エピローグ:カラオケスナック硅素谷 ママ
――長いこと、この渋谷ビットバレーの片隅でスナックやってきたけど。
今夜ほど心を揺さぶられた夜は、正直一度もなかったわ。
あのオンナ達――一亜紀、玲奈、麻里。
最初は“五井物産のエリート”とか呼ばれて、大きな勘違いをしているバリキャリかと思っていた。
どうせ、ちょっと歌って調子に乗って終わり……そう思っていた。
けど違った。
途中までは歌えば吹き出され、爆笑され、お互いがお互いを罵倒する、ボロボロの展開。しかし、最後にはオンナの情念を見せていった。
それも作り物の演出なんかじゃない。
心の奥から本気で自分の情念を込めた声。
その姿に、最初は爆笑していた由佳、彩花、梨奈たちも――そして私までも、すっかり持っていかれてしまった。
「あなたが好きよ〜♪」
歌詞のフレーズがまだ耳に残ってる。
武道館でもない、アリーナでもない、ただの場末のスナック。
けれどあの瞬間だけは――確かにここが“オンナの情念の祭典”だった。
気付いたら、私も応援する気持ちになっていたわ。
三十年、この商売をやってきて、一度もなかったことよ。
オンナを応援したくなるなんて――あり得ないと思っていたのに。
でもあのオンナたちが思いを寄せたのは
全部たった一人のオトコ――ナオヤと言っていたかしら。
きっとそのオトコは、ただのビジネスマンでも、ただのエリートでもない。
人を惹きつけて離さない――“本物の男”なのよ。
今夜は、私のスナック史上、最高に爆笑して、
そして魂がシンクロした伝説の夜。
それからしばらくして、風の噂に聞いたの。
あの日あの夜にシンクロしたオンナの情念というのは、GAIALINQという世界的なプロジェクトを大きく進捗させる原動力になったとね。
オンナの情念がシンクロしたからこそ、それに相応しい結果が付いてきたという事かしらね。
又渋谷に来たら、是非来店して欲しいわ。
――ありがとう、ナオヤ。
未だ見ぬあんたのお陰で、オンナの情念がスパークして、またこの場所が少しだけ輝いた気がするわ。
――女の情念って、ほんと、バカみたいに美しいわね。