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鈴蘭に確認すると彼女は行きたいと言ってきた。勉強ばかりで疲れていた私は鈴蘭を連れてカラオケに行くようになる。私の歌声を好きだと言ってくれる鈴蘭に褒められて舞い上がったことで、流行りの曲をネット上に上げることに決めた。
しかし、最悪なことに再生回数が伸びない。
可愛いとか言ってくれた鈴蘭に申し訳ない気持ちになる。
教室内で落ち込んでいると視線が気になって顔を上げた。
「あの……岸辺百合さんって動画上げてるよね?」
クラスメイトの女の子から話しかけられたが名前は佐藤だったか。彼女は前々から私と話がしてみたかったと言って嬉しそうにしている。以前私がバスケをした時からファンだと長々自分の話をしていく。そうしているうちに自分の初恋が終わったと言って泣き始めた。
好きな先輩に彼女がいたとかで私は佐藤さんを慰めるしかなくなる。
私が何故そんなことをしないといけないのかわからないが仕方ない。中学の時も悩んでいる女子の話を聞いていた。
教室内で泣く佐藤さんを見る目に困ったがキスの時ほどでもない。
泣き止むと佐藤さんは笑顔になって私に感謝を言って頭を下げた。彼女は感謝を伝えながらも話続けていたが予鈴と一緒に清水先生が見えて自分の席に帰っていった。
タイミング良く授業が始まったから良かったが放課後なら帰れなかった。
良く知らない女の子に話しかけられると中学時代を思い出す。仲良かった女子と理由もわからず喧嘩をしてしまったことに今でも心が痛くなる。
放課後になって帰ろうとするも撫子が突然現れて「百合ちゃんは私を仲間外れにするんだ」と言いながら顔を近づける。
「どうしたのさ」
「菫ちゃんと椿ちゃんから聞いたよ。インフルエンサーを真似て動画投稿したいんだって?」
「真似はしたくないんだけど」
「そういう話なら私に任せてよ」
撫子も加えて動画投稿の内容を充実させていくことになった。家に住み着いた蜂の撃退をやろうかと考えたが冬にやる内容ではないと却下になったが、私がやることになるのに勝手な三人は楽しそうにアイデアを出している。
アニメキャラの真似をした時は声が合っていたことも関係して再生回数が伸びた。他にも旅行動画を投稿してみると想像以上に反響があった。
受験勉強の合間にライブ配信をする生活が続くとクリスマスを迎えていた。流石に勉強を進めないといけないこともあって遊ぶことは少なくなる。
本来なら家から出るべきではないと思っていたが、撫子から誘われて菫の家クリスマスパーティーをすることになった。菫の家には元々彼女の父親と母親もいたはずだったが、二人にホテルの予約を入れたらしい。入れ違いのように遊びに来た私は菫のプレゼントに喜ぶ彼女の両親に申し訳なく思ってしまう。
飾り付けで華やかさを増す家の中を歩きながら「なんで追い出したの?」と菫に聞く。
「毎年親とクリスマスを過ごしていたけどさ。たまには友達と過ごしたいなと思ってたら撫子ちゃんが提案してくれて……随分前の話をよく覚えてたね」
「夏の頃に言ってたでしょ。後はどこでクリスマスを過ごすのか。そんな話をしてたら菫ちゃんの両親を喜ばせたいとかで決まった。それに別に悪い話じゃないでしょ。ホテルの予約も菫ちゃんがやって、お金だって出したんだから」
無言の私を見つめる撫子はまるで考えを見抜いているように思える。
「私の両親もプレゼントだと言ったら喜んでくれたからいいけど、片付けが面倒で他でやろうかとも考えたこともあったよ。でも、外とか寒いし……ゲームしたいもん」
「みんなを呼ぶ機会なんてあまりないだろうからいいと思ったの」
