1-24 暗躍
学校寮の部屋についた……瑠璃の。
理由は姉さんに「今日は寮の部屋に帰っちゃ駄目よ。危ない予感がするわ」と言われたからだ。姉さんはそう言い残しどこかへ行ってしまったので、行く当てのない俺は瑠璃に頼み込ん
で泊めて貰えることになったのだ。
特性スープを食べきったことで好印象? だったのと今度何か怪しげな仕事を手伝うということでなんとか了承してもらえた。怪しげな仕事が詐欺以外思いつかなかったがそれを言うことはできなかった。
「おじゃましまーす」
「あんまり汚さないようにしてよ!」
間取りは俺の部屋と同じだ。当たり前といえば当たり前か。
ただなんとなく好い匂いがする。全体的に乙女チックな感じの部屋だな。
熊の人形とかたくさんあるし。
他には写真だろうか? 二人の子供が写っている物がある。
「あんまりじろじろ見ないでよね!」
そんなつもりは無いのだが注意されてしまった。
椅子に座り出されたのは水道水だったが、一息ついたところで瑠璃が説明を始めた。
「次の対戦相手は強いわ、できれば棄権しなさい」
いきなり棄権を進められた、そんなに危険なのか。
「これまでの対戦相手は重症か死亡。能力が強すぎるのね」
ああ、屋外になったのは能力が強すぎるからか?
「昔は思いやりのある優しい人だったんだけど、この学校に入る少し前からおかしくなったの」
少し話し方が変ったような気がする。何か思うところがあるのだろうか。
「どうしてか無慈悲で残酷な人になっちゃった」
「昔からの知り合いか?」
「え、ええ。家同士の付き合いがあってね。小さいころはいっしょに遊んだこともあるわ」
「やっぱりトランプ?」
「そんなはずないでしょ、花札よ!」
暗い雰囲気を明るくしたかっただけだが、そこはオママゴトとか言ってほしかった。
しかもトランプも花札もあんまり変わらないと思うのだが。
「話がそれたわね。もし戦うとしたら火に気をつけなさい」
瑠璃が説明を続ける。
「自身の周り二メートルほどは身動き一つせず焼き尽くすことができるから接近しちゃ駄目。あとは両手から火を飛ばしてきて、あたり一面火の海になるわ。学校に入る前でこれだから今はもっと凄いと思うわ」
「近づくのは厳禁、離れても火が飛んできてしばらくすると火の海に飲み込まれる……か」
これは相当厳しい試合になりそうだ。
「そういうことになるわね」
「離れた所からの銃弾とかはどうなるだろう?」
「体に触れる前に燃え尽きるでしょうね」
「お腹痛くなってきた」
「大丈夫? 何か悪いものでも食べたのかしら?」
「悪いものは食べたけど今はそういうことじゃなくてですね……」
「分かっているわよ、冗談よ。まぁ始めに言った通り棄権するのが一番だと思うわ。得意の姉さんに聞いてみたらどうかしら? 何か教えてくれるんじゃない?」
「今姉さんはいないんだ。こんなことめったに無いんだけどな」
本当に姉さんはどこへ行ったのだろう?
「へぇそうなの? まぁいいわ。情報は以上よ。」
これまでの話で一人思い当たる奴がいた。
「対戦相手ってもしかして神代帝?」
「そうよ、知ってたの?」
「少しだけね、あいつは強そうだったなぁ……」
「それじゃあ、私はお風呂に入ってくるわ。私の後に入ってもいいわよ。入ってる間は大人しくしてるのよ?覗いたら殺すわ!」
それにしても今日あったばかりの人間を普通、部屋にとめたりお風呂に入ったりするだろうか?
誘っているのだろうか、いや信用されてるのか。俺の姉さんに対する愛を信じてるんだな。
それならすべて納得できる、十分すぎる理由だった。
馬鹿なことを考えて現実逃避してみたがいつもの姉さんの突込みが無いので調子が出ない。
はぁ、明日どうしよ。今度こそ死んじゃうのかな?
たとえ姉さんの予知で回避したとしてもそのまま火の海に飲み込まれるだろう。何も良い案が思いつかないまま、俺はウトウトしてしまいそのまま朝まで寝てしまった。
「ターゲットは二十時に帰宅。二十三時に消灯。そのまま外出していない」
「了解。予定通り午前零時丁度に作戦を開始する」
暗く、静まり返った部屋。寝息だけが聞こえた。
そこに特殊部隊のようないでたちの、暗視ゴーグルを付けた侵入者が晴彦に忍び寄った。
ベッドで寝ていた晴彦の口を塞ぎ、手と足を拘束した。
そして暴れる晴彦を黒い大きな袋に入れ抱えあげた。
侵入者はそのまま窓を開けベランダに移動し、下で待機している仲間に晴彦を渡そうとした。
しかし有り得ない事が起こった。
抱える袋がいきなり軽くなり、拘束されたはずの晴彦がベランダの手すりの上に立っていた。
侵入者は晴彦に飛びつき、二人いっしょに外に飛び降りた。
そのまま手すりにフックを掛け、ワイヤーで速度を落としながら下へ降りようとした。
しかし、しっかりかかっていたフックはなぜか外れそのまま侵入者は落下した。
地面に激突し鈍い音がする。ここは五階、能力者なら死にはしないが重症だ。
そこに晴彦の姿は無く、動けない侵入者を仲間が回収しそのまま逃亡した。
「面倒な事になりそうね……」
誰もいないはずの部屋に晴彦の姉の声が静かに響いた。




