1-9 敵か味方か
「邪魔だ」
初めて聞く声だった。
俺達と同じ学校の生徒だろうか? 同じ制服を着た男が俺達の間に割り込んで来た。
狂った男は狙いを変え生徒の方に襲い掛かる。
物凄い速さで突っ込んで来た狂った男を生徒は意図も簡単に止めた。
生徒の右手は狂った男の頭を掴んでおり、妖刀が生徒に当たることは無かった。
「燃え尽きろ」
生徒は静かにそう言った。
狂った男は一瞬炎に包まれたかと思うとすぐに跡形も無く燃え尽きてしまった。
後には妖刀と鞘、そして認識票が地面に残っていた。
手も触れていないのに妖刀と鞘が浮かび上がり妖刀が鞘に納まった。
「この刀は神代家で預かる。お前の家にそう言っておけ」
そして生徒は何かを思いついたように言った。
「……お優しいお前が認識票を遺族に届けてやるんだな」
楓にそう言い残し、生徒は妖刀を持って何事も無かったように去って行く。
一体何者だろう?俺にそう問いかける力はなくそのまま意識を失った。
後には俺の名前を呼ぶ声だけが響いていた。
俺は寮の自分のベッドで目を覚ました。
時間は真夜中で日付の変わるころだ。
気を失う前の記憶が蘇り右腕を押さえる。
右腕は……あった。しかもなぜか動かせる。
肩から包帯で吊られていたがなんだか嬉しくてぐるんぐるん回してみようと……。
「ハル取れるわよ!」
寸前の所で姉さんに止められた。
「心配したんだから! 斬り口がとても綺麗で簡単にくっついたみたいだけど朝まで、動かしては駄目よ!」
朝になったら動かせるという言葉に能力者の凄さを改めて実感した。
「この子はずっと貴方に着いていたわ」
楓が横で椅子に座り、ベッドに覆いかぶさるように寝ていた。
楓の顔に掛かっていた髪をずらし顔を触っていると楓が目を覚ました。
「うーん。あ、ハル君! 気がついたのね? 大丈夫? 右手痛くない?」
楓が心配そうに俺に声を掛ける。
「大丈夫、痛くないよ。姉さんの話だとすぐ直りそうだし心配しなくて良いよ」
俺はちょっと照れくさかったので強がりを言ってみた。
「僕のせいで本当に御免なさい。妖刀は神代家が持って行ったけど、これ以上で被害はでないはずだから一応解決したの。改めて御礼を言わせてね、ありがとうハル君!」
深々と頭を下げる楓に一つ気になったことを聞いてみた。
「神代家って何だ? 同じ学校の奴みたいだったけど?」
「神代家は強い力を持ってる能力者の一族ってことしか僕は知らないんだ。あそこに現れたのは僕達と同じ同学年で神代帝、学年最強の能力者って言われてるよ」
あの力を見ると十分納得できる事だった。
「僕の家は神代の名前を聞いてあっさり妖刀のことは諦めたみたい」
人をあれだけ強くする道具だ、危険な物だが価値はあるのだろう。
でも事が公になればそれどころではなくなるかもしれない。ニュースにもなってた様な気がするし、秘密裏に解決したってことで妥協したのかもな。
まぁ俺には関係の無いことだった。
「今回僕はハル君にとても迷惑をかけちゃったんだ。何か困ったことがあったら、今度は僕が助けるからいつでも言ってね!」
俺は今丁度困ってたことがあったのですぐに頼んだ。
「お腹が空いたんで何か食べる物を下さい!」
材料は実家から送られてくるのでたくさん在り、楓はそれを使いすぐに料理を作ってくれた。
出来上がった料理は素晴らしいできだった。
俺の作る料理とは雲泥の差だった。もう俺、作る気無くなっちゃうよ……。
「冷蔵庫に高級な食材とか見たことも無いお肉とかあって、腕によりをかけて作ったよ!少し作りすぎたかもけど、ハル君食べきれるかな?」
俺になら簡単に食べつくせる量だ、心配ない!
ここで一つだけ疑問が沸いた。とても重要なことだ。
包丁無いのにどうやって作ったんだ?まさかさっき腕を斬った刀で作……。
これ以上考えるのはやめよう。食事を楽しめなくなる……。
思考を停止し無心で食べようとするが、右手が使えずことのほか食べにくい。
そして楓の魔の手が伸びてくる!
「食べさせてあげるね! はい、あーん!」
とんでもなく恥ずかしい。
後ろで姉さんがお腹を抱えて笑っていた。