1-13 意外な結末
拮抗していたそこにある劇的な変化が訪れた。
さとりはうつむきながら先ほどまでの凛とした声とは打って変わって、消え入りそうな弱々しい声で話す。
「参りました。私の負け……です」
さとりのいきなりの降伏、あれ俺勝ったの?
しかしあの機械のような声の勝利宣言は聞こえない。降伏は認めないらしい。教師の説明では死ぬまで戦え見たいな感じだったしな。
「それも何かの策略か? 俺はもう油断しないぞ!」
一応銃をさとりに向ける。でも本気で降伏しているような感じなので少し気が抜けちゃったわ。
「お願い……します。私の負けでいいですからここから出して……下さい」
さとりが泣きそうな声でガタガタと出入り口を揺らしている。
逃亡も認めないらしい。この場合はどうすればいいんだ? 無抵抗の人間を撃つ事はさすがに避けたい。
「傀儡も操作しません。お、お願いします……」
傀儡が力なく壁にもたれかかる。
「お願い、お願い……」
もう警戒も何も無く、俺の脚にすがりながらさとりは泣いている。
絵的に俺が悪者みたいなので、とりあえず泣き止んでほしいな。
ここで俺に名案が浮かぶ!
「チョコレート食べる? キャンディーもあるよ?」
先ほど大量に買って置いた物だ。
パン! 俺の頬には小さい紅葉ができていた。
銃で撃たれたよりも痛い、直接撃たれたことないけど。
しかもチョコレートもキャンディーも取られた。
まだ泣いてるし、踏んだり蹴ったりだ。
さとりはうつむいて泣くばかりでどうしようもない。
万策尽きた俺は姉さんに助けを求めた。
「姉さんどうしよう?」
「困ったわね。そうだわ、行動不能っていうので縛ってみたらどう?」
さすが姉さん、俺とは違う。
ベルトを外し、さとりの手を縛る。死人に鞭打つようで心が痛い。
「はやく……して? もう我慢でき、ない……」
……まだ駄目か。ネクタイを解き、さとりの足を縛る。
ここでようやく機械のような声で俺の勝利宣言がされた。
さとりはガクガクと震えている。
「おねが……い、見ない……で……」
しかし時すでに遅し、間に合わなかったようだ。
さとりは声にならない声を上げながら……。
「あ、あっ、あ……。~~~っ」
そこには小さな水溜りがあった。
そりゃ降参するわ。
ずっと泣いていたさとりの拘束をすぐに解いてあげる。
さとりは勢いよく訓練室を飛び出していってしまった。
「はぁ……」
勝利の余韻も何も無く、ため息だけがでてきた。
傀儡どうしよ。やっぱ持って行って上げないとだめだよね。
重そうだなぁ、一人だと厳しいかな?
「お疲れさま! 勝ったみたいだね!」
ただ一人の友達がねぎらいに着てくれた。
「丁度いい所に着てくれた、これ運ぶの手伝っ……」
姉さんすら予知できないことが起きた。
微妙なバランスで立てかけられた傀儡が俺と重なるように倒れてきた。
「ハル!」
「ハル君!」
俺は水溜りの中に倒れこんだ。
その水溜りは徐々に色を変え先ほどとは違う水溜りが出来上がった。
赤い水溜りが。
風はもう止んでしまったのか、雨だけがしっかりと降っている。
まるで何かを覚悟するように。
「おなかすいたね、おねえちゃん」
「そうだ、チョコレートがあるわ」
「わーい、はんぶんこしようね、おねえちゃん」
「わたしはだいじょうぶ、あなたがたべていいわよ」
「ほんとうにいいの、おねえちゃん?」
「ええ、ゆっくりすこしずつたべるのよ」
まだ姉と弟がいっしょにいた時の事。最後に過ごせた時間……。




