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王の娘  作者: 大友うさぎ
寵姫
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華陽夫人

そんな中、含香殿(がんこう)の宮女がいそいそと現れた。含香殿はもう一人の側室である、容華夫人(ようか)の殿舎である。容華夫人は小国、徐国(じょ)の宗女であった。徐国の公主を母にもつ彼女は気位が高く、いささか傲慢であった。

その彼女が何のようであろう。華陽夫人は和之に目配せする。和之は小さくうなずくとすっと立ち上がった。和之は言う。

「含香殿の宮女が何の用だ?」

「はい。明日は公主の誕生日ですので宴席にご出席いただけますか?」

容華夫人には公主がいる。将来は将軍家の嫡男である段光(だん・こう)の妻になるのではないかと言われていた。子どものいない華陽夫人には公主がいる容華夫人が嫌みに思えて好いていなかった。華陽夫人は目を細めた。

「そうか。公主の誕生日はめでたい」

そして冷たい声音で華陽夫人が言った瞬間、宮女に手を引かれた容華夫人がすました顔で現れた。

「寵姫である華陽夫人ともあろう方が誕生日を断るわけ、ないでしょうね」

「容華夫人、妾は何も言ってなくてよ?」

「そのお口が言わなくても、お花の顔が言っていますわ。行きたくない、って」

すると容華夫人は鈴を転がしたような声で笑った。その全てが華陽夫人のかんに障った。容華夫人は続ける。

「そうそう、大王は趙将軍(ちょう)の娘と莒国公主(ろこく)を後宮に召し抱えられるそうですわよ」

「意味がわからないわ。何故、あなたが私にそんな話をするのか?」

「とりあえず、お嫌な顔をされるのをみたくて」

そう言い放つと容華夫人は再び宮女に手を引かせて出て行った。彼女が出て行くまで華陽夫人は表情を変えずに、ただ内心は黒い炎が立ち上っていた。

「夫人………」

和之は心配そうに小さく言うと、その刹那、華陽夫人は高い声で笑った。

「妾の嫌な顔?片腹痛いわ。一番、嫌な顔をしていたのは容華だったわ」

華陽夫人はそういうと頬杖をした。滑らかな白い肌に拳の影が食い込む。

「和之、含香殿の宮女にわざと聞こえるように景氏の話をなさい」

「はい」

和之は夫人の言葉の意味をすぐに汲み取った。容華夫人の宮女は主人の影響か軽率なところがある。先ほどの容華夫人の態度は軽率そのものだ。

「明日、容華に仕返しできるわね……軽率ほど己を傷つけるものはないわ」

「左様ですね……では、私は含香殿に行って参ります」

和之は華陽夫人に一礼すると裙を揺らして綺羅殿を後にした。

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