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宝石箱なんていらない  作者: 天嶺 優香
一、次女の結婚
4/41

4

今回短いです。

 思わず、エミリアは手に持ったティーカップを落としそうになる。

 しかし、すぐに持ち直してしっかりと両手で支え、あくまでも冷静に見えるように、ゆっくりとした動作でテーブルの上に置く。

「……妻?」

 そんな事は聞いていないと、怒鳴りたかったが、自分の矜持がそれを許さない。

「正式な妻じゃない。だが、兄は妻として扱い、女も妻として振る舞っている。女に夢中で、お前の事は頭に入っていないんだろうな」

 それをフェドルセンも快く思っていないのだろう。エミリアは小さくため息をついて、全ての感情を流した。

 このままではイーリとの約束を果たせないとか、せっかく何日もかけて来たのにとか。今は何も考えたくない。

「……あなた、国を出るって本当ですの?」

──ただ、この虚無感をどうにかしたくて、他愛もない雑談を欲した。

 フェドルセンはエミリアの真向かいの席に腰を下ろし、テーブルに肘をついて息を吐いた。マナー違反を咎める気力は、今のエミリアにはない。

「まさか、ラガルタにまで噂が行ってたか」

 否定をしない言い方はつまり、肯定という事だ。

「でも、ルドベード様の妻の件は知りませんでしたわ」

「さすがに国の恥だからな。漏らさない様に周りが頑張ってんのさ」

 テーブルの隅に置かれたティーセットからカップを取り、ポットから茶を注ぐ。その所作が態度に反してあまりにも上品で、エミリアは思わず見とれた。

 こぽこぽと軽やかな音を立てて注いだそれを、フェドルセンは骨ばった厳つい指先で掴み、喉の奥へ流し込む。

「……あなたはすぐ出て行きますの?」

 いいや、と彼は器用に片方の口端(こうたん)だけ上げて笑った。

 やけに尖った白い犬歯が、歪んだ口元から現れる。

「ちょっと気になるものができてな」

「気になるもの?」

 ぱしぱしと長い睫を揺らして、エミリアは首を傾げた。

 す、と彼の人差し指が自分に向けられる。

「お前だよ、エミリア」

 じっとりと、やけに耳に響く声で言われて、エミリアは抵抗もできずに顔を赤らめた。逆らえない何かを、エミリアは彼から感じた。

 すぐに自分を取り戻し、エミリアは笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

「……名前で呼ばないでとお願いしたはずですわよ、フェドルセン様」

 ごまかす為に冷たく言葉を吐いたが、彼は騙されただろうか。

 フェドルセンはエミリアに恋慕を抱いて止まるわけではない。面白いおもちゃの様に見ているのだと容易にわかる。

 兄の妻になる女に向ける感情では決してあってはいけないものだ。やはり無礼な男だと不愉快に思いながら、ため息をつきながら言葉を返す。

「あなた、とっても暇人のようですわね」

 ティーカップに入った紅茶を飲むが、もう香りが飛んでいて、味がわからなかった。

アレクサンダーはゴールデンレトリバーのつもりで書いています。もふもふ。

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