第16話:カラオケスナック小片谷ママ
――やる気ね、このオンナたち。
さっきまで泣きべそかいていた玲奈を、亜紀と麻里が両脇から引き寄せて、コソコソ相談していたの。
そしてリモコンを操作する三人の手元に、ひとつの曲名が浮かび上がった。
――【Magic of Love(太陽とシスコムーン)】。
おおっと、これは……ただのアイドル曲じゃないわね。
オンナの情念を昇華させるにふさわしい――まさに「和製ソウル」ってやつよ。
イントロが流れる。
三人が顔を見合わせ、マイクを握った瞬間――空気が変わった。
♪「少し派手目に〜お化粧直しするわ〜」
はい、最初のフレーズから情念全開。
玲奈の涙声に、亜紀の凛とした声、麻里の低く艶のある声が重なる。
「街のGAL達になんか〜負けない Yai Yai Yeah〜♪」
――ブッ、じゃなくて、ぞわっ、と背筋に鳥肌が立った。
笑いなんて出ない。これがオンナの本気歌。
由佳と彩花が、自然に手拍子を始めた。
「すごい……」
「ちょっと本気でカッコいいんだけど」
梨奈は最初、腕を組んで眉を吊り上げていた。
「ギャルに負けないって、これ私にケンカ売ってるの?」
でも次の瞬間。
♪「通算 何回笑ったろう〜 何回Kissしたろう〜」
亜紀が全力で情熱的に、玲奈が泣きながら必死に、麻里が艶やかに――三人が声を合わせて放つ。
そのハーモニーに、梨奈は息を呑んだ。
「……違う。これはマジだね。ちょっとイケてる」
気づけば、彼女も手拍子をしていた。
♪「I Love You U Fu Fu〜 Magic of Love〜」
女の想いが、恋の悔恨が、未来への渇望が――全部、歌に溶けていく。
笑いを提供していたはずの三人が、この瞬間は「戦う女」の象徴そのものになっていた。
♪「実際大好きだけど」亜紀
♪「大好きだから」玲奈
♪「大好きなのよ」麻里
店内の空気が震える。
安っぽいスナックのスピーカーから流れる音なのに、魂を揺さぶる力を持っていた。
♪「実際 あなたが好きよ」亜紀
♪「あなたが好きよ」玲奈
♪「あなたが好きよ」麻里
「……オンナの歌って、やっぱりこうじゃなきゃね」
私はカウンター越しに、そっと呟いた。
情念の炎が燃え盛るカラオケスナック小片谷。
――はい、これにて第六幕。
爆笑から一転、魂のシンクロが果たされた夜だった。