1-8 窮地
昼食を終えた俺達は島を出て橋を渡り繁華街に出てきていた。ビルが立ち並び、道行く人々も学校内とは違い普通の私服の人ばかりだ。ここに来た理由は楓のお願いが街中で探し物を手伝ってほしいという事だったからだ。
「それにしても、街中で一体何を探すんだ? 俺に手伝えることなんてあるのか?」
銃の腕前がどうとかいってたからきっとろくなことじゃないと思うが聞いて見る。
「えーとね、探し物は僕の家から盗まれた刀なんだ。妖刀・村雨って呼ばれる物なんだけど、手に取った者は正気を失い人に襲い掛かってしまうの。だからハル君が危険だって思う所に連れて行ってね。そしたらきっとそこに妖刀があると思うの!」
「お腹が空いたし帰ろうか!」
君子危うきに近寄らず、俺は即効帰ろうとした。
後ろに振り向き戻ろうとするが、楓に腕を掴まれ反対方向へ引っ張られた。
「お願い、さっきおすすめのパンをいっぱい食べたでしょ?」
やはり接待だったらしい。
もう食べてしまった俺はしぶしぶ妖刀探しを始めた。
「盗難なら警察とか専門の機関に任せた方が良いんじゃないか?」
街中を歩きながら疑問に思ったことを聞いてみた。
「妖刀を持つと一般人でもとても強い力を使うことが出来るようになるの。それこそ能力者みたいにね。僕の家で管理してた手前、できれば穏便に回収したいの。親からは危険だから手を出すなと言われてるけどね」
俺は自分の家の為とか考えたこともないけど「姉さんの為に!」と置き換えたときそれはとても納得のいく物に思えた。
そろそろ諦めて帰ろうかと思えるほど辺りが暗くなった頃、見つかって欲しくなかった物が見つかったようだ。
「ハル、この先の右に曲がった場所がとっても危険よ。たぶんここにあると思うわ。でも、もし妖刀が見つかっても絶対に近づかないでね。私はハルの体だけが心配なの!」
姉さんの話し方だとこれはかなり危ない。
いつもなら避けて通るところをあえて進んでいく。
「楓、たぶんここを曲がった先に妖刀があるはずだ」
楓が俺の前に出で、辺りを警戒する。
「さっきは銃の腕前を期待してるとかいったけど、ハル君は危険だからここまでで良いよ。本当にありがとう助かったよ!」
ここで帰るのは簡単だが人としてそうもいかない。
「一応後ろで待機して、邪魔にならないようにしとく!」
はっきりいって居ない方が良いかもしれないが俺は後ろから着いていくことにした。
「危ないと思ったら僕を置いてちゃんと逃げるんだよ?」
楓は全然期待してないみたいだったが少し嬉しそうな声に思えた。
そしてそこを曲がった先、三十メートルほど前方に妖刀はあった。
目は大きく見開き、口からは黒い息を吐いて、肌はどす黒い。
明らかに正気を失った男が右手に妖刀、左手に鞘を持って立っていた。
「やっぱり正気を失っているね。悪いけど……少し痛くするね!」
楓は俺と戦ったときのように居合いの構えを見せる。
「ひゃっはあああああー!」
狂った声を上げながら妖刀を持った男が楓に飛び込んでくる……が、その前に楓は行動していた。
すでに狂った男の右肘から下が妖刀ごと切り落とされていた。
しかし痛みを感じないのか血を流しながらもまったく怯まず、斬り落とされた妖刀を口で銜え拾い上げた。
そのままゆらりゆらりと少しずつ楓に近づく。
楓は動揺していた。
狂った男を止めるのに今度は首を落とすのか? しかしそんなことをすれば狂った男は死んでしまうだろう。
躊躇していた楓に、狂った男が勢い良く走りこんでくる。
「駄目……できない……」
楓は攻撃できなかった。躊躇していた楓は反応が送れ妖刀を避けれなかった。
「ハル! やめて!」
姉さんの制止を振り切り……俺は楓を庇っていた。
今度は狂った男のとは違う血飛沫があがる。
俺の右腕が斬り飛ばされていた。
そして狂った男は飛び込んだ勢いのまま俺達とすれ違いまた三十メートルほど離れた。
「ハル君? どうして!」
「ハル! しっかりして!」
楓は俺を抱えて問いかける。
その傍らで姉さんは悲しそうに俺を見つめ名前を叫んでいた。
狂った男が振り返り、止めを刺しに向かってくる。
楓は混乱し、泣き叫びながら俺の名前を呼ぶだけだった。