫人の代わりに沮渠へ向かわせるためであった。


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