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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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 出会ってからキスをして色々な場所に行ってきたが何事もなく終わっていた。同じベッドで眠ったこともあったのにと思いながら全部を済ませて脱衣所から出る。


 ベッドに座る鈴蘭と見つめ合うと彼女も照れているのか顔が赤くなっていた。


「入りなよ」


 私の言葉に頷き浴室に行く鈴蘭の姿が消えると着替える時や体を洗う時に聞こえる音が耳に入る。脱衣所で髪の毛を乾かしながら鈴蘭の裸を私は想像してしまう。


「……何度も見てるのに」


 緊張していた私はお風呂から出てきた鈴蘭の髪の毛をドライヤーで乾かしながら落ち着かせる。彼女の髪を可愛くしようとするも結び方がわからず「やってあげるから」と言われてしまう。可愛く髪を結ばれて嬉しくなっている私を見て彼女も笑顔になる。

 

 ベッドに座ると私はまるで(へび)に睨まれた(かえる)のようになっていた。


 そんな私を見て鈴蘭はそっと優しく抱きしめる。


「今日はありがとう。もう疲れたよね」


 頭を撫でる鈴蘭に「大丈夫だよ。私……今とても幸せで、こんなにも愛されてるとは思わなかった」と言って彼女の背中に手を回す。


 不意鈴蘭が私に笑いかける。


「困ったな」


 何度も見たはずの鈴蘭の美しさに目を奪われてしまう。


 今なら何をされても受け入れてしまいそうだ。


 言葉を失っている私に軽くキスをすると彼女は「愛してるよ、百合」と呟く。


 何度も唇を重ねていると時間が過ぎるのを忘れて没頭してしまう。


 ベッドでの私は小さな声しか出せない。長く白い指を這わせながら次々と体中を触れていく彼女に翻弄(ほんろう)されていた。熱を持った私の体に触れる度に彼女も体温を上げていく。隙間(すきま)()うように動く長い舌が全身を隅々まで進むと私は呼吸を乱してしまう。


 彼女に取り込まれていくような感覚に、頭の片隅にあった何かが壊れた気がした。


「大丈夫?」


「……うん、平気」


 水分を欲するように自然とお互いの唇が合わさると目を閉じた。足を開かれながら私の体を滑るように移動していた彼女が息を荒げる様子を眺める。


 不思議な感覚だが悪くなかった。


 頭が回らず目の前にいる鈴蘭を見ることしかできないが、焼けるような熱さの中で私に触れた彼女は優しく頭を撫でて微笑む。


 安心して唇を預けた私は彼女を抱き寄せて「愛してる」と言った。


「私も愛してる」


 お互いの名前を呼び合いながら朝を迎えた。


 閉まった状態のカーテンの隙間から光が差し込むと起き上がる。


 隣で眠っている鈴蘭と違って私は全然寝ていない。

 

 乱れたシーツを見ながらため息をつく。


「ん、おはよう」


 ため息をついている姿を見ていたのか「……上手じゃなかった?」と不安そうに聞いてくる。


「そうじゃない」


 時計を見ると既にお昼ご飯の時間帯だ。


 学校を遅刻どころではなくなっている。


 親には一応言ってはあるが流石に泊まったまま学校に行かないのは不味い。


 後々言い訳を考える必要がありそうだ。


 カーテンを開くと太陽を浴びる。


「いい天気……眩しいね。鈴蘭」


 鈴蘭は起き上がって数秒程度悩むと私に駆け寄る。


「すーちゃんとか呼ぶのはどう?」


「へえ、呼んでほしいんだ。ちゃん付けが良かったの?」


「あんまり呼ばれたことがない名前がいいなと思ってたんだ」


「それでいいなら構わないけど……私はゆーちゃんとか?」


「いいと思う!」


「変じゃない?」


「可愛い」


 私は心の中で鈴蘭を褒めることにした。


 あまり言い過ぎても飽きる。


「ありがとう」


「え」


「小声で綺麗だよって言ったじゃん」


 鈴蘭の艷やかな髪に私は触れる。


「……綺麗だから仕方ないでしょうが!」


「ありがとうね」


 鈴蘭が私にキスをした。


 今更になって恥ずかしくなってきた。


「さ、学校行かないと」


「え……今から? ゆーちゃんは真面目だな」


「……慣れないな。それ」


 鈴蘭の車に乗ろうとしていた時、足元を見ていなかった私は一瞬転びそうになった。しかし、普段なら転んでいたが今日は鈴蘭と手を繋いでいる。


 彼女と顔を近づき思わず私は顔を背けた。


 車に乗り込むと彼女も顔を赤くしていたようで学校まで無言のまま向かう。


 学校に到着して下駄箱まで歩きながら体は元気なのに足が重い。


「やっぱ休めば良かったかな」


「ゆーちゃんも体力あるほうだと思ったのにね」


「誰のせいで疲れたと思ってんのよ」


「私のせいか。ごめん」


「いいよ、お互い恥ずかしい顔見せたから引き分けで」


 靴を履いて教室に行くと桃が鈴蘭に挨拶をして近寄る。二人の会話を聞かずに席へと行くと昨日の光景を思い浮かべてしまう。


 この好きという気持ちは決して好奇心だけじゃない。


 変わらない感情はないと思いたいのは私が本気だからだ。


「……やっぱり」


 突然桃の声がして振り向く。


「何よ」


「……さっきね。鈴蘭と話してたんだ」


「あ、そうだ。何を話してたの?」


 正直あまり眠れていないから座っていると寝てしまいそうだ。


「鈴蘭からいい匂いするなと思って、この匂いって何? そう聞いたら香水って言ってた」


「へえ」


「それと同じ匂いが百合からする」


「偶然じゃないかな」


 桃から聞かれたことを否定する必要はなかったな。


「何かあったの?」


「多分、何もない。ちょっとだけ……眠らせて。詳しい話はすーちゃんに……」


 言いたい話はあったが私は目を閉じて眠ることを優先した。


 私が眠っていると清水先生に怒られたが、何気ない日常の風景に支えられている。そんな感覚から眠るのを中断して授業を聞くことにした。


 放課後は私の家と鈴蘭の家を行き来する。


 家に帰っても彼女が触れていた指先の感覚がして妙な気分になるが、そんな時は少しの間だけ桃と話をして実際あった出来事を話す。彼女は微妙な反応をしていたが黙って聞いてくれた。


