第12話:宮本玲奈
――納得できない。
散々私のことをディスっておきながら、結局ヒドい選曲をしたのは亜紀さんの方じゃない。
「ち、違うの。これは私の青春ソングなの。なんでそんな穿った見方するの? みんなおかしいよ」
亜紀さんは真剣な顔でそう言っていた。
私はグラスを置き、静かに言い返した。
「一番おかしいのは亜紀さんです」
だってそうでしょう。
どこからどう聴いても【二人セゾン】なんて、直也さんと保奈美ちゃんの歌にしか聞こえなかった。
それを「青春ソング」とか言って済ませようとする方が無理がある。
なのに。
由佳さんも彩花さんも、梨奈さんまでも――テーブルを叩いて爆笑している。
涙を流しながら、「もうやめてwww」とか「五人セゾンwww」とか……。
腹立たしい。こっちは真剣にやってるのに。
胸の奥がじりじりと焼けるように熱くなる。
――だったらもういい。
ここで私が決めるしかない。
このカオスを収めるのは、私の役目。
時代を超えて歌い継がれるレベルのアニソン神曲。
ただのヒットソングじゃない。
名実ともに「伝説」に刻まれたラブコメの金字塔。
そう――【めぞん一刻】。
あの物語のフィナーレを飾った名曲こそが、私を救ってくれる。
――【硝子のキッス】。
これだ。
これで決める。
この曲なら、誰も文句は言えない。
笑いなんて挟ませない。
未亡人の管理人女性と、下宿学生との純粋な愛の物語。
そこには「直也案件」などと言わせる要素など存在しない。
私の真剣さを、きっと全員に分からせてみせる。
私はリモコンに手を伸ばした。
液晶に浮かぶ文字列を見つめながら、胸の奥で固く誓った。
「……次は、私の番」
マイクを握りしめる指先に、熱が宿るのを感じた。