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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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 嘘は言わなかったが真実と断言はできない。


 真川玲と腕を組みながら歩くと彼女が明日について話し始めるが頷くしかできなかった。


 朝になってスマホを確認するも真川玲からの連絡はない。


 朝食を済ませてからもう一度確認すると鈴蘭から「今話せる?」とメッセージが届いていた。


「どうしたの? 何かあった?」


『何かあったわけじゃないの。ちょっと話したかったと思って』


 人の話し声と足音が聞こえる。


「久しぶりだね。こうして話せると嬉しいよ」


『私も話せて嬉しい』


「別にいつでも話せたのにね」


『予定が合わない時もあるよ』


 普段通りの声なのに少し震えている気がした。


 後ろから僅かに漏れて聞こえる音は駅にいる間に一定間隔で鳴っているものだ。


「最近は忙しくて夜とか話せなくてごめんね。学校も会えない時があったのも悪かった」


『気にしてないよ。頑張ってたの私見てたから』


「鈴蘭の話が聞きたいな。最近は何してたの?」


 彼女の話を聞きながら着替えを終わらせると耳を澄ませる。遠くから電車のブレーキ音とドアの開閉時に聞こえる音。まだ電車に乗ってはいないが駅のホームにはいるようで楽しそうに自分の話をしている。


 耳に当てたスマホから聞こえる鈴蘭の声は優しさが溢れていた。


『そういえば今日ってどこか出かける予定なの?』


「実はそうなの」


『それじゃあ、悪いことしたね』


「いいよ」


『またね』


「また」


 数秒ほど通話は切れなかった。


 家を出ると冷たい空気に震えながら駅へと向かう。


 真川玲との待ち合わせの時間までは先だが遅れるよりはいいはずだ。それにこんなにも晴れた日に散歩をせずにいるのは我慢できない。


 昨日と違って不思議と気分がいいのは何故かと考える。


 そうか、久しぶりに鈴蘭と話したから。


「友達だもんね、元通りの友達」


 それを言葉にしながら元通りの友達に笑いそうになる。


 鈴蘭と会った時から友達らしいことはしていない。


 私は軽やかな足取りで駅に行くと周囲には鈴蘭の姿は見えなかった。


 少し期待していたのは確かだが、今は真川玲との待ち合わせが重要だ。


 真川玲からのメッセージでちょっと電車が遅れそうときた。待ち合わせまで時間があるので付近を歩いてみる。


「嫌な気分じゃないのに」


 今までも好きな人以外と出かけたことはあったが、慣れ親しんだ景色を眺めながらだと虚しい気分になっていく。


 これから誰と付き合ってもこんな気分を味わうのかだろうか。


 重い足取りで駅まで戻ると改札から出てくるランディシュ・パリスデイジーを見つける。彼女が肩で息をしながらスマホで誰かと連絡を取っているが私に気づかない。


 彼女と目が合うと急に近寄り私の肩を掴む。


「鈴蘭がいないの! あ、鈴蘭のこと知ってたら教えて!」


「……何かあったのですか?」


「あの子が突然いなくなったの。婚約者と会っていたら急にね。何か悪いことしたんじゃないかと彼も戸惑っていたけど……今になって不安になってきて。私も同席してたけどんだけどさ。表情が暗くて……」


「受け入れたのだとばかり思ってました」


「百合とは別れたと聞いて、そうなんだと思っていたら婚約者と会う話になって……空木も無理強いはしないと言ってたから私も安心してたの。あの子だって子供じゃないんだからって」


「一緒にいてあげてください。鈴蘭は大人じゃない。守ってくれる人がいないと駄目なんです」


 私じゃ守れない。


 むしろ私のほうが守られたいよ。


「……今更私には何もできない。空木を愛してる、鈴蘭を愛してる。頭ではそう思っても……私は何もしてないのよ。全然ね」


「今から行動で示せばいい」


 私はスマホで鈴蘭に通話をかける。


「鈴蘭。今隣に母親がいる」


 耳元から鈴蘭の声が聞こえるが先程と同じで震えたままだ。


『そう……別に期待してないよ。私帰らない。ずっとママとパパの言う通りに生きようとした。みんなを好きになって幸せに生きること、社会の歯車になって生きること。時々思うの。なんで二人って出会ったんだろうって。ママは奔放、パパは厳格。私は全然違う生き物だと思ってたけど、両方共混ざり合っていた。奔放と厳格さは二人持っていたの……』


 遠くから「まもなく一番線に……」とアナウンスが聞こえる。


「鈴蘭?」


『昔ね、お手伝いに来た人が私に言ったの。似てないねって。確かに私は顔の特徴で似てる部分はある。でも、そんなの誰でもあるものだった』


 私は鈴蘭が何を思っているのかわからない。


 それでも困っているのはわかる。


「何を言って」


『婚約者と会った。すごくいい人で話しやすいと思った。私はこの人と結婚して一生を終えるんだと思ったら……怖くなったの。全然別の生き物なのに、私を純粋に好きでいてくれて、お金も性格もいい人が……私を欲しいと願ってる。多分、私は時が経てば愛してしまう。それがわかるから怖い。私は変わるのが恐ろしい』


 通話は切れてしまった。


 どこに行くのかは駅のアナウンスで聞こえた。


「じゃあ! 行ってきます!」


 ランディシュ・パリスデイジーの声が背後から聞こえるが気にせずに駅へと入った。電車に乗り込むと待っている時間が惜しく感じる。長い時間電車に揺られていた気がした。駅のホームに到着後は乗り換えをして別の電車に乗ろうとするも足が止まる。

 

 この駅は以前鈴蘭と水族館デートで来た時に見た記憶があった。


 私は鈴蘭がいる駅を検索するとここから更に遠くにある。


 既に一時間程度過ぎた時に真川玲から連絡を受けるが時間がかかると返事をして目的の駅に着く。


 駅のホームで立ち尽くす鈴蘭を見つける。


「こんなところで立ってると風邪引くよ。ずっとここにいたの?」


「その場の勢いで飛び出してきたからね。私の居場所教えてなかったのに」


「このアナウンス」


「……盲点だった」


「そうでもないでしょ。誰だって思いつく。帰ろ?」


 私が鈴蘭の手を引きながら電車に乗ろうとしてお腹が鳴る。既にお昼は過ぎていた。私達は空腹から駅の中にあるカフェでジェノベーゼとカフェラテのセットで同じものを注文する。食べながらの会話が途切れそうにないので急いでお腹に入れて、電車へと早歩きで向かった。


 端の席に座っていると心地良い眠気から目を閉じた。


 電車のドアが開く音がして目を覚ますと何駅も過ぎていたことに気づく。


 電車から周辺を見てみると近くにホテルを見つける。


 私に寄りかかって眠る鈴蘭を起こそうと揺らす。


「起きて」


 太陽が沈んでいくのを眺めながら鈴蘭を起こすと電車を降りる。


「どこ?」


「さあ? 知らんな。とりあえず今日はホテルにでも行こうか」


「うん……」


 起きたばかりの鈴蘭は眠そうにしていたので手を繋いで歩く。


 スマホからの通知を見て驚く。


 両親から何十件もメッセージが届いている。急いで母と父に友達と遊びに行っていることを伝えると安心したのか「帰れないなら早く言いなさい」と怒られてしまった。


 待たせていた真川玲には行けなくなったことを伝えてホテルに入る。


 二人で一緒の部屋に入ってベッドの上に飛び乗った。


「今日はありがとうね。一緒にこんなところまで来てくれて」


「友達の為にできることはする。そうじゃないと仲良くなった意味がないからね」

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