表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/24

 鈴蘭は隣でスマホを見せながらSNSでの内容を見ていく。私の写真を加工して使っている以外は特別問題がないように思える。


「どこが危険?」


「本人に許可を取らずに盗撮してることが危険。百合ちゃんが実在してることを知って場所を特定しようとする人がいるかもしれない」


「実在って」


「まるで神様でも崇めるかのような言い方だからね。多分、本当に百合ちゃんのことが好きな人がやってる。嫌いだったら顔だけ加工して体は別の人にするだろうし。肌の露出は少ない。文章も褒める内容ばかりで批判的なことは一切ない。この人を特定したいのだけど……」


 心配そうな鈴蘭と駅に行くと彼女はため息をつく。


「どうしたの?」


「今日は家に誰もいないんだ」


「それで?」


「私の家に来てくれない? 一緒に対策考えよう」


「家は駄目だね。私は親の夕飯作らなきゃだし」


 落ち込む鈴蘭を見て私は思いつく。


「私がSNSでアカウントを作れば反応するんじゃないかな」


「スマホもないのに?」


「鈴蘭ちゃんのがあるじゃん。そのスマホで写真を撮って私の写真を使ってるアカウントに直接連絡すればいいよ」


「危険だよ。百合ちゃんは可愛いんだから何が起きるかわからない。写真まで上げる必要ないでしょ」


「必要だと思うな。岸辺百合という名前だけで信じてくれるかもよ? それだけ私のことが好きなら本物だと見抜けるかもしれない」


 電車が到着するも鈴蘭は乗ろうとしない。


「私は投稿された写真や文章から探そうとしてたのに……」


「そんなんじゃ日が暮れる。ほら」


「仕方ないな」


 私が伸ばした手を掴むと彼女は電車に乗り込む。


 何駅か過ぎてから彼女にどこで降りるつもりなのかと聞くも「私の家は学校から近いから自転車でもいいんだ……車だと一緒に帰れないし」と外の景色を眺めながら呟く。


「鈴蘭ちゃんはどこに行くの?」


「百合ちゃんの家だよ。だって一人で家にいるの怖いし」


 電車が止まって冷蔵庫の中身について考えていると膨れたお腹に気づく。


「そういえばなんでたい焼きだったの?」


「ああ、今日は家に誰もいないから何か食べようかなと思ってたの。特別夕飯が決まってるわけじゃないからね。あそこのたい焼き美味しかったでしょ?」


「美味しかったよ。そうか、やっぱ鈴蘭ちゃんも一人は嫌なんだ」


「どうだろ。でも、まあ……親が仕事なことが多いから慣れてるよ。食事に関してだと私の提案で可能な限り普通の生活を送ろうと心がけてる。それでも家での私はみんなからしたら普通じゃない」


「……私鈴蘭ちゃんのこともっと知りたい」


「ありがとう。いつも一人だったから勝手なことばかり言ってごめんね」


「いいよ。振り回されるのも楽しいし。それに私も一人でいることが多い、仲間だからね」


 鈴蘭を連れて家に入ると彼女は緊張しているようで玄関から動かない。無理に腕を引っ張ってキッチンに立つと二人でスープカレーを作る。鶏肉と野菜を切って炒めている間に彼女と作戦会議を開く。


