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「玲ちゃんって勝手だよね。前も私が可愛いって言ってた服着なかったし」
「はあ……唯ちゃんは毎日楽でいいよね。可愛い服着て、みんなから可愛いよって言われて。それだけで生きていけるんだからさ」
「面白いこと言うじゃないの。それ普通だよ、玲ちゃんもそうでしょ?」
「私はファンの為に可愛い自分を演じてるだけ。あなたはプロ意識が足りない」
「ここで喧嘩するような人が言う? 玲ちゃんって正直すぎて嫌われてるよ」
「今は私が嫌われているかは関係ないでしょ。というか私からあなたに喧嘩売ってないし」
「そうかな? あー、まったく……昔はもっと可愛かったのにな……」
「と! いった感じで仲悪い雰囲気を表で出せるほどに信頼関係が深まっています! こんな感じで最後まで話をするので皆様どうか楽しんでくださいね!」
二人が本気なのかわからない。
少なくとも私には本気の喧嘩をしているように見えている。
「そんなんだから玲ちゃんは人気が出ないんだよ。もっと笑顔だよ、笑顔」
「……昔の私見たことあるならわかるけどさ。毎日みんなに笑顔を届けてたよ。あなたのような社長に笑顔を届ける人とは違う」
「お前」
「私は真面目だったよ。前までは」
呆然と立ち尽くしているとプロデューサーが私に締めの一言と書かれた紙をテーブルに置く。私が持つ台本にも最後は何を言えばいいかなんて書かれていなかったが、プロデューサーに渡された紙にも「締めの一言」以外は何も書かれていない。
「締めの一言……締めの一言? また会いましょう! ばいばい!」
私が手を振るとライブ配信が終わった。
ため息をついて立ち上がる藤原唯は開けられていたドアを力強く閉めて出て行く。私を見ていた真川玲は「すみません」と言いながら頭を下げる。
「いいですよ。仕方ないことだと思います。これも個性ですから」
佐野明はお菓子と見つめ合ったまま動かない。
「グリモアの時にいたメンバーが全員いなくなって、今いるのはあまり人気じゃなかった人達。協調性ないのは仕方ないじゃ済まされない」
「問題が起きても今日みたいに私がなんとかしますよ。大丈夫です」
「私ってすぐに思ったこと口にして嫌われ者なの」
黙って座っていた森崎春がプロデューサーに近づき「後はよろしく」と肩を叩く。そう言って部屋から出て行く森崎春を追いかけるプロデューサーを見ていると佐野明が立ち上がった。
「私……帰ります。用事あるので」
「あ、ああ……お疲れ様」
残された私と真川玲はお菓子やジュースを片付けながら「聞いて」と真剣な表情をする。
「人気がないとは言ったけど、前いたセンターの人や他の人と比べたらね。私もそれなりにファンはいるから」
「知ってますよ。玲ちゃんは可愛くて、とっても美人なのは誰でも見たらわかる。そしてすっごく素直なのが良いところ。それをわからないファンはいないって」
「何言っても褒めてくれる」
片付け終わってもプロデューサーは帰ってこない。
「どうしようか」
「百合ちゃん、もう帰ろうか」
真川玲がプロデューサーに帰ることを伝えるも返事はない。彼女と別れて家に帰って一休みをすると急いでスマホを確認したが鈴蘭からのメッセージは届いていなかった。
私が寝る前に鈴蘭から「ライブ配信を見ていた」と短めのメッセージを見る。鈴蘭と話をしようとベッドに座り直して通話をすると『グッズとかは作るのか』と聞いてきた。
「あ、そんな話……台本にあったな。頭真っ白になってた……」
『仕方ないよ。精一杯やってた』
「言い訳にならない。お金もらってるのに」
『最初だから今後できるようになる』
「会いたいな、鈴蘭に」
『私もだよ。明日学校でいっぱい話そう』
「うん……それじゃあ、おやすみなさい」
『おやすみ……百合』
夢の中で鈴蘭が急に服を脱ぎ始めたがすぐに目覚めてしまった。
学校で鈴蘭と会うも恥ずかしくて目を逸らす。顔を合わせる日々が減る度に、変な夢を見るようになっていく私に戸惑うも鈴蘭に言えるはずもない。
