15
相手を見つけた時間差の分、僕が撃ち勝った。敵もまた僕を撃ったが、僕に撃たれたせいでその弾道はあらぬ方向へと逸れていった。幸いナタナエルに当たることもなかった。
ナタナエルは瞬時に周囲へ銃口を肩ごと回して向け、追撃者のないことを確認すると、僕に叫んだ。
「撤退だ」
僕は即座に反応できなかった。人を撃った衝撃が、体中で千々に砕け、細やかな震えが満遍なく全身に行き渡っていた。
ナタナエルは僕の首根っこを引っ掴んだ。
「退くぞ。来い」
その、ナタナエルの手の感触で僕は我に返り、動けるようになった。
僕らは走った。追手がいないか周囲に気を配りながら、と言うよりは、追手の恐怖を振り切るように。
市街地の中心部よりもキャンプに近いところまで来て、僕らは立ち止まった。息が盛大に切れていた。
ナタナエルは肩を上下させながら、僕の背をぽんと叩いた。
「な、分かったろ、単独行動は、控えろって」
僕は諭されたのが気に入らなくてむくれた。
「小銃を持っても家族を忘れず、いつでもちゃんと帰る気持ちで。ストローフェ族も二十五人になってしまって、もう一人も欠くことはできないんだから」
「家族ってったって、本当の家族が残っている者なんて、いないじゃないか」
「お前なあ、そういう事言うなよ」
ナタナエルは苦い顔をした。
「そりゃ、家族が生き残っている奴なんていないよ。みんな、ばらばらさ。お前だって実際の家族は、生まれてすぐに死んでしまっているだろう。だから生き残った人たちの間で、義理の家族を作っているんじゃないか」
「そんなにせものの家族なんか必要ないって言っているんだ」
「そうかい。お前があの冷静なカーの弟をしていて、得だなあ、いいなあと思ったことならあるけどな」
「言うなよ……。僕は、できるものなら、義子の契りは解消したいんだ。義兄弟はともかく」
「解消、するなよ」
ナタナエルが彼にできる怖い顔の中でも、特に怖い顔をした。律儀で正直な彼は、言いたいことの真剣さの具合によって、数段階の怖い顔を作ることができるのだ。
「家族ごっこなのは事実だが、その家族ごっこは、いつか家族を作るんだっていう夢を担保しているんだ。はみだしもんが出たら、せっかくの夢が覚めてしまうだろ」
「夢なんだったら覚めてもまた見ればいいんじゃない」
あまり言いたくないが、と言い置いてからナタナエルは反論した。声が低く、控えめだが凄んでいるのが分かった。
「実際、いつか家族を作る、生殖的な計画の片鱗でもあるはずだ、家族ごっこはな。残り二十五人で何が起こるか、誰にも予測がつかん。古い倫理は滅びるだろう。その時に、最低限の倫理として残るのが、義家族の繋がり方だ。カーは偽善者ぶってやってるんじゃない、戦闘の次のことを考えているんだ」
僕はうんざりして手をひらひら振った。
「わかってるよ。だから解消、してないだろ。僕はカーの息子であり弟さ」
「本当にわかってるのか」
キャンプが近くなってきた。もうさすがに安全だろう。僕ははあと息を吐いた。
「どうだろうなあ。子孫を作るためと言っても、あんまり複雑な婚姻関係を作るのって、気分的に耐えられないんじゃないかなあ」
「じゃあ、どうするって言うんだ」
「どうもならないと思うんだ、僕は」
ナタナエルは一瞬、歩みを止めた。
「スタンツェにやられなくっても、そう遠くない将来、ストローフェは滅びるんじゃないのかな。まあ、今日明日のことじゃないし、今日明日だったらスタンツェの攻撃のほうが危険だし、せっかくならスタンツェが先に滅びてくれる方を願うけど。向こうだって、どうせ似たような状況なんだろ?」
「推測では、まあ」
彼も安心したのだろう、ナタナエルはヘルメットをかぶり直してその緒を留め、空を仰いだままで言った。
「お前がそんなふうに考えていたなんてな」
「別に、詮索してもらう必要はないよ」
じきにキャンプが見えてくる。ナタナエルは空を仰いだまま、ぼんやりと言った。
「他の地域の民族は……他の人類は、どうしているんだろうなあ」
それは、わからなくなって久しいものだった。最後の燃料を買ってしばらくしてから、ストローフェとスタンツェは外界との交信が不可能になってしまったのだと言われている。それはもはや、六年近く前のことだった。
「……きっと、同じようになっているんじゃないのか。水源がなければ、水を争うし、水源があっても、それだけで生きながらえられるとは思えない」
他の場所、他の人間との交流の破滅。
僕らの破滅は、抗争自体より、この瞬間にこそ始まったのではないかと僕は思っていた。




