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公主の回宮
嬛は自分が公主であることに戸惑いを感じていた。自分はずっと尚宮の姪でいつかは宮女として生きると思っていたからだ。鏡の前の自分が別な何かのような気がしてならない。王宮から派遣された宮女の桜児が鏡の前から動かない嬛を心配して声をかけた。
「公主様、いかがなさいましたか」
「……公主、私は宮女として生きることが定めだと思っていたけれど」
「まだ、公主様がおかれている立場が飲み込めないので?」
「そうね……」
嬛は指先で鏡の表面をなぞるように触れた。自分の人生がこうも変わったのには何か見えない力が働いたのだろう。その見えない力に嬛は恐怖を覚えた。




