1-7 接待
「はぁ、この帽子お気に入りだったのになぁ……」
俺が銃を撃ったせいで楓の帽子は被るのは躊躇する状態になっていた。
「いやいや、帽子を被らない方が綺麗な髪が見えて良いと思うよ!」
俺は帽子を破った事を咎められたくなかったので、今まで見えなかった肩位まである髪を誉めてみた。
「そ、そうかな?」
ただの言い訳だったが上手く誤魔化せたようだ。
このまま話題を変え昼食を取ることにした。
楓がお勧めする購買のパンを仮想画面を表示して検索してみた。
俺の食をそそる芳ばしい香りがする焼きたてのパンが紹介されていた。
「この丸いのがおおすめだよ!」
とても美味しそうだったのですぐに購買へ向かった。
そして楓の言うパンを多めに、それ以外も山のように買い込んだ。
天気が良かったので外で取ることにし、丁度良く広場のベンチが空いていたのでに座る。
能力者の学校はとにかく広い。
よく破壊活動もとい、訓練による事故があるからだ。
あれ、言い直したのに悪くなってる?
多めに施設を作り、常に修理することで場所を確保しているらしい。
まぁそんなことよりパンを食べるほうが重要だ。
「これ本当においしいな!」
「でしょー? 食べて食べて!」
なんだか接待されてる気がするが美味しいので気にせずに食べ続けた。
「ハルは騙されやすいタイプね……」
姉さんの呆れ声を聞こえない振りをして誤魔化した。
そしてそれ以外にも話し声が聞こえてきた。
友達かな? 二人の生徒が同じように昼食を食べながら話していた。
「お前ダセーな、人形遊びに負けるとか」
「うるせー、まともにやったら負けないって! クソッ、姑息な手段で不意打ちみたいなことしてきやがって」
「これで今回の評価は絶望的だな、あんな使えない道具に負けたしな!」
「次やったら絶対勝てるし、納得いかないわー」
話の内容はともかく少し前の俺なら友達同士会話することを羨ましいと思っていただろうな。
しかし今の俺は友達と昼食を食べている!
こちらも負けないように? 話をしようとしたらすでに隣に楓はいなく、生徒二人の方へ歩み寄っていた。なぜか抜刀して。
そして生徒達が座っていたベンチを目にも留まらない速さで斬り裂いた。
恐ろしい、俺との試合より明らかに早かったし。
生徒二人は地面に尻餅を着く。
「……陰口は駄目よ?」
楓は威圧的な声で警告し、戻ってきた。
生徒二人は逃げるように楓とは逆に去って行った。
「さぁ、気を取り直して食べましょー!」
楓の前で他人の悪口を言うのは止めとこう……。
今起こった事を見なかったことにして、明後日の方向を向く。
今度はモクモクと煙が上がっている所が目に付いた。
キャンプファイヤーかな?
「ハル違うわ、お肉の焼ける匂いがするからきっとバーベキューよ」
「姉さん、学校でテスト期間中のお昼にバーベキューはあまり無いよ!」
「じゃあ何かしら?」
「能力者同士の対戦中にきっと肉が焼か……なんでもないよ姉さん」
「そう? 中々美味しそうな匂いね」
「そ、そうだね姉さん。きっと美味しいバーベキューなんだね……」
今度から外で食べるのは控えよう。
そして何も見なかったことにしてパンをかじる。
「ハル君ってたまに変な行動を取るのが怖いわ……」
楓も何かを見なかったことにして、パンを食べていた。