第7話:カラオケスナック小片谷ママ
――タイトルを見た瞬間だった。
液晶画面に【PIECE OF MY WISH】の文字が浮かんだ瞬間、亜紀と玲奈が同時に――
「ブッ――――!!!!」
ハイボールとスパークリングを盛大に吹き出した。
イントロが流れる前にもう大事故よ。
カウンター奥のテーブルでは、由佳と彩花が椅子から転げ落ちそうになって爆笑している。
「これは〜いきなりヒドいwww!」
「やばいwww ちょっと、もうわざとやってんのwww!」
梨奈はハイボールを握ったまま、声も出せずにテーブルを叩いていた。
「無理www 笑いすぎてメイク崩れるwww!」
――でもね。
マイクを握った麻里さん。
あの人だけは、周囲のカオスなんて存在しないみたいに、目を閉じて自分の世界に入り込んでいた。
イントロが流れ、彼女は深呼吸をひとつ。
そして――。
「それでも いつか すべてが崩れそうになっても~♪」
……真剣そのもの。
顔も声もまっすぐで、揺るぎない。
亜紀も玲奈も、怒りを押し殺しながらも「これは歌い終わるまで止められない」と観念したのか、とりあえず黙って聞いてやっていた。
でも空気は冷え冷え。
爆笑組と真剣組で完全に温度差が崩壊してる。
曲が終わった瞬間――。
「あなた、この歌がどんなドラマの主題歌だったか知らないの?(怒)」
亜紀が鬼の形相で切り込む。
「あり得ない。妹に男を取られる歌ですよ、コレ(怒)」
玲奈も負けじと突っ込む。
麻里さんは「えっ?」と目を丸くしている。
そのやり取りを見て、由佳と彩花はまたテーブルに突っ伏して爆笑。
「この曲を歌うとか、さすがに狙いすぎでしょwww!」(由佳)
「直也さんを思ってコレ歌ったら、即、保奈美ちゃんに敗北確定でしょwww!」(彩花)
梨奈は涙目で笑いながら化粧ポーチを掴んだ。
「もう笑いすぎてサイアクwww。VODくらい見とけばいいのに……」
そう言って化粧室に駆け込んでいった。
――ほんとに。
あの真剣さと、この場の炎上具合。
オンナって生き物は、どうしてこうも危うい火薬庫なのかしら。
私は黙ってグラスを磨きながら、心の中でそっとため息をついた。