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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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7/16

 菫の家の玄関に入ると見覚えのある大きな鏡で髪を整える。靴を揃える私を興味深そうに見つめる菫は「前も同じように靴揃えてたね」と言って笑う。


「随分前の話だよね。私……菫ちゃんのこと忘れてたのに」


 お邪魔しますと言って家の中を眺める。


「小学生の頃だから仕方ないよ」


 私は二階にある綺麗に片付けられた菫の部屋に入る。当時のことはほとんど覚えていなかったが散らかっていたような気がして懐かしく感じた。


「ゲームないんだ」


「あるよ。出しっぱなしにしてると怒られるから、ここにあるの」


 菫が引き出しからゲームを取り出す。


「本当にゲーム好きなんだね……いっぱいあるね」


「お父さんの影響で好きになった。その話もしたような気がするけど、百合ちゃんって忘れっぽい?」


「そうかも」


「またこうして遊べて嬉しいよ!」


 嫌な記憶と一緒に色々と思い出さないようにしている。


 それでもこうして誰かと話をしていると忘れようとしていた頃の記憶が出てきてしまう。


「そうだね、私も嬉しい」


「お父さんが前に私の為に買ってくれたゲームとかね。あ! ここにある服はお母さんが一緒に見てくれたもの! 身長止まったから安上がりとか言ってたっけ」


「仲良いんだ」


「うちのお父さんとよくゲームを一緒に遊ぶんだ。私よりも弱いのに負けず嫌いで困っちゃうよ」


「いいね」


「あ、でもさ、お母さんって私に合う服買ってきてくれるのは嬉しいけどさ! 少し子供っぽいというか、そんな話をすると文句を言うと叱られるんだけどね。え、百合ちゃん?」


 平静を装っていたのに唐突に涙が溢れていた。


「え? あれ? 違うの! なんでもないからさ。あ、そうだ。そういえば昔私にゲームをしようとなんで誘ってくれたのか聞きたいな」


「え、うん……私もお父さんの趣味で古いゲームばかり持っていたけど、男子は最新のゲームが好きで女子はゲームなんてやらなくて。誰とも話が合わなくて孤立していた時に遊んでくれたのが百合ちゃん。ねえ? 悲しいことがあるなら聞くよ?」


 パパがいないことを話すママは悲しそうだった。そんな時になんとなく恋の話をした覚えがある。同級生が恋をしていたとか、そんな類の話を毎日していた。


 そんな小学生の時ママが突然新しい男を家に連れてきた頃に菫と出会った。


「菫ちゃんはママが女の顔をする時って見たことある?」


「ないけど……」


「私はすごく気持ち悪いと思った。喜ぶママの顔が見たいと思ってたのに喜べない自分が許せなくて……あの頃も居場所がなくて……本当に菫ちゃんと遊べて楽しかった」


 菫は何も言わずに私を抱きしめる。


「今日も誘ってくれて、本当にありがとう」


「私、私も……中学生の時に百合ちゃんを助けないでごめんなさい。みんなと一緒になって悪口言って……本当は好きで結婚したいぐらいなのにいじめていたの……」


「結婚……」


「違うの! それぐらい好きって意味!」


「そうだね」


 私が笑うと彼女も笑った。


 当時やったゲームを楽しんでいると気づけば寄るになっていた。私と菫はどんな些細なことで笑顔で会話を続ける。久しぶりに友達というものと遊べた喜びから小学生に戻ったかのような気分でお互い笑い合う。


「あ、そうだ!」


 菫は何かを不意にスマホの画面を私に見せる。


「えっと……ギャラクシーパラディンナイトホーク……惑星を移動しながら多彩なキャラクターと出会うのは前作と変わらないみたいだね。私はあんまり内容覚えてないけど」


「私もだよ。百合ちゃんとやった時は結構前だし、続編が出る前に前作を今日やる?」


「もう、遅いから私は帰るよ」


「じゃ、来週やるから一緒にしよ! 今作はスマホで最大四人まで参加できるからいっぱい呼ぼうね! コントローラーは二つあるから六人か……」


「私友達少ないよ。菫ちゃんは二人確保できるからいいよね」


「二人? 椿と撫子?」


「菫ちゃんはあの二人と一緒にいるところは見るけど、普段はどんな話をしてるのか想像つかないよ」


「SNSでの話や友達や彼氏の話」


「あの二人彼氏いるの?」


「いないけど、誰かが毎回彼氏欲しいとか言って、実際私達で作った人いないよなとか。あの配信者が動画上げてたよとか。そんな話……正直私は話合わないの」


「仲良いと思ってた」


「別に嫌いじゃない。椿ちゃんは私にすごく優しいし、撫子ちゃんもなんでか稀に抱きついてくる。中学の時に前より話すようになった程度かな。まあ、仲は良いと思うよ」


「ゲームの話とかしないの?」


「興味なさそうなのがわかるからわざわざしない。つまんないよ」


「そうかな。もっと自分を見せたらいいと思うよ。案外興味示してくれるんじゃない?」


「……小学生の頃にみんなと仲良くできなかった頃の記憶が残ってるの。子役をやってた時は大人に混じって仕事をしてたから、みんなからすごいと褒められて生きてきた。そして感じるの、疎外感を。菫ちゃんは他と違うからと話に混ぜて貰えなかったことが何度もある」


