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心握術師は今日も電波を拾う  作者: 三谷 景色
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3人目の勇者は今日も二人の勇者に振り回される

「あちらにおられます方々が、ここアルシュタイン王国を治められていらっしゃる国王様と王妃様でございます。これより謁見を行いますので、わたしについてきて下さい。詳しい説明はそこでいたしますので」





先ほどリアーナと名乗っていた少女の言うとおり、オレ達の召喚された大広間の奥の方に、玉座と思われる豪華な椅子に、二人の男女が座っているのが見えた。






おもむろに歩きだしたリアーナにオレ達は言われた通りついていくと、さっきまで微妙な空気に支配されていた大広間にも、徐々にざわめきが戻り始めた。











「いきなり奇声があがってびっくりしたが、とにかく成功してよかったな」

「きっと、突然のことで戸惑っていたのだろう。無理もない」

「見ろよ、やっぱりどことなく強そうな雰囲気があるぜ」

「見て!!あの勇者さまかっこよくない!?」

「ようこそ勇者さま!!どうかこの国を救ってください!!」

「勇者!!勇者!!」










なんか急に盛り上がり始めたな。


そこらじゅうで勇者コールが巻き起こってる。






まぁ、無理もないか。







本当だったら、オレ達の姿が見えた瞬間にワッ!!ってなるはずだったんだろう。








それがどういうわけか、先に勇者本人がワッ!!てなっちゃったんだもんな。







・・・ていうか、そもそもオレって勇者じゃないんですけどね。



こいつら二人に巻き込まれただけだし。








そこでオレは一緒に召喚されてきた二人の方をちらっと見た。









オレの左隣を、背の高い金髪の男が歩いている。



さっき勇者召喚の意味を理解していなかった奴だ。




何かスポーツでもやっているのか、体はがっちりしていて、姿勢を正して堂々と歩いている。


なぜか金髪なのに全然チャラい感じがしない。




なんていうか・・・イケメン?


そうイケメンだ、こいつ。




もうこれでもかって言うぐらいイケメンオーラを発している。


さっきから聞こえてくる黄色い歓声は、ほぼすべてこいつに向けられたものだろう。






腑に落ちないぜ・・・




なんで勇者召喚の意味も分かんない奴が歓声受けてんの?




ていうかそもそもなんで勇者召喚の意味が分かんないんだよ!


「勇者」の「召喚」、そのまんまだよ!






・・・まぁ、一目見ただけじゃこいつがバカなのかどうかなんて、普通の人には分からないしな。



こいつもうまく擬態してる。




なんだその知性を感じさせる精悍な顔つきは!!


アホのくせに紛らわしい・・・。




まぁ、それはまだいい、まだ許せる。


こいつの一番ダメなところは・・・























(ハハハ、沸いとる沸いとる。やっぱりオレが道を歩くだけで、民衆は盛り上がるんだな。まぁ、あれだしな。オレってイケメンだしな。なんていうか、かっこいいは正義・・・みたいな?でも、つらいわ~。周りの歓声にいちいち笑顔で応えないといけないのつらいわ~。顔がいいって言うのも、こういう時困るわ~。いや、マジで。)










・・・うぜぇ。



誰と話してんだよ、お前!!


ていうかナルシストかよ!!




こういうイケメン主人公ってふつう自覚ないんじゃないの!?


なんかこいつが周りにふりまいているさわやか笑顔が急にわざとらしく見えてきた・・・。










そしてもう一人、そいつのさらに左隣を中肉中背で黒髪の男が、あくびをしながらポケットに手を突っ込んでたらたら歩いている。




こいつは「めんどくせーことに巻き込まれちまったぜ」みたいな雰囲気を出しながら、心の中では歓喜のあまり涙を流してた奴だ。


これといった特徴のない感じだが、よく見るとなかなか整った顔立ちをしている。





その「かったりー」みたいな眠そうな目をやめて、制服の着崩しを直し、寝癖のひどい髪を整えたら、普通にハンサムじゃね?






・・・なんかわざといろいろ崩してる感じがするな。




いるいる、こういう奴。





例えるなら、昼休みに意味もなく屋上に行って寝ころがったりしてる感じのちょっと痛いキャラの奴だ。


髪ボサボサにしていつも眠そうにして、そういうオレかっこいい、みたいな。





・・・まぁ、そういう奴はだいたい行事とかにも消極的で、居る分にはそこまで害のある奴ではないんだけど・・・





























(・・・ふふふ。・・・今の内に思う存分騒げばいいさ。国王との謁見が始まれば、すぐに「なにいきなり誘拐みたいなことしてくれてんだよ。今すぐ家に帰せよ。・・・何?・・・できねぇだと?ふざけんな!!」ってかっこよく怒鳴って、この場に再び沈黙をもたらしてやるからな!!!!)













