二人の公主
公主の存在に気がついた段光は立ち上がり拱手をする。
「腕は大丈夫ですか?」
「腕?ああ、この前の傷ですね。大したことありません」
「その…私のせいで…」
段光は優しく微笑すると怪我をた右肩を動かして見せた。
「弓に長けた沮渠王の矢より、私の体の方が硬いのです」
その冗談に公主は白い歯を見せて笑った。段光は公主のその表情に愛らしさを感じずにはいられなかった。
「そう言えば公主さま、私に何かご用でしょうか?」
「あっ……!私に仕えている花蕊がいなくなってしまったのよ」
「もし、王宮の外に出ていたら……柴尚宮に出入り用の帳簿を見せてもらいましょう」
公主は頷くと二人は尚宮局へと向かった。尚宮局は女官長の執務室で後宮に関する全てを司る場所である。本来、肅には尚宮局の制度はなかった。先代の王后宋氏が自国の後宮を真似て作ったのである。そうすることにより、後宮の采配を王后全てが行うのではなく、小事は全て尚宮局で処理することになる。それだけで王后の負担というものが大幅に減った。
女官長、柴尚宮は尚宮局に植えてある橘の枝を剪定していた。そこに公主のお出ましを伝える声が響いてきた。振り向くと、懐かしい顔があった。もう、名前で呼ぶことの出来ない偽物の姪である。
「公主さま、それに段殿、尚宮局に何か?」
「尚宮、花蕊がいなくなってしまったのよ!もし、外に出ていたら…」
「あの花蕊を王宮に!?とりあえず、お二人とも中へ」
柴尚宮に促されて二人は尚宮局へと足を踏み入れた。机に大量の木簡が目を引く。
「柴尚宮、すまないが出入りの帳簿を見せてはくれないか?」
「はい。こちらに」
段光と楽好公主は柴尚宮に手渡された出入り帳簿を頭を付き合わせて読んでいく。すると気になる人物が公主回宮の前日に王宮から出て行ったことが分かった。
「芸史……容華夫人の宮女だわ」
「公主さまが沮渠王の襲撃を手引き下のはやはり容華夫人!」
二人は顔を見合わせた。その話を聞いていた柴尚宮は公主の顔を不安そうに覗き込んだ。
「公主さまがそんな目に!?」
「大丈夫です。段殿や段将軍が助けてくれました。ご安心ください。私は戦わなくてはならないと決めました。それに私は王の娘です。簡単には死にません」
「公主さま……」
「とりあえず、花蕊が外に出ていないことはわかりました。ありがとう、尚宮」
二人が尚宮局を出ようとした時だった。柴尚宮の部下が慌てて尚宮局に滑り込んできた。