 冬を迎えるとお揃いの服を着て休日デートをする。撫子から教わったマニキュアや似合う服などを披露して驚かせた。喜んでくれたが何をしても褒める鈴蘭には困ってしまう。


 久しぶりにライブ配信をして鈴蘭を紹介した。


 私の可愛い彼女ですと言った時の鈴蘭は照れて困った様子だった。


「すーちゃんは控えめに言っても宇宙で一番愛らしい」


「……わかったから、早くゲーム開始するよ」


 鈴蘭を紹介してもおめでとうしか言わなかったリスナーもゲームを始めると厳しくなる。


 これも優しさのうちだと鈴蘭は言っているが、彼女から褒められるのに慣れていたので簡単に落ち込んでしまう。


 そんな時も鈴蘭は私の頭を撫でてくれる。


 鈴蘭は優しい。


 まだまだ寒い季節だが暦の上では春だ。


 鈴蘭とお揃いの薄いピンク色のシュシュをつけて登校する。彼女と手を繋ぎ学校に行くのも短くなってきたが悲しくはないと思う。


「本当はね、小さな頃にゆーちゃんから告白されてたの」


 周囲にはあまり人がいない。


 少し遅めに登校しているせいだろう。


「そうなの?」


「覚えてなくてムカついたから、嘘だってことにしたけどね」


「悪いことしたな」


「本当だよ」


「それでも好きでいてくれたんだ」


「小さな頃の好きに大した意味なんてなかった。それでも私は居場所を見つけた気がしたの……だから覚えてなくていいよ。私はあの好きを独り占めしたいから」


「その後はすーちゃんから告白されて別れて……また喧嘩して付き合って別れて。その繰り返しになるのかな……嫌だな」


「ゆーちゃんって物事を悪い方向ばっかりに持っていくよね。私さ、前に言ったよ? 幸せにするって。あの言葉まで忘れるつもり?」


「絶対忘れないから!」


 鈴蘭は私と一緒の大学には行かない。


 父親と一緒に海外に行ってしまう。


 今度は家族揃って暮らすことを決めている。


 私はその決定に喜んだ。


 それでも複雑な気持ちなのは変わらない。


「日本に戻る予定が決まったら言うね」


 鈴蘭と握っていた手に力が入る。


 本当は行ってほしくない。


「急がなくてもいいから、向こうでも頑張って」


「……そんな寂しがりだった? 言いたいことがあるなら、きちんとお願いしないと駄目よ」


「だってさ。言ったところで変わるわけじゃないし、私が余計なこと言って迷惑かけたくない」


「期間を決めて海外に行くだけだよ。それにゆーちゃんは私より強いでしょ」


「強くない。こうやって何もできないし……めちゃくちゃ寂しいけど、我慢してるの!」


「逆に言うけどさ……私がなんで寂しくないと思ってるの? 私もめっちゃ寂しいよ」


 やはりお互いのことをわかりすぎている。


 下手な誤魔化しもできない。


「知ってる。だから……私はあなたを支えたい」


 愛してくれる人の為にも、この人を守ってあげたい。


 そして私を幸せにしてと自分の都合を押し付けることはしない。


 私は幸せになる方法を見つけたのだから。


「こんな情けない私だけど、愛すると誓ってくれますか?」


 鈴蘭の気持ちに私も精一杯向き合おう。


「誓います」


 私達は何故か笑ってしまった。


 教室内に行くと授業が始まる寸前だが非常に騒がしかった。


 ドアを開けて清水先生が入ってきても喋るのが止まらない。


 私達は六人で集まって話をしていた。


「今日までありがとう。百合」


 涙を流す撫子は私に頭を下げる。


「感謝されても」


「百合のおかげで私……」


 私の手を掴んだ撫子は泣いてしまった。慰めようと思い撫子の頭に手を伸ばす。優しく撫でていると泣き止んだようで笑顔に変わった。


「私も泣けば良かったな」


「菫も泣いてくれるの?」


「ちょっとだけ泣きそうなんだよ。椿と桃は既に泣いてるから……」


 撫子が泣いていた時よりも前には涙を流していた二人は抱き合っている。


 清水先生の声が響くとクラスメイトが自分の席に戻ろうと移動を始めた。


「そろそろ席に戻らないと……すーちゃん?」


 突然私の腰に手を回すと私を見つめる。


 迷わず唇を重ねられたが拒むことはしない。


 唇が離れる瞬間は冷静さを取り戻していた。


「すーちゃん! 今どこかわかってる?」


 泣きそうな顔をしていた鈴蘭は力強く私を抱きしめる。


 鈴蘭は何も言わない。


「……昔から変わらないな」


 私は鈴蘭ともう一度キスをする。


 その不安がいつかなくなる日がきても、私を変わらずに愛してね。


 心の中での呟きを誰にも言わずに長いキスをした。


「お返し」

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