・・・なんでお前はそんな害悪のかたまりみたいなこと考えてんの!?





いや、やめて。


マジでシャレになんないから。






・・・相手王族だよ?




下手したら殺されちゃうよ?



沈黙させられるのはお前の方だよ!!




なんでめんどくさがり屋なのに、そんな明らかめんどくさそうなことしようとすんの!?





あ~、急に不安になってきた。


・・・大丈夫だよね?


とばっちり受けたりしないよね?








・・・ていうかたらたら歩いてんじゃねぇよ!!


金髪勇者がずんずん進むから、どんどん差が開いてんじゃねぇか!!





もー!!バランス!!バランス!!







そうやって、二人のちょうど真ん中の位置を探りながら必死で歩いていると、いつのまにか玉座に着いていた。



オレ達の正面には国王と王妃が座っていて、その周りをたくさんの護衛や大臣、身なりのいい貴族達などが取り巻いていた。






さっきまでの喧騒が嘘のように、大広間には再び静けさが訪れた。







・・・なんか普通に緊張するな、おい。








「ようこそ、勇者よ、わがアルシュタイン王国へ。私は国王ルードビッヒ・アルシュタインだ」






沈黙を破り、一言一言に重みのこもった言葉を浴びせてきたのは、一国の王にふさわしくものすごいオーラを纏った40歳ぐらいの男性だった。







「そして、わが妻イザベル・アルシュタインだ」


「お会いできて光栄ですわ、勇者様方」






国王の隣にすわっている色気漂う美女が、オレ達にやさしげな笑みを投げかけながらそう言った。






・・・ていうか二人とも若いな~。


王様っていうからもっと太ったじじいみたいなの想像してた。







そんなことを考えていると、金髪勇者が一歩前に出てしゃべり始めた。






「はじめまして国王様、王妃様。オレは城山光輔といいます。そして、こいつは友人の烏丸彰です。そしてこの人は・・・・・・えっと、誰ですか?」






こいつは敬語もなんか危ういな、やっぱアホだ、とか思っていると急に話を振られた。







おっと、オレの自己紹介の番だな。








・・・しゃあない。



ここは一つ、格の違いを見せつけてやんよ!!




























「どうも、矢塚翔太と申します。」






うん。


やっぱ、ムリだわ。




自己紹介で見せつけられる格の違いとか限度があるわ。





===============================






「まず突然このような場所に無理矢理呼び出してしまったことを謝ろう。すまなかった」





王がそう言うと、国王王妃を含め、大広間に集まっていた全員が頭を下げてきた。








「そっ、そんな、やめてください!!どうか顔をあげてください!!オレ達そんなこと全然気にしてませんから!!」







金髪勇者が急いでそれを止めた。



それを聞いた国王達は顔を上げ、一様に驚いた顔をした。






まさかいきなり許されるとは思っていなかったのだろう。





「・・・許してくれるのか?・・・ありがとう、そういってくれると本当に助かる・・・!!!・・・金色の勇者は心の広い方なのだな」


「いえ、オレ達を呼んだのはなにか事情があってのことなんでしょう?」








国王は心底安心したような顔をしている。





観衆たちも










「なんて心のやさしい方なんだ・・・」

「流石は勇者、心が広い!!」

「きゃぁぁぁ!!かっこいいぃぃぃいい!!」






とか言って口々に喜んでいる。







・・・なんか無理矢理召喚されたことを簡単に水に流した感じになっちゃてるんですけど。



しかもなんかそれがアホの勇者の手柄みたいになってるんですけど。







・・・まあ、オレも別に召喚されたことは気にしてないし、ていうかむしろ異世界に来られて嬉しいくらいだし。







それはいいんだけど・・・




























(あぁぁぁぁ!!!ミスったぁぁぁぁ!!「こんな誘拐まがいのことして許されると思ってんのか!?」って言えなかったぁぁぁ!!!!)










・・・うるせえ!!


お前が一番喜んでただろうが!!




ほんと、なにがしたいの?


本当に殺されちゃうよ!?






