第4話:宮本玲奈
――あの歓声は、今思い出しても腹が立つ。
GAIALINQイベントのステージ。
「RICO×NAOYA」の完璧なパフォーマンスに続いて、颯爽とスーツ姿で登壇した直也。
あの瞬間、会場に詰めかけていた大勢の女性たちが一斉に黄色い声を上げた。
「きゃああああ!」
「NAOYAさーん!」
「直也さん、カッコいいー!」
……バカなの?
こっちは大切なプロジェクトGAIALINQのブランディング向上の為のイベントとしてやってんだよ。その意義も何も理解できないオンナどもが、ただの直也のファン気取りであそこまで盛り上がってんのよ。どうせ直也のプレゼン内容なんて、ビタ一文理解できない能ナシのクセに。
しかも。
終演後、やっと直也と一緒に飲めるかと思ったら――。
「ではこのあと、ぜひ銀座で!」
電報堂の女営業どもが、五井物産とフェリシテの広報を巻き込んで直也とRICOを「持ち帰り」。
まるで獲物を捕まえたみたいに連れ去っていった。
「はぁ!?(怒)」って叫びたかった。
よりによって、あの電報堂よ?
クライアントの前であの媚び媚び笑顔を振りまく女どもよ?
もう連れ出す時から直也にベタベタ触りまくり。
もう最悪。
スナックのテーブルで、私は思わずグラスを乱暴に置いた。
「信じられない。直也、あっけなく連れて行かれるとか!」
隣の亜紀さんが同調する。
「ほんと。しかも銀座でしょ? ウチの広報も一緒に喜んでるし。バカなの!」
麻里も苦い顔で氷を回した。
「電報堂の女営業なんて、いつだってそう。直也を広告塔としか見てない。直也が本当にどういう人かなんて、絶対分かってないくせに」
「そうだよ!」私は思わず声を上げた。
「彼は、ただの広告用の男じゃない。GAIALINQを背負って、世界を少しでも良くしようとする未来を描こうとしてるんだから!」
なのに。
あの場で群がっていたオンナどもは、誰ひとりとしてそれを理解してなかった。
ただ、カッコいいだの、素敵だの――安っぽい黄色い声援ばかり。
「直也が可哀想だよ」
私が吐き捨てるように言うと、亜紀さんも麻里も小さく頷いた。
やり場のない怒りが渦巻いて、胸がはち切れそうだ。
この苛立ち、どうしたらいいのよ……。
私は勢いで、手元のリモコンを掴んだ。
カラオケの入力画面を開き、検索窓に指を走らせる。
――【トライアングラー】。
「……もう、これで発散してやる」
ENTERボタンを押す瞬間、胸の奥に妙な高揚感が込み上げていた。
この曲でなら、きっと全部吹き飛ばせる。
……そう信じながら。