「ちなみにどんな写真を上げるつもり?」


「それって私が百合ちゃんをプロデュースしてもいいってことだよね?」


「多分」


「多分って……」


 鍋に水を入れてしばらく経つとルウを割り入れて溶かす。


「私の家って普段はスープカレー食べないんだ。というよりカレーもあまり」


「珍しいね。簡単だよ? これから一緒に色々覚えようか」


「わかった!」


 煮ている間に両親が帰ってきた。父と母は途中で一緒になったらしくて話をしていたが玄関にある靴を見てキッチンにいる鈴蘭に気づく。


「友達か?」


「お父さん。こちら鹿島鈴蘭さんで私の友達」


 鈴蘭が妙に緊張しながら「不束者ですがよろしくお願いします」と言った。彼女の言葉に二人は笑いながら頭を下げる。


「よろしくね、うちの子ってこんなんだから友達少ないの。仲良くしてあげてね」


「いいから着替えて!」


 母と私の会話で笑顔になる鈴蘭を放置して出来上がった器をテーブル上に置く。


 今日は四人での食事となる。


 父が器を見て首を傾げた。


「あれ? 量多くないか?」


「たい焼きを二人で食べてお腹いっぱいなんだ。その分だけ二人の量が増えちゃったけど」


「父さんは問題ないが、母さん!」


 父の大声を聞いて母が着替えを終えて器を見る。


「これぐらいならお腹空いてるから平気よ!」


 食べ始めると案外お腹に入っていく。父と母に少し多めに入れたこともあって全部食べられそうだ。そう思い隣を見ると鈴蘭が苦しそうにしている。


「ごめんね。残してもいいから」


「悪いよ」


「……少し食べようか?」


「いいの?」


「うん」


 鈴蘭は器を持つとスプーンで鶏肉をすくうと私の口に運ぼうとする。一瞬戸惑ったが上目遣いに心動かされて口に含む。


「どう?」


 鶏肉を口の中でゆっくりと噛みながら頷く。


「百合ちゃん? 美味しいかな?」


 ようやく口にあるものをすべて飲み込む。


「自分で作ったんだから美味しいのは知ってる」


「まあ、ね」


 次々と送られてくる野菜を口に入れられると満腹になってしまう。


 父と母との会話に思わず鈴蘭も自然と声が弾んでいく。笑みを浮かべるだけの私と違って彼女は慣れた様子で話に加わる。仕事の話を聞き出すと普段の学校での内容に変化させていく。


 不思議と三人での会話は普段より楽しそうに思えた。


 同じ血の繋がらない子なら鈴蘭のほうが便利なのかもしれない。


 夕飯が終わると母が私を見る。


「洗い物はいいから先にお風呂入りな」


「一緒に入ったらいいさ」


 父がビール片手に笑う。


「わかった。行こうか」


 鈴蘭と一緒に風呂場に向かおうとしていると彼女は突然背を向ける。


「一緒に入るわけないでしょ!」


「……お風呂の使い方教えるね」


 リビングに戻ると父は不安そうに「仲良くないのか?」と呟く。


「裸見せたくないんでしょ」


「同性なのに?」


「お父さんだって体見られて恥ずかしいとか思う時だってあるでしょ」


「……仲良くても同じ風呂に入るのは勘弁なのは確かにそうかも」


 夜になると鈴蘭が私の部屋に行き、先程話していた岸辺百合というSNSのアカウントを作っていた。本名で作って顔写真もネットに上げるのは危険だと鈴蘭に止められたが「何か起きたら守ってよ」と冗談を言うと真剣な表情になる。


「任せて」


 制服の写真で撮ろうとしたが私服に決めた。


「ねえ……他にいい服ないの? このパーカーとスカート……後はワンピースか。服の種類少ないな」


「服買ってないんだ」


 鈴蘭の指示でポーズを決めて写真を撮る。


「この写真……ネットに上げるの?」


 迷っている鈴蘭の後押しをしようとスマホをタッチするとアップロードされていく。始めての画像を投稿をしてから息を吐いた。


 鈴蘭と相談して百合ちゃん教というアカウントに連絡してみる。しばらく二人で返事を待っていたが眠気や恐怖から頭が働かなくなってきた。


「スマホの電源切って明日にしようか。寝たほうがいい、健康に悪い」


「確かに少し眠そう」


「それと怖い」


「怖いの?」


「実際に会おうと考えると……もう寝よう。考えたくない」


 部屋を暗くして鈴蘭と一緒のベッドで眠る。彼女には私のパジャマを着て同じベッドで眠ることになるが不満はなさそうで楽しそうだった。


 狭いベッドで私は彼女の顔を見ないように背を向ける。


「私のことを好きなのって本気なの?」


「教えてあげない」


「怒ってるの?」


「怒ってない」


 彼女の表情が見たくて振り向くと鈴蘭の顔が近づいた。思わず目を逸らすと彼女は悲しそうにしながらも笑顔を見せる。


「……なんでもない」


「ごめん」


「謝らないでよ」


 目を閉じた時に見せた顔を思い浮かべながら眠ると朝になっていた。横で眠る鈴蘭が目を覚ますと恥ずかしそうにしながら髪の毛を触る。


「……おは」


「うん、おはよう」


 私は背伸びをしながらカーテンを開けた。


 一階に行くと朝食のパンは二人分用意されていた。パンを口に入れて寝ぼけている彼女を見ると座ったまま動かない。


「鈴蘭ちゃん」


 もぐもぐと噛みながら椅子に座る彼女を眺める。可愛いよなどと呟くことはせずに二人で涼しい風を浴びながら学校に行く。


 昨日はあまり眠れなかった。今日の私は鈴蘭の寝息を聞きながら眠ったせいで気分が高まっている。手を繋いで歩くだけなのに未知の感動を覚えた。


 朝早いと道には誰もいない。


 世界で私達だけになったと錯覚してしまいそうになる。


 私を好きと鈴蘭が言っていた。他の人にも言われた言葉でつまらない意味として扱ってこなかったはずなのに、今では特別な意味へと変わっている。


 彼女に向き直ると繋いでいた手が更に強く握られた。


 顔を近づけさせた鈴蘭は手を絡ませる。


「顔……近いって」


「ごめん」


 私はもっとこの人のことを知りたくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