・・・・まぁそれはいいや。





それより、なんか変だな。



妙に統制が取れてるっていうか・・・








悔しがってる中二勇者をよそに、国王達の行動に不自然さを感じたオレは、金髪勇者に感謝してる国王の思考を読んでみることにした。




















(・・・なんかあっけなくゆるしてもらえたな。・・・・まぁ少々予定とは違うがプログラム2番「国王自ら頭を下げ懐の広さを知らしめると同時にちゃっかり勇者にもゆるしてもらう作戦」は完了っと、・・・お次は・・・)









待て待て待て。





えっ、なに?プログラムとかあんの!?




なんか嫌だな、おい!!




ていうか人への謝罪の場を運動会の種目みたいに扱ってんじゃねぇよ!!



しかも・・・








(プログラム2番は思いのほか早く終了したな)

(もっと怒られると思ってたよ)

(やさしい人でよかったな!!)

(次はプログラム3番だな!!)

(さぁここからが正念場だぞ!!)

(いつまたプログラム1番「勇者の登場とともに大歓声で迎える」の時みたいな失敗が起きるか分からないからな!!)









・・・ここにいる全員に配ってんじゃん!!





なんか変に統制とれてるなって思ったのはこのせいか・・・




ていうかプログラム1番潰したのオレかよ!!ごめんなさい!!






そうして国王達の用意周到さに驚いたり謝罪したりしていると、国王が何やら難しい顔をしながら次の言葉を口にし始めた。











「・・・とても身勝手なことだというのは分かっている。・・しかしそなたらにしかできないことなのだ!!頼む、われわれ人間の脅威である魔王を倒してくれないか!?」


「・・・わかりました。それでたくさんの困っている人が助かるのなら、オレ達は喜んで魔王を倒しましょう!!!」








国王がそう言ってから2秒と経たない内に金髪勇者が即答した。









はいストップ~。




はやいはやい。


ちょっとタンマ。




マジで待って。




・・・なに?なんなの?


いくらなんでもおかしいでしょ!!




なんでそんなに簡単に全部一人で決めちゃうの!?


なんでオレ達になんの相談もしないの!?



ていうかリスクとか報酬とか倒した後のこととかちゃんと考えてるの!?







そんな暴走金髪勇者の行動に対して、何ひとつ理解できないオレは、その思考を読んでみることにした。

























(・・・魔王?・・・よく分かんないけどオレは勇者で、その魔王っていうのを倒したらみんなが喜んで・・・・・・ひいてはオレのイケメン度にもさらに磨きがかかるということだな?・・・了解した!!)













いや、なに一つ了解してねえよ!!




特に後半はオレが了解できなかったよ!!



思考がぶっ飛びすぎだろ!!



頼むからもう少し悩んでくれよ、お願いだから!!



周りの迷惑とか、もっと考えようよ!!





お前があまりに早く了承するもんだから・・・






























「・・・そうか、確かにいきなり魔王退治と言われても戸惑う・・・えっ!?いいの!?」


(・・・まさかこんなに早く了承してくれるとは・・・なんと心が広い・・・のか?ってこんなこと考えている場合じゃなかった!!マズい!!まだ次のプログラムの準備が・・・)












・・・プログラムに支障が出始めたじゃねぇか!!





国王今、素の顔してたよ。


すごいよお前。




なかなかいないよ?初対面の王様から素の顔引き出せる奴。







あまりの了承の早さに観衆たちもざわめき始めてる。







(いくらなんでも早すぎでしょ!!)

(マズいよ、魔力検査の水晶がまだ用意できてないよ!!)

(なんで用意してないんだよ!!)

(仕方ないだろ、まさかこんなに早く了解してもらえるとか思わないだろ普通!!)

(ねぇ、あの勇者さま心が広いっていうより、バ・・・)

(みなまで言うな!!!)










・・・なんかグダグダだな。


みんな一様に焦った顔をしている。




どうすりゃいいんだ?






・・・うん、どうしようもないわ




ていうかプログラムに頼り過ぎだからこうなるんだよ!!






誰でもいいからこの状況を打破してくれるのを待つしか・・・




























「ちょっと待てよ。オレはそんなこと一言も言ってねえぜ。ていうか今すぐもとの世界に帰せ。そんな明らかめんどくさそうなこと誰がするか。」





今まで黙っていた中二勇者がここぞとばかりにまくし立てた。











・・・いや、確かに誰でもいいって言ったけどそれはお前ではないよ!?







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