第14話:新堂亜紀
――何よ、この歌。
「硝子越しのkissみたい〜♪」
玲奈の声が響いた瞬間から、心臓の奥がズキリと痛んでいた。
どうしてくれるのよ。
どうして、こんな歌を選んだの。
だって、この歌詞――まるで保奈美ちゃんの気持ちそのものじゃない!
「こんな近くて遠いわ」「もどかしいほど好きなの」。
……全部、保奈美ちゃんが直也くんを見ている眼差しに重なってしまう。
私は拳を握りしめた。
認めたくないけど、否定できない。
あの子は――直也くんにそういう想いを抱いてしまっている。
思い出してしまう。
LAのディスティニーランド。
あの子は、はっきり直也くんに言った。
「大好き」って。
もう義兄妹という「硝子の壁」なんて、直也くんの理性の中にしか存在しない。
そして、保奈美ちゃんは既に「壁を壊す」と決めているのかも知れない。
今はまだ保奈美ちゃんが高校一年生だから、流石にすぐではない。
でも例えば大学生や社会人になったら?
その後、直也くんを求めたら?
その時、直也くんは、保奈美ちゃんには絶対に抗えないのだ。
あの子の言葉には、直也くんは逆らえないんだ。
それが、私には恐ろしくて仕方ない。
保奈美ちゃんが大人になるまでがタイムリミットだ。
時間はもう保奈美ちゃんにしか味方しない。
だから今更ながら莉子はあそこまで強引に直也くんを求めに行ったのだ。
そして今晩も直也くんと一緒の席で飲みに行けるポジションを獲得している。
じゃあ私はどうするの?どうするの亜紀?
「まったく……なんて歌を聞かせるのよ!」
思わず声に出していた。
涙目で俯く玲奈に苛立ちが込み上げる。
「こんなものを“神曲”だなんて――ふざけないで!」
これは笑い事じゃない。
……覚醒してしまった、保奈美ちゃんという存在そのものが、私たちにとって“危機”なんだ。