表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

第5話:カラオケスナック小片谷ママ

「……あら、もしかして玲奈さん?」

由佳が、笑いをこらえながら声をかける。


「由佳さん!?」

玲奈が目を丸くする。


「久しぶり、高瀬彩花よ。サンノゼ以来かな?」

横から彩花がグラスを掲げる。


麻里も驚いている。

「ご無沙汰しております。そうですね。サンノゼ以来です」


そして極めつけ。


「ふふ、リナもいるよ」

奥から手を振ったのは、神楽坂梨奈その人。


「り、梨奈さん!?」

亜紀と玲奈と麻里が、ほぼ同時に声を上げる。


――はい、修羅場確定。


カウンターでグラスを磨きながら、私は心の中でそっと合掌した。

これから始まるのは、ただのカラオケ・オンステージじゃない。

女の戦場――その第一幕が、いま切って落とされたのよ。


――イントロが始まったわ。


リモコンの液晶に「トライアングラー」の文字が光った瞬間から、嫌な予感しかしなかった。

あれはアニソンの中でも“禁断”の部類。まさか歌うとはね、このオンナ。


イントロが流れ、玲奈がドヤ顔でマイクを握る。

そして――。


「君は誰とキスをする~ わたし それともあの娘~♪」


――ブッ――――!!!!!!!!!!!!


まるで合図を合わせたかのように、カウンターもボックス席も、女たちが一斉に酒を吹いた。

ハイボール、ワイン、炭酸割り。おしぼりじゃ追いつかないわよ、これ。


「“あの娘”って誰よ!?保奈美ちゃん!?莉子!? 玲奈あんた何考えてんの?」

亜紀が目を吊り上げ、グラスをテーブルに叩きつける。

これはあれね、ガチ切れってやつよ。


「直也を巡る三角関係を歌っているようにしか聞こえない!玲奈、ケンカ売ってんの!」

麻里も続く。

美人が激昂して怒る様って、傍目から見るとめちゃくちゃ怖いのよ。


由佳と彩花はテーブルで転げ回って爆笑。

「いきなり、もう止めてwww。キツい、これキツいwww……」

「死ぬwww 涙止まんないwww。もう何なの玲奈さんwww」


奥のテーブルの梨奈なんて、化粧が完全に崩れて涙目よ。

「笑いすぎて無理www マジでお腹痛いww」


でも――ここからが圧巻だった。


玲奈ちゃん。

空気なんて一切読まず、真剣な顔で最後まで熱唱。


「たったひとつ命をタテに〜いまふりかざす〜感傷〜♪」


眉をキリッと上げ、胸に手を当て、完全に「私は銀河の歌姫」モード。


……いや、もう歌詞が地雷なんだってば。


曲が終わった瞬間、店内は再び爆笑と罵声の渦。

でも彼女、ドヤ顔でマイクを置いたのよ。


「……ふぅ。どう? 神曲でしょ?」


――オンナって、やっぱり恐ろしいわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