「今は違う」


「昔の私は子供なのに大人扱いされ、今は大人なのに周囲は子供扱いをする」


「特別扱いが嫌なの?」


「今過保護すぎるのは多分、高校生なのに背が伸びなかったせいなのか、当時の子役のイメージとかがあるのかも。私もさ……普通の女の子なのに恋愛の話をすると蚊帳の外になるんだ。小学生の頃のようにゲームの話をしてるわけじゃないのに、あなたは昔から変わらないねと言われてるようで趣味の話をする気持ちになれない」


「私なんかが助言は無理……それでも仲良くなるならコミュニケーションを取らないと駄目だよ。口で言うのは簡単だけどさ……」


「……今から二人に連絡してみるよ」


 菫はスマホで椿と撫子の二人を自分の家に呼んだ。彼女達は一度家に帰り、私服に着替えてから「お邪魔します」と言って家に入っていく。


「ここが菫ちゃんの家か」


 撫子が壁や柱天井ばかり眺めている。


 椿は菫と話をしながら家に入ると撫子は玄関から動かない。


「撫子ちゃんって私の家で遊ぶのに緊張してるの?」


「そうじゃない」


 菫は首を傾げていたが私の顔を見て「ごめん!」と言って二階の菫の部屋まで急いで階段を上る。椿がため息をつくと撫子が一瞬私を見てから菫の後を追う。


 菫の部屋で私が二人に小学生の時の話をする。菫との話すきっかけがゲームだったことを語ると椿も「菫ちゃんが話しかけてくれた時って私が有名なゲーム実況の人と共演したことがきっかけだったよね」と笑う。


「中学の時に思わず話しかけちゃったの」


「あの頃は休止してなかったから色々仕事が入ってたから忙しくてあまり話もできなかったよね」


「……今言うべきかわからないけど、私ってゲームが好きなんだ。趣味が合わないから言えなかったの」


「別に隠すようなことじゃないと思うんだけど……前々からスマホでゲームをよくしてるイメージあるし」


 椿が撫子を見ると彼女は「好きなんだろうなとは思ってたが……私達を集めて言うことかな」と困惑している。


「それは確かにそうだけどさ。みんなに好かれるような趣味でもないし」


「そんなことないでしょ。私はアロマテラピーが好きで集めてるけど、周りにやってる人なんていないよ。これはマイナーな趣味だと思う。あくまでも私の知る範囲はね」


「SNSだといる」


「友達と話が合わないのは一緒じゃん」


「撫子ちゃんは自分に自信があるから言えるんだよ。私は前に否定されたことがあったから」


「私だって自信なんてない。表面的なことでしか話せないよ。偶然そういう環境だったとしか言えないな。話す人によってはどんなことでも否定されるだろうし……」


「そうかな」


「少なくとも私は否定しない」


 菫は撫子の言葉に嬉しくなったのか僅かな笑顔を見せる。


「そういえば椿ちゃんが普段帰ったらやってることって聞いたことなかったね」


 菫が彼女に近寄ると目を逸らす。


「音楽を聞いたり小説を読んだりかな」


「意外と普通だね」


「まあね。流行りのものを追ってるってのが一番向いてるし」


 椿は私から目を逸らす。


「私ってアイドルだからストレッチとかはしてるけど、他にやることと言ったらSNSで推し活したりで変わったことはないよ」


「推しって聞いたことなかったね」


「別に有名人というわけじゃなくて、それも不本意で……私みたいな熱心なファンばかりじゃないから知る人を増やしたい気持ちはあるよ。それよりも菫ちゃんはなんでここに呼んだの?」


「あ、そうそう!」


 菫は重そうにしながら紫色で球体の形をしたゲーム機を持ち上げる。


「このゲーム機は結構前のやつだけどね。今あるゲームソフトの元祖みたいなものもいっぱいあるの!」


 床に置くと微細な凹凸で球体は動かなくなるように設計されていると菫が語る。彼女が楽しそうにゲーム機を起動させてゲームを始めると椿にコントローラーを渡す。


「え? どう動かすの? あれ、え!」


 椿が菫に渡されたコントローラーで体を傾けて操作する。その様子を眺めながら椿が「レースゲームなんて菫ちゃんやるんだね! 知らなかった。あ、やば」と言ってコースの外側を走る。


「椿ちゃんには話したことなかったけど、うちには色んなゲームがあるんだよ。お父さんがいっぱい持ってて、私なんて昔は毎日やってお母さんに怒られたもんだよ。主に怒られてたのはお父さんだけど」


 ゲームに夢中になる二人を見ながら撫子の手が触れる。


「あ、ごめん」


 撫子は顔を赤くして距離を取る。


「いいよ。その……ありがと。私達別に元々仲が良いわけじゃなかったから助かった」


「別に手助けなんていらなかったと思うけどな」


 一瞬私の横顔を見ていた撫子はすぐにレースゲームをする椿と菫を見る。


「じゃあさ。これからも二人とは仲良くしてね」

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