二人の公主
興武殿の中は槍と刀、そして簡素な机があるだけであった。
「段光」
鴻城公主の呼びかけに段光は丸椅子から立ち上がって拱手をした。頭を下げた瞬間に彼の髪を括っていた紐が切れた。ぱらぱらと髪が落ちてくる。鴻城公主はうっとりとその姿に見入った。
「公主さま、このような醜態をお許し下さい」
「大丈夫よ。段光、座って。私が髪を結うわ!」
「ですが……」
「気にしないで」
段光は丸椅子に再び腰を下ろした。鴻城公主は彼の背後に回り込み、手櫛で髪を整えて器用にまとめていく。小さく団子を作ると自身が挿していた簪を抜き取り、彼の髪へと挿した。
「ねぇ、段光。こうしていると夫婦みたいだわ。いや、夫婦ね。だって私があなたの妻になるのだから」
傲慢な彼女は思い込みが激しかった。しかし、そういう風に育った環境があるから、一概に彼女の性格を悪いとは言えない。
「公主様、その話は……」
「断るの?命令よ!私を抱きなさい!」
鴻城公主が強く言った。彼女は段光の正面に来るとしゃがみこみ、彼の頬を手で包み込んだ。そして間髪入れずに唇を重ねた。誰もいないと思い込んだ鴻城公主の大胆な攻撃だった。しかし、見られていたのである。もう一人の公主、楽好公主に。楽好公主は声を立てないように両手で口を押さえて逃げ帰るように殿舎に帰った。




