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心握術師は今日も電波を拾う  作者: 三谷 景色
3/6

超能力者は今日も宗教勧誘から必至に逃げ回る

突然だが、オレは人の心が読める超能力者である。



その能力は、今からちょうど10年前に突然発現したのだ。




当時小学2年生だったオレはその年の6月に交通事故で両親を亡くし、とことん親戚にたらい回しを受けた後、気づいたら孤児院に引き取られていた。


もちろん、学校も転校することになったのだが、あまりの環境の変化に頭がついていかず、学校でも孤児院でも、感情を表に出さず、まるで機械のようにただ毎日を過ごしていた。




ところが、オレが新しい学校に転校してから約1ヶ月後のある日、事件は起きた。





その日は3時間目に体育で水泳の授業があったのだが、オレはいつものように「体調が悪いから見学したい」と教師に告げた。


その若い女教師は「またか」という顔をして何か言いたげな様子だったが、オレの身の上を考慮してくれたのか、最終的には何も言わずに見学を認めてくれた。


50分間ただクラスメイト達がプールの中で水と戯れる光景を眺めた後、授業終了のチャイムと同時に誰よりも早く教室に戻ったオレは、またいつものようにふて寝を決め込んだのだった。


しばらくするとクラスメイト達が帰ってきたのか、周りがガヤガヤと騒がしくなってきたので、そろそろ次の授業の準備をしようと思い、ふと顔をあげると、驚くことにオレの周りをクラスの女子が20人ほど取り囲んでいた。


顔をゆがませ、白い目でこっちをみながら「ありえない・・・」とか「さいあく・・・」とか「なっちゃんかわいそう・・・」とかこそこそ話していた。


その内の一人の気の強そうな女子がオレの机の上に両手をバンッと置いてこう言った。











「あんた、なっちゃんのパンツぬすんだでしょ」





あまりにも身に覚えのないことを言われて唖然としていると、彼女の後ろにまだ水着の格好をしたままの女の子が涙を流して泣いているのが見えた。




その気の強そうな女子の説明によると、先ほど、プールから帰ってきて隣の教室で着替えていると、突然、なっちゃんが声をあげて泣き出してしまい、なんとか落ち着いてもらい、話を聞いてみると、水泳の授業の前に脱いで置いておいたはずのパンツがなくなっていたらしい。


そこで、犯人を捕まえるべく、女子一同が集まって話あった結果、授業の後に一番最初に教室に帰ったオレが怪しいという考えに至ったのだという。






話をようやく理解したオレは、さすがにパンツを盗んで喜ぶ変態という認識は耐えられないと思い、懸命に自分の無実を主張した。


しかし女子一同はすでにオレを犯人と決め付けてしまっていて、こちらの反論に全く聞く耳をもたずに。口々にオレを罵り始めた。


すると騒ぎを嗅ぎ付けた男子たちもそれに加わり、やれ自首しろだの、パンツ出せなど責めたててきた。



オレの心には徐々に絶望が広がっていき、交通事故で両親を失い、親戚には疎ましく思われたらい回しにされ、挙句の果てに、転校先の学校ではパンツを盗んだ犯人に仕立て上げられるという自分の運命を恨めしく思った。




だんだん反応が薄くなっていくオレに対して、クラスメイトたちはどんどんエスカレートしていき、誰かがオレのカバンを調べろと言い出した。



そこで行動力のある一人の男子がオレのカバンを物色し始めた。





半ば自暴自棄になっていたオレは、ここで思いっきり切れて殴りかかるのもありだなとか考え始めていた。






・・・しかし、その男子につかみかかるため勢いよく立ち上がった次の瞬間、今までオレの心にまとわりついていたモヤモヤを一気に取っ払うように、突然高らかな笑い声が頭の中に響き渡った。
















(ブーヒッヒッヒ!!何か知らないけどラッキーだブヒー!!みんな僕の後ろの席の転校生を疑ってるブヒー!!女子が険しい顔で僕の席の周りに集まってきた時はヒヤヒヤしたブヒが、このままこいつに罪をなすり付けてやるブヒ!!・・・そして今ズボンの右ポケットの中で僕がにぎにぎしているなっちゃんの使用済みいちごパンティーは、家に帰ってから、かぶったり、においをブヒブヒしたり、あげくのはてには直に穿いちゃったりするんだブヒーー!!やばいブヒ!!興奮してきたブヒ!!辛抱たまらんブヒ!!)



