表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

第3話:カラオケスナック小片谷ママ

――予約の時間。


カラン、と扉が開いて入ってきたのは三人連れ。

ぱっと見て分かる。

服も髪も、全部きちんと整えてるけど、どこか戦闘態勢。

あれは仕事帰りのオンナじゃなくて、「オンナの武器」を装備してきた女の顔だわ。


「こんばんはー、ご予約の方ですね」

笑顔で声をかけつつ、心の中で呟く。

――はい、今日のメインイベントご一行様ご登場、ってね。


奥のステージブースに案内する前に、耳が勝手に彼女たちの会話を拾ってしまう。

「ねぇ亜紀さん、近々に例の視察の件は、まだ直也には内緒にしてくださいね」

「分かってるってば、玲奈。麻里さんもちゃんと黙っててくださいね」

……あらあら。名前を自分から名乗ってくれたわね。


亜紀、玲奈、麻里。

なるほど――さっき噂に聞いた五井物産のGAIALINQ関係のオンナたちって事かしら?

目の奥の光り方、まるで恋に燃えてるみたい。

もう歌う前から炎上する未来が見えるわね。


さて。奥を見ると、既に先客がいるの。

さっきカウンターで飲んでる二人のオンナ。

落ち着いたスーツ姿、けれどどこか肩の力が抜けてる。

「由佳、今日の直也さんのプレゼンやばかったね」

「でしょ?彩花だって見てて分かったでしょ。直也さんは、もう別格だよ」

――はいはい、ありがとう。由佳と彩花。さしずめ、渋谷のイベントを視察に来ていたステークスホルダー組ってとこかしらね。


でも、今日一番の拾い物はこの人よ。

奥のテーブルでグラスを傾けていたオンナ。

艶やかな髪、強気な目元。けど、ほんの少し拗ねた空気を纏ってる。

一見して「場慣れしたオンナ」なんだけど……。


その人がお通しの小皿をつまんで、ぽつり。

「……やっぱ、リナ、こういうピクルス好きだな。マジヤバい」


――ああ、言っちゃった。


私は心の中でにやりと笑った。

なるほど、あのフェリシテの話題になったギャル社長――神楽坂梨奈って事みたいね。このオンナも渋谷のイベントを視察に来ていたステークスホルダー組ってとこかしらね。


まったく。

今日の「小片谷」、とんでもない修羅場を抱え込んだわね。

オンナたちの名前も、素性も、ここまで揃うなんて――三十年やってきて、初めてかもしれないわ。


「さぁ、どうなることやら」

磨き上げたグラスを拭きながら、私は心の中で呟いた。

歌では炎上、心は修羅場、店の雰囲気氷点下ってとこかしらね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