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 建築物は余剰していた。等比級数的に死者が増加して、街から人影が消えたからだ。大都市、居並ぶアーケード街、金融街、いくら爆破したところで、金輪際使われもしないあまりものがこわれただけだ。人に当たらなければ痛手とは思われない。今や、多くの人がそう思っている。

 グレーテがそう言ったところを、僕はたしなめた。建築物への爆破攻撃は、陣地への侵略だ。陣地を狭められれば、水源地を奪い取られる可能性も高くなる。

 水源を失った民族は……民族、という言葉は意味をもはやほとんど喪失し、その土地に住むグループ、というくらいの意味しかなかったが……、ひからびて滅亡する以外に道がないのだから、侵略攻撃は防がねばならない、あるいは反撃をしなければならない。

 水源は絶対に奪われてはならない。

 それ以前に、建築物は、この民族の遺産だと僕は感じていた。遺産は、財産だ。僕らのものを傷つけられるのが僕には耐えられなかった。

「ツァラ、今だけを見ていてはだめ。明日、明後日のことまで見透かせるようにしないと」

「……って、カーが言ったんだな?」

「そうよ、彼が言ったの。あなたって街が攻撃されると、すぐ逆上するんだから」

「当たり前だ、最先端技術の設備が入ってる研究所だってあったんだぞ。それが、動かせるもんが誰もいないからって、放りっぱなしになってんのを、息の根を止めるみたいに爆撃してきたんだぞ。他の建物にだって……」

「ああ、わかったわ、わかったから落ち着いて。ツァラ、あなたは過去を見過ぎているのね」

「建築物だって、人間だって、破壊されるのは過去だろう」

「未来だって破壊されるのよ、特に人間は。ああっ、もう、じれったい。カーは要はね、戦略を立てろって言いたいのよ、たぶん」

「戦略?」

「ツァラってすぐ頭に血が上って反撃行動しようとしちゃうけど、どうしたら最も効率よく水源を守れるかを考えて動けって言ってるのよ」

「水源確保くらい頭に入ってる」

「ばかっ。最も効率よくってのは、どれだけユニットが撃破されずにいられるかって事よ。カーはあんたの心配をしてるの!」

 僕はカーの蛇のような視線を思い出した。僕はとてもあんな風にものを見られない。

 それでも、僕の父であり兄弟であるカーが自分の心配をしているというのは、ありそうなことだと思った。

「わかったよ。他のユニットだって損失しないほうがいいに決まってるしな」

「その言葉が今更出てくるツァラが変わっているのよ」

 命令違反は重罪、軍の基本的な規律であるが、あまりに人数が減りすぎて、規律と言うよりは時々頼る慣例みたいになっていた。

 僕のように、比較的自由に動くユニットも存在してはならない、ということにはならなかった。それでも命令は来る。共同作戦であるとか、単身での偵察であるとか。

「で、カーに報告するのかい? 例によってツァラが一人で勝手に報復攻撃を企てていますって」

「そこまで考えてるなんて今聞いたわよ」

 グレーテが青ざめた。

「あなたの事だから、ちょっと本気なんでしょ。ねえ、やめて。危険に一人で突っ込もうとする、その癖」

「けっこう本気だよ」

 グレーテはこめかみを指で押さえた。

「わかるでしょ……民族も人数が二桁になっちゃって、誰か一人でも戦死したら痛手なのに、あなたが……あなたが死んでしまったら……」

「そうしたら、カーに報告すればいい」

「嫌よっ、そんなの!」

 僕がグレーテとカーを茶化したのに対して、グレーテは色をなして怒った。

「小さい頃、絶対ねって約束したじゃない! ずっと三人でいましょって! 三人で、世界の最後の最後まで生きてやろうね、って!」

 僕は青い空を見上げる。

「そんな約束」

 したっけなぁ……




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