第18話:神楽坂梨奈
――人生なんて、思い通りにならない。
私は小さい頃から、ずっとそう思って生きてきた。
努力しても、泣いても、喚いても――報われないものは報われない。
だからこそ、諦めるのが早かった。
「まぁ、しゃーない」って肩をすくめて、次の勝負に挑む。
それが私の生き方だった。
でも。
ナオヤさんみたいな人もいる。
常に前を向き、努力を重ねて、最後まで諦めずに戦い続ける。
会社のために、仲間のために、自分の信じる未来のために。
その姿に、周囲の人間は惹きつけられる。
……特に女たちはね。
だから彼の周りはいつも火花が散ってる。
しかも相手が悪い。
ナオヤさんには、あの子がいる。
――保奈美ちゃん。
超絶美人で、天使みたいで、天真爛漫で可愛い。
しかも彼女は「義妹」という本来ならば最悪のポジション。
壁があるからこそ燃え上がる。
でも壁って言っても血の繋がりが全くないから、それはナオヤさんの中のこだわりだけ。
保奈美ちゃんが大人になった瞬間に壁は壊れる。
そして保奈美ちゃんのお願いは何でも聞いてしまうだろうね。
あれはもう、周囲の女たちからしたらムリゲー。
どうあがいても勝ち目なんてない。
辛うじて対抗できるのは、RICOくらいだと思うよ。
私?
私は絶対無理。
萎える。
……そう思ってた。
でも、この夜――見てしまったの。
亜紀、玲奈、麻里。
三人が肩を寄せ合い、情念を燃やし尽くして歌った【Magic of Love】。
あの瞬間、彼女たちはただの女じゃなかった。
男に媚びるでもなく、見せびらかすでもなく、ただ「愛してしまった女」の姿そのものだった。
私は胸の奥が熱くなった。
「バカだな」って笑うこともできた。
でも――違った。
……むしろ応援したいって思ってしまった。
私からするとナオヤさんはどこまでも憧れの存在。
でも、彼女たちはまだ全力でナオヤさんへの愛を燃やしている。
その情念が滑稽でも、痛々しくても、どこか美しかった。
ナオヤさんを「愛してしまった」女たち。
その想いの強さに、私は心の底から拍手を送りたくなった。
グラスを傾けながら、私は小さく呟いた。
「……アンタたち、頑張りなよ」
ネオンの灯りが揺れる。
笑いと涙と情念の夜――私は初めて、他人の恋を心から応援したくなっていた。
今晩はナオヤさんと会食は出来なかったけれど、でもその代わりいいものを見たよ。
たまには、こういう夜も悪くないよね。
このスナック、気に入ったよ。