1-38 奥の手
最下層はとても暗く周りにはいくつもの大きな四角い機械が並べられ、データセンターのような場所だった。
その中を通り一番奥の扉を開け部屋の中に入る。
部屋は薄暗かったが一歩進むと証明が照らされた。
壁も床も白で統一され、中央には透明な硝子の様な箱があり、その中は薄い緑の液体で満たされていた。
そして体のほとんどが機械で出来ている小さな子供が液体の中に浮いていた。
「それが本当の体か」
「あんな小さな子を実験に使うなんて……」
「神代帝だけじゃなくて犬飼楓まで来るなんてね。ハルは貴方が分からないのになぜそこまでするのかしら?」
どこからともなく冷たい声が聞こえた。
「ハル君は分からなくても、僕はハル君が分かるからだよ!」
楓は震える体を抑えて気丈に振舞っていた。
「ああ、分かったわ。ハルすんごく上手だったでしょう? 私が教えたのよ」
「やめて……」
これ以上無いというくらいの侮辱。
「貴方に優しくしてあげなさいって言ったのも私よ」
「やめて!」
楓と晴彦のこれまでのことを全て否定する事実。
「ハルは私のいうことなら何でも聞く従順な子犬。貴方も犬だったかしら? お似合いだったわね」
そして聞くに堪えない挑発が楓の心を揺さぶる。
「もうやめて!聞きたくない!」
楓にとっては耐えられない事だった。
「こんな奴と話をすることは無い。燃え尽きろ」
帝が火を放つ……ことはできなかった。
「ここは私の空間。認識票が無くても幻覚を見せれるわ」
あたりを漆黒の空間が包み込む。同時に制服姿の神無月深雪がそこに現れた。
「ここは俺に任せろ。下がれ」
帝は鞘から刀を抜き出し、鞘を楓に渡し下がるように命令した。
それは晴彦の右腕を斬った妖刀・村雨だった。
「貴様は妖刀で狂った人間を操ることはできない」
帝は村雨を構えそのまま硝子の箱に斬りかかる。
ババババン! 銃声が鳴り響き、帝は横に吹き飛ばされた。
刀は帝の手から離れ、更に遠くへ飛ばされる。
「現実の武器もあるのよ」
その刹那、帝の後ろから楓が自らの刀を抜き勢い良く走りこむ!
楓の目は大きく見開き、口からは黒い息を吐いている。あの妖刀で狂った男のように。
刀で硝子の箱を斬り裂く、が刀は折れてしまった。
だが硝子の箱は砕け、同時に漆黒の空間に亀裂が入る!
液体が流れ出し、ついに深雪本人に手が届く。
楓はその短くなった刀でかまわず深雪本体に斬りかかった!
…………しかし刀が深雪本人に届くことは無かった。
「ドウ……シテ……?」
制服姿の深雪は光の粒子となり、はじける様に消え去った。
漆黒の空間も硝子のように砕け散った。
「強情な女だ。ここまでされても殺せないとはな」
帝は狂っていたはずの楓から鞘を取り上げ燃やし尽くした。
「悪いが……燃え尽きろ」
そしてその場にあった全ての物が灰になった。
小さな子供も含めて全てが……。




