鴻城公主
王后は穏やかな瞳で左右に居並ぶ側室たちを見つめた。そして容華夫人に優しく声をかけた。
「容華夫人、公主がこうして誕生日を迎えられたのもあなたの育て方の良さね」
「何を仰いますか。王后様は太子をお育てになられています。私は公主一人……ましてや、一人もいない方にくらべれば」
容華夫人の言葉は華陽夫人を名指しで中傷したに等しい。そこに入ってきたのは段将軍の娘である、段姫であった。
「容華夫人、私のことをおいでで?」
「あら、段姫。私はあなたには言っていなくてよ」
女同士の嫌みに王はため息をつき、それを真っ二つに切るように言葉を発した。
「側室たちの不和は王后への不敬、ましてや王への不敬である」
王后は静かに頷いた。彼女の美徳は口数の少なさと肝心なことは夫である王に発言させることであった。彼女は先代の王后たちがしてきたような「政治干渉」は決してしない人物であった。
それでも容華夫人の口は減らなかった。寵愛がすべてを許してくれるような気でいたからである。
「大王、不敬と申しますが王后様は昔、公主とその生母をおすてになられましたわ。そのような方に不敬などありましょうや」
大王は持っていた杯を容華夫人めがけて投げつけた。幸いにも杯は彼女には当たらなかったが、含香殿に乾いた音が響き渡った。容華夫人はあまりの出来事に硬直してしまった。隣に座っていた李世婦が慌てて彼女に頭を垂れるよう言った。我に返った容華夫人は額を床に着けて謝罪を述べた。反対にいた華陽夫人は顔は神妙だったが、内心は大笑いである。軽率な容華夫人の宮女に景氏の話を吹き込んだのが彼女の仕返しだったからだ。王と王后には申し訳ないが、やられっぱなしは華陽夫人の生には合わないのである。




