二人の公主
夜が始まる。公主は中庭で静かに染まりゆく夜空はどこか切ない。控えていた桜児が背中越に声をかける。
「公主さま、冷えますよ」
「ええ……」
振り向くと桜児は柔らかな笑みを浮かべていた。そこに花蕊はいなかった。当たりを見回してもいない。
「桜児、花蕊は?」
「そう言えば見あたりませんね」
花蕊は時折いなくなる。この慎重にならない時期に何をしているのだろうか。公主は桜児に花蕊を捜すように言った。
「花蕊、本当に何をしているのかしら?」
公主も花蕊を捜すことにした。長い回廊を通って上林苑に足を向ける。迷路のような梅園をくまなく捜したが花蕊の姿はなかった。梅園を抜けて武啓門を通り抜ける。この先は武官の詰め所になっていた。王や王子が武芸の稽古で通うことはあるが、公主など女性王族はあまり通うことはない。石畳の広場に足を踏み入れて詰め所を見やる。詰め所には興武殿と掲げられていた。
「武が興る……」
公主は小さく呟いた。詰め所には小さな灯りが揺れている。誰かいるらしい。公主は興味だけで興武殿の戸を開けた。揺らめく灯りのもとにいたのは段光であった。公主の胸が熱く高鳴った。