ハッと顔をあげると、一つ前の席でよだれをたらしながら恍惚とした表情でなっちゃんの方を見ている大きな豚が目に入った。





オレは周りのクラスメイトたちを押しのけながら無我夢中でその席まで行くと、驚いた目で見上げているその豚の右腕をつかんで、一気にもちあげた。







・・・次の瞬間、クラスメイトたちの一様に驚きで見開かれた目が一斉に捉えていたのは、だらしない格好で持ち上げられた豚と、その右手に握られたいちご柄のパンツだった。






「犯人はお前だろ、このクソ変態豚野郎」





これがオレが解決した最初の盗難事件であり、またオレの超能力が発現するきっかけとなった出来事でもある。



====================================




その後、真犯人である豚は4時間目の授業を始めるためにやってきた先生に連行されていき、オレを疑っていたクラスメイトたちはしおらしく謝罪してきた。


オレは超能力の発現というビッグイベントにテンションMAXだったので、大爆笑をしながら全然気にしていないと答えたところ、次の日から転校生の器のでかさが半端ないという噂が学年中に流れ、いろんな人がやさしく話しかけてくれるようになった。





この日を境にオレは別人のように明るく活発になった。




それからというものの、オレはこの能力を完璧に使いこなすために毎日鍛錬を重ねた。



その結果、はじめは自分の2m以内にいる人間の心を読むのが限界だったオレは、中学に上がる頃にはそれが500mまで伸び、逆に自分の思念を他人に伝えることもできるようになっていた。



目に見えて上達するのがうれしくて、その後も一日たりとも欠かすことなく鍛錬を続けていると、高校入学時点で、半径1㎞以上の範囲まで人の心が発する電波のようなものを受信することで、人の細かい位置を把握し、心を読んだり、思念を飛ばしたり、また読解速度を極端にあげることで相手の行動を先読みするという、マンガに出てくるキャラクターのようなことまで可能になった。






・・・ここまでだらだらと無駄に長く回想してきたわけだが、結局何が言いたいのかというと、小2のあの事件以来、鍛錬と称して能力を使いまくってたオレだからこそ言えることなのだが、この超能力は意外と汎用性にかけるということだ。




人の心が読めるといっても、そこまで重大な秘密を持った人にはそう何度も遭遇しない。

人の居場所がわかるといっても、携帯使えば一発だ。

人に思念を飛ばせるといっても、オレが超能力を持っていることを知っている人間などいないので、テレパシーでの会話などしたこともない。




つまり日常生活において役に立つ機会が少ないのだ。





そしてなぜ今になってそんなことをくよくよ考えているかというと、オレは今まさにこの能力に対する無力感を味わっているからなのだ。












「・・・だからあなたのその痩せ細った体つきと目つきの悪さは悪い悪霊が憑りついている証拠なのね、でも大丈夫、今からわたしがあなたにパワーを送ることでその悪霊をよわめてあげるから、でもわたしの力では完全に追い出すことはできないから一度わたしたちの集会に来てほしいの、そしたら・・・」



もうどうしようもない。



============================




あの事件が終わった後、家にむかって道を歩いていると、




(悪霊憑きの悩ましげな若者がきたわ!!)



という心の声が聞こえたかと思うと、いつのまにかこのおばさんが隣にいて、今この状況に至る。




オレが隣に立たれるまで気づかないほど隠密機動に長けたこのおばさんは、さっきからオレは悪霊に憑りつかれているから集会所でその悪霊を追い払ってもらわないといけないという話を延々と繰り返している。



こういう時にこの能力は急に使いにくくなる。




心を読んでもずっと悪霊のこと考えているだけだし、テレパシーで説得するなど無意味にもほどがある。




とうとうおばさんが手のひらをこちらに向け、なにやら呪文のようなものを唱え出したので、これでは埒が明かないと思ったオレは、あまり気が進まないが最後の手段を使うことにした。












「・・・そなたの内なる穢れと悪しき魂を・・・ブツブツ・・・(ワッッッッッッ!!!!!)きゃっ!!!なに!?なんなの!?」



そのおばさんが悲鳴を上げて尻もちをついた隙をついてオレはその場を全力で逃げ出した。





そう、思念を大音量で相手の頭の中に流し込むことで、相手の隙をつくという方法である。




頭に思念を流し込まれるという経験をしたことのない人間相手なら失禁した後、確実に気絶する技なのだが・・・






(・・・あーびっくりした、今のなんだったのかしら・・・まさか、神のお告げ!?・・・っていうかしまった!!逃げられたわ!!まだ悪霊が憑いたままなのに!!)




・・・なにあれ?なんであのおばさんは失禁はおろか気絶すらしていないの?というよりもう立ち上がってこっちに走って来てるんですけど!!




・・・逃げるしかない



オレは後ろから追いかけてくる未知の生物に全意識を集中させながら、必死で逃げようとした。




そうして、後ろからものすごいスピードで追いかけてくるおばさんの方を向きながら全速力で走っていたオレは、前を歩いていた二人組に全く気づかなかった。







そして、言うまでもなく、その二人組の足元であやしく光っていた魔法陣になど気づくわけがなかった。

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