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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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「未練なんてないでしょ」


「そうとしか思えない」


「お互い、そんな気持ち残ってないと思うな」


「私が聞いてみるよ……なんて言ったらいい?」


「岸辺百合さんに未練とかあります? 付き合いたい? 少なくとも私にはないね」


「そんな感じでいいか」


 高橋翔太とのやり取りを桃に任せて授業を受ける。


 ショートケーキノックアウトのファンは桃と同じような感じなのだろうか。


 私は気楽に構えていたが一週間後に桃から高橋翔太と付き合うことになった。そう告げられた時の彼女の表情を見て驚いた。


 嬉しそうな顔をしていなかった。


 聞き出そうとするも何も言わない桃に私は鈴蘭の腕を掴んで廊下に連れ出す。


「痛いよ」


「あ、ごめんね。そのね」


「桃の話でしょ。前に相談受けてたんだ」


「知らなかった……」


「高橋翔太先輩の話を百合にするわけにもいかなかったからね。あの人百合にまだ未練があるのかもとは言ってたけど」


「え? それならなんで桃と付き合ったの?」


「詳しくは知らない。妥協なのかな」


 私は授業なのに三年生の教室まで走り出す。三年の教室まで行くことは一度もなかったが以前彼と一緒に学校を見て回ったことで覚えていた。


「高橋翔太!」


 私の叫び声を聞いて驚いた彼は「お前」と言いながら廊下に出た。


「桃に何をしたの!」


「何もしてねえよ」


「桃が悲しそうな顔してた」


「それで」


「私に未練あるんでしょ」


「随分と自信があるんだな。一度でも言ったか?」


「鈴蘭が未練あるって」


「誰だよ、それ。俺は未練あるなんて言ってない」


「桃に告白したって聞いて」


「話してたら音楽の趣味とかで盛り上がって告白した。確かに勢いもあったが本気だ。未練があるわけじゃない」


「百合!」


「桃……なんでここに。え、え?」


 突然現れた桃が私の手を引っ張ると階段を下りていく。


「高橋翔太先輩と話をしたのはなんで?」


「桃が悲しい顔してたから」


「そう見えたんだ」


「ごめんなさい。私が無理に鈴蘭から聞いたから……」


 二年の廊下で桃が立ち止まると冷たい目で私を見る。


「不安な気持ちがあるのは間違いない。でも、今百合に関係ある?」


 桃は手を離すと振り向かずに早歩きで消えてしまう。


 友達から拒否されるのは一度や二度じゃないはずだ。


 それでも少しだけ悲しかった。


 立ち止まっていると清水先生が目の前から歩いてきた。


「岸辺さん、授業始まるよ」


「早退します」


「ちょっと!」


 学校に持ってきていたものなんて何もない。


 早く寝たかった。


 私は家に帰るとベッドの上で眠る。


 寝て起きると頭がすっきりしていた。太陽を浴びながら窓の外を眺めていると以前見たアイドルの話を思い出す。


 SNSのメッセージの文章を見て芸能事務所を調べてみると実在するアイドルグループを見つけた。そこの事務所のグリモア・オブ・ジ・エンドから新メンバーを募集するらしい。ゴスロリを着た彼女達からは卒業した人も出ているようで穴埋めのような形に見える。


 特に何も考えず応募してみると書類審査は簡単に通ってしまう。実技を見せて欲しいと言われて一通りのダンスを踊ってみたりもした。面接では軽く雑談をしただけで終わってしまって拍子抜けしていると、合格審査の為にバス移動をして自然豊かな土地で合宿を行うことになる。


