邂逅
烏達は器用に駿馬の上から矢を放った。その矢は段光の右肩をかすめた。手綱さばきが乱れたところを狙って烏達は再び矢を放った。
「段殿!私をお渡し下さい!」
「大王の娘を容易く渡せませぬ!」
しかし、背後から迫り来る矢が無情にも段光の右肩に刺さった。乱れた手綱さばきで段光は馬を操れず、地面に体を叩きつけられた。
「段殿!!」
生来、馬を操ったことのない嬛は頭の中が真っ白になった。烏達は駿馬の腹を蹴る。そして一気に近づき、嬛の腰に手を回した。奪うように嬛を無理やり駿馬に乗せた。
「離して!」
「お前が公主」
烏達の顔は野性的で獣のような瞳をしている。嬛はその瞳に耐え難い力を感じた。黒真珠のような瞳には怯える嬛がはっきりと映っている。
「お願い!離して!離さないと」
は手をばたつかせて烏達の腰に差してあった短刀を掴んだ。強引に鞘から短刀を抜き取ると、それを己の首に当てた。
「お前が求めた公主は死ぬ………!」
「なっ!」
嬛が短刀を首に当てて叫んだ。烏達は本能的に彼女が生来の公主であることを感じた。この女は恐ろしいと。
「沮渠王!」
前方から声がした。烏達が視線をやると段将軍が兵を連れて峠を塞いでいた。烏達は聞こえるように舌打ちをする。