リビングには既に椿と桃がいる。二人の隣には鈴蘭もいたが彼女は黙ってスマホを眺めていたが、私が来ると手を振って出迎えてくれた。
全員が普段と変わらずに鈴蘭と接するのが奇妙に思えたが、時々明らかに会話を避けているようにも感じられたのが悲しく思える。
菫はプレゼント交換で全員に可愛い靴下を桃は全員にハンドクリームだ。事前に椿は私達に好みの色やキャラクターなどを聞き、スマホケースをそれぞれ渡していく。笑顔の撫子は菫にアロマキャンドルを手渡して、桃にはコスメをプレゼントした。
「はい、椿ちゃんには」
「このピンクのリップバーム。いい香りもするし、缶も可愛いよ」
「ありがとう! 乾燥するんだよね……本当に可愛い」
綺麗なチョコレートを全員に渡していく鈴蘭を横目に二人は楽しそうに話をする。
「撫子ちゃんもどうぞ」
「ありがとう。これ高いんじゃない?」
「それなりの値段はするね」
「……うん、美味しいよ。鈴蘭ちゃん」
撫子と鈴蘭がの会話も私には頭に入っていかない。クリスマスパーティーなんて一度もしてこなかった私は全員分のプレゼントなんて用意していなかった。
「そういえば百合ちゃんは?」
「ごめん、一つしか持ってきてないの」
袋に入ったものを手にしながら見せるのを躊躇してしまう。
「ジャンケンで負けた人が受け取るのでいいかな……あまり渡したくないな」
「え、罰ゲームになるほど? 嫌だな」
苦笑いする撫子はため息をついてジャンケンを始める。
衝動的に買ったものは女性が夜に着るのに最適な可愛らしいサンタ服だ。撫子から誘われてネットの良くない記事を見ながら勝負の日に着るセクシーな衣装を購入してしまった。
「……負けた」
「桃……ごめん」
私は桃に肩や背中が丸出しになったサンタのコスプレを手渡す。
「へえ、この赤網タイツも可愛いね。そんなに悪くないかも」
意外にも反応は良かった。
記事には男性を誘惑するならとか書いてあったので、私はそれを参考にしてちょっと高い服を試しに買ってみた。
ライブ配信をするようになってクリスマスに何かやろうかと考えて他の配信者を確認したら、似たような服を着ていたのでネタがなくなったらやる覚悟を決めていた。
私は処分できて良かったと安心して外を確認すると随分日が落ちてきた。以前のように寝泊まりすることも考えたが受験勉強をしないといけない。
少しだけお腹にケーキなどを入れると私は帰ることにする。私がそう言うと鈴蘭も立ち上がり、二人で菫の家を出ることにした。文句を言う菫に「受験勉強があるからね」と真面目な顔をすれば彼女は黙るしかない。
「菫ちゃんには悪いことをしたな」
「百合が言わないと帰れない人もいるでしょ。そういえば勉強はどの程度まで?」
「ある程度までは……」
「そうか」
「ちょっと疲れてたから今日のようなイベントはいいね」
「実は百合の為にだけのプレゼントを用意してあるの」
車に乗って連れられてきたのは会員制のレストランで予約しないと入れない。
鈴蘭はパパの金で豪遊する私と言いながらも嬉しそうな表情は一切しなかった。
静かな店内に座りながら料理を待つ。
「ここには昔ママとパパと一緒に来たことがあるんだ。ほとんど覚えてないけど」
「私を連れ出せるならできるよ」
「そうかもね」
二人で注文した和牛やテリーヌにスープなどが運ばれてくて不意に気づく。
「私お財布持ってきてない」
「こんなとこに来て払ってとは言わないよ」
「でも」
「ここ結構高いよ?」
「あ、本当だ」
「私だって自分で払ってるわけじゃないよ。こういうところだとパパのお金にするしかない……誰かを頼るのは悪いことじゃないと思う。なんでも頼られると疲れるけどさ、私は百合と幸せになりたいからやってる。勝手な人だよ」
「それで私が幸せになるなら悪いことじゃないね」




