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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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 鈴蘭に直接言えないなら間接的に伝えれば良かったが、手紙やメッセージでのやり取りを考えて彼女が私の謝罪を本気で受け取る自信がなかった。


 スマホを構えながら「あ……ごめんなさい。冗談で彼氏が欲しいとか言って傷つけたこと謝りたくて、今更不快にさせた私がこんな形で伝えて何をと思うかもしれないけど」と言ってスマホスタンドに置く。


「うっかりじゃ済まない。友達と話を合わせただけで本気じゃないの! 本当にごめんなさい!」


 ゆっくりと頭を下げる。


 緊張しながら頭を上げると画面にタッチして録画を止めた。


 その日のうちに私のSNSのアカウントに動画を投稿する。


 鈴蘭は私がSNSをやっていることを知っているから動画を見るはず。


 慣れないことをして疲れていた私はすぐに眠った。翌朝になるとフォロワーが増えている。以前見た椿が作った百合ちゃん教というアカウントが百合ちゃん応援団に変わっていた。


 妙なことに再生回数が数万に届きそうだった。


「素人の謝罪動画とか面白くないのに……何故」


 コメントは日本語以外にも英語もある。


 特に内容に言及するコメントはなくて私を褒めるばかりだ。ほとんど可愛いで埋め尽くされていて複雑な気分になる。


 面白くないとわかっていたが本当に面白いと思われないと傷つく。


 考えてみれば何故全世界に公開してしまったのかと、頭を抱えた私は菫に通話をすると寝起きの彼女は事態を重く受け止めながらも「応援するしかない」と笑う。


 学校で誰も私について話す人はいない。


 教室に入って鈴蘭に近寄ると彼女は「見たよ。何回も」と言って席から立ち上がる。


「鈴蘭。私、また仲良くなりたい」


「それについては怒ってないよ。私が嫌だったのは構ってくれなかったから」


 鈴蘭が廊下に出ると私も彼女の後を追う。


「勉強ばかりで話を聞いてくれないし……図書室に行くと私以外の女と仲良く話していた」


「ごめん」


「それじゃデートしてくれる? エスコートさせてよ」


「わかった!」


 教室に戻る頃には私達は前と同じように楽しく会話ができていた。


 放課後は一緒に帰り、夜も鈴蘭とお喋りをして明日の予定を伝える。


 翌日は鈴蘭の車で遊びに行くことになった。


 家の前に止められた車で水族館に行くと運転手は何故か鈴蘭の父で空木がいた。鈴蘭は無言で運転する父親を見ることもなく、車を降りると彼女と手を繋ぐ。


 水族館の入口付近からクマノミやウツボなどの魚を見ながら進む。途中マハゼを見つめていると鈴蘭の顔が近づく。照れて笑う鈴蘭に私も同じように笑顔になる。


 リュウグウノツカイの標本を見て大きさに驚き、ふわふわ漂うクラゲに二人で癒やされていると会話は食べ物の話になった。どんなゼリーが好きかなどの話になると鈴蘭はブドウが好きで私はオレンジと言って深海生物の標本を眺める。


 子供達がクマノミに夢中になっていると鈴蘭が「可愛いね」と言って笑う。


「そうだね、可愛い」


 私達も子供に混じって楽しむとお昼は鈴蘭がレストランを予約していた。小さなテーブルで手が届く距離に鈴蘭が座っている。静かな音楽が鳴りながら運ばれてくるものを口にしていくと、無意識に口数が減ってしまう。


 遠くの物音は聞こえなくなっていた。


 三角形のチョコレートケーキの端っこを少しだけフォークで刺す彼女が一口食べる。ゆっくりと目を閉じて噛む姿を眺めていると彼女はコーヒーを両手で持ち私の視線に気づく。


「食べないの?」


「もう、結構お腹いっぱい」


 食べ終わった後も彼女はコーヒーを飲んでいる。その唇を一瞬見てから視線はチョコレートケーキに戻り、水族館での出来事を頭の中で思い浮かべて楽しむ。


 不意に彼女が私の口元を見ていることに気づいた。


「何かついてる?」


「いいや」


 食べ終わるとそっと音も出さずにフォークを置く。


「今日はありがとうね。私を誘ってくれて」


「ずっと遊びたい。そう思ってたのに誘えなくてごめんね」


「悪いのは私だよ。楽しかった」


「迎えは呼んである。そろそろ帰ろう」


「うん……そうだね」


 私はこうして話せて良かったと思ったが切なそうな表情で彼女は「恋人として過ごすのって素敵なことなんだね。でもね、ちょっとだけ思うの」と言って目を伏せる。


「本当にちょっとなんだけど、百合が他の女の子と話すのを楽しめなくなった。今だけなんだろうとは思う。きっと永遠に続くことはない、それでもこんな感情になるってどうなのかなと考えてしまう」


「迎えって車だよね。二人で歩いて帰ろう?」


「結構遠いと思うよ」


「それもいいじゃん」


 レストランを出てからは電車を使って家まで帰ることにする。


 混雑している電車内を降りると暗くなっていた。


「私は百合にもっと依存して欲しいと思っていた」


 手を繋いで歩く時も会話は少ないが目だけは合っていた。彼女が私と目が合うと照れているのか何も言えなくなる。


「私も同じ気持ちだよ」


 鈴蘭は私の頬にキスをすると少し低い声で「可愛い」と言って顔を赤くする。手を離そうとしない彼女に抱きつくと匂いを嗅ぐ。


「柔らかくて良い匂いがする」


「恥ずかしい……」


 照れている鈴蘭と抱き合っていると足音が聞こえて離れる。


 遠くから歩いてきたのは撫子だった。彼女の後ろには椿や菫がいる。


「どこか行っていたの?」


 私が撫子に聞くと彼女は頷く。


「三人で遊んでいたんだ。呼べば良かったかな」


「どうだろう。今日はすごく楽しいデートだったから」


「鈴蘭ちゃんに聞きたい。なんで抜け駆けしたの?」


 あまり撫子の表情は変わらずに笑顔だ。


「どういう意味かわからない」


「普通やらないよ。私達が百合ちゃんのこと好きなのはわかってたでしょ」


「わかんないよ、そんなこと」


「私は百合ちゃんに恋人ができるのは構わない。でも、一言欲しかった」


「好きかどうかなんて言わないとわからない」


 椿や菫は戸惑っているようで私は「まあ、その……」と言いながら撫子の背後にいる二人を見つめる。


「撫子ちゃん? 今日はもう遅いよ」


「そうね。菫ちゃんも言いたいことあるのに偉いよ」


「私はこれからも友達を続けられるのならいいから」


「確かに私も百合ちゃんと仲良くなれるのなら別にね。それでも鈴蘭ちゃんは認めないと思うかも」


 鈴蘭は私の手を引き「行こう」と呟く。


 家に帰り菫に話を聞くと撫子は既に私のことを諦めているが鈴蘭のことは気に入らないらしい。菫は鈴蘭に撫子と仲直りをするように言っているようだが「理由がない」とのことで聞く耳を持たない。


『気持ちはわかるけど、謝らないと撫子ちゃんが嫌そうなんだよね』


 耳元で聞こえる