 鈴蘭に連絡すると彼女は驚いていたが応援するよと言ってくれた。


 十人程度はいたがほとんどが緊張して泣き出しそうな表情をしている。


 朝早くにランニングを一時間程度行う。体力不足を心配していたが案外疲れはない。他の人は厳しい表情でとても会話ができる状態ではないように思える。


 室内での練習は決して楽なものではなかった。事前に踊りをある程度教えられていたが自主練をしなければ簡単なステップさえも覚えられない。


 チームでの踊りは激しかったが汗を流すのは好きだった。同じチームということもあって会話が弾み、どこの高校に通っているかなどを話し始めることもある。


 合宿自体をファンに公開しているようでカメラが設置されている。


 ステージでは最高のパフォーマンスを披露できたはずだが審査員の方は表情を変えない。


 合宿が終わって家に帰るまでの間に仲良くなった女の子達とは連絡を取り合っている。彼女達の何人かは落ちているようだが暗い表情をしている人はいなかった。


 ベッドの中でスマホを見ているとネットニュースでグリモア・オブ・ジ・エンドが炎上していると書かれた記事を発見する。その記事は私が応募するより前に書かれていたもので「グリモア・オブ・ジ・エンドは解散、新たに始動するエターナル・サンクチュアリにファン困惑」となっていた。


 調べるとグリモア・オブ・ジ・エンドで元々センターだった人が内部の情報を暴露したことが原因とも書かれていたが、よくよく見ると事務所の人間がアイドルに手を出したなど事実かどうかもわからない話もある。


 合宿の時設置されていたカメラで私の顔は映っているはずだがライブ配信は既に非公開となっていた。


 学校に通うと稀に私を凝視する人を目撃する。


 鈴蘭に挨拶すると彼女は「あの炎上だろうな」と呟く。


「……もしかして鈴蘭も見てた?」


「連絡あったからさ。しかし、よく行ったね」


「炎上してるとわかったら行かないよ」


 放課後になってレンタルスタジオに行くと椿が私の顔を見て外に出て行く。


 椿が行った方向を見ていた菫が「百合……今日はやめようか」と言い出した。


「なんで?」


「元々椿がやりたかったグリモアに百合が入ったと聞いて複雑なんだよ」


「炎上してるし、別のグループに名前変わったけど……」


「いや……特別なことしてないのにいきなり合格と言われただけなのに」


 私は外に行った椿を追うと彼女は近くの自販機でジュースを買っていた。


「何買うの?」


「メロンジュースかな」


「合格したけど、私は断るつもりだよ」


「そうなんだ」


「炎上してるし」


「私は今一人で活動してるけど、本当はグループに入りたかった。それがグリモアなの。今のグリモアじゃなくて昔ので……あの時が全盛期だったよ。今のグリモアは全然違うグループで、そこから何故か名前も変えちゃうしでめちゃくちゃ」


「すごいね」


「私は元々声優で……今も両方やってるんだけどね。家のことがあって学業を優先しますって話になって両方が中途半端になった。そこから別の事務所に入ったんだけどさ。そんなに不満はないよ、仕事少ないけど」


「良かった」


「良くない。中途半端だって言ったでしょ。昔のグリモアに憧れていたのに自分は何もできずにいて。今のグリモアは酷いことになってるのに私はまだ幻想を捨てきれなくて……嫌いになったはずのグループに入ろうとしてる百合に嫉妬してる」


「いや、入らないよ」


「入ればいい」


「本気でやりたいわけじゃないし」


「なんで応募したの?」


「その時の気分……」


「みんな多分真剣だったよ」


「私も真剣だった」


「……私にも分けて欲しいよ」


 椿がメロンジュースを少し飲んでから私の横を通り過ぎる。


「椿!」


 去ろうとする椿に向かって思わず叫んでしまう。急いで私は彼女の前に行くと頭を下げる。


「ごめんなさい! 椿の言った通り真剣じゃなかった。私全然緊張してなかったの。全世界に公開されるのもわくわくしてて、その先にどんな未来が待ってるとか想像できなかった」


「怒ってるわけじゃない。昔の私がやっても多分受からなかっただろうなと思って悲しくなっただけ。今更あそこに入りたいとか思うわけないよ」


「私……アイドルやってみるよ」


「炎上してるよ?」


「覚悟はできてる。今本当の意味で椿と友達になれた気がするのに、ここでアイドルの中身を見ずに終わったら後悔しそうだもん」


「あのグループが本当のアイドルとか思われたくないけど……どうしようかな。あ、ちょっ」


 私は椿の持っていたメロンジュースを飲み干すと空を見上げた。


「よし! 私が代わりに椿の好きだったグリモアの過去を調べてあげる。そうじゃないと椿も安心して活動できないでしょ」

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