アイドルとしての活動報告を椿にしようと近づく。撫子や菫の二人は興味津々になって私達の話を聞く姿勢を取る。身を乗り出して聞く撫子と菫のほうが面白そうに頷いていたが、椿は吐きそうなほどに青い顔になって早退するとまで言って教室を出て行ってしまった。
私は撫子と菫に今の話は内緒だと言って椿を追いかけたが姿は見えない。
教室に戻ってスマホを見るとネットニュースに「森崎春卒業」と書かれていた。
もう、そんな時期か。
日差しが強くて夏に近づいていたが気持ちとしては穏やかだった。そのはずだがクラスメイトが私に「森崎春卒業したんだって?」と聞いてくる。次第に落ち着かなくなって「そうだよ。悲しいよね」と言うだけの機械となるしかなくなった。
しばらくしてメジャーデビュー・アルバム発売決定という告知を見る。このなんでもない告知でも批判する人がいる。結構時間が経過して徐々に炎上は落ち着いていたが、正直自分を褒めるコメントしか読む気にはなれない。
「全員ビジュがいいか……」
私は自分のSNSを見ながらベッドで寝転がる。眠る時間帯になって他のメンバーのSNSを眺めていると佐野明が炎上していた。彼女がネットに上げていた画像に写っていた手が男のものだとして騒ぎ立てている。本人は兄だと語っているがプロフィールには一人っ子だと書かれていた。
正直本当に兄がいるのなら隠す必要が私には思いつかない。
「彼女も大変だ」
翌日以降も炎上していたが兄という誤魔化しに納得していたのかファンは落ち着いていた。こういう時にグループ全体の問題になりそうなのが面倒で仕方ない。
朝食のパンを食べながら佐野明の話を思い出す。
「私も気をつけなくちゃ駄目かも。いや、どうなのかな」
彼氏がいる場合は慎重になる必要がある。
彼女の場合は炎上するのだろうか。
学校で鈴蘭と会う機会が減ってダンスレッスンなどが増えて、本格的にアイドル活動で忙しくなると連絡を取るのも少なくなる。
夏休みに入る時期へと近づくと鈴蘭が私を呼び出した。
以前と違って鈴蘭のほうが私の顔を見ようとしない。何度か来たことのあるカフェの隅にある席に座ってしばらくすると小さな声で「別れよう」と鈴蘭が言った。
聞き間違いかと思った。
「別れる……誰と?」
「もう、耐えられない……アイドルとして活躍する百合は輝いていて素敵だった。そんな彼女を私は素直に応援できなくて。ごめんなさい」
変な気分だ。
「私の何が……え? 何が駄目……」
言葉が出てこない。
高橋翔太と別れた時は冷静だった。
今は何故焦っているのか。
「可愛い女の子と話す度に嫉妬して……自分がとても醜い存在になっていくの。私は……なんでもない。帰ります」
鈴蘭が立ち上がると彼女は泣いていた。
「私、私は……別れたくない!」
私が彼女の手を掴もうとするも離れていく。
唐突な話に頭がついていけない。
私を幸せにすると告白してきた鈴蘭が別れ話をした。
去っていった鈴蘭からのメッセージに「これからは友達として」とだけ書かれていた。
涙が出なかった。
家に帰ってから菫に鈴蘭から別れを告げられた話をする。普段通りに通話で雑談のような感じで喋り始めた。それなのに私は涙が止まらずに喋ることが難しくなっていく。物事の良い面と悪い面を語ればできたのに菫は頷くだけで何も言わなかった。
朝はカーテンを開けた時の太陽ですら気分を落ち込ませる。
寝て起きても生活が変わるわけではない。
鈴蘭と挨拶をしようにも勇気が出ず、彼女も私を見ようともしなかった。
クラス内で私は一人だ。
誰とも喋らずに時計を眺めているとスマホからメッセージが届く。桃が今からトイレに来てという内容を送ってきたが一分後には授業が始まってしまう。
ふらふらと歩きながらトイレに入ると桃が私を見つめていた。
「桃……久しぶり」
「百合のアイドル活動もあって、最近はみんなと会う機会減ったからね。同じクラス内に撫子がいると前みたいに鈴蘭とは話せないけど、私は色々と相談を受けてたの。知ってた?」
「知らなかった」
「それなら鈴蘭に婚約者がいることは知ってる?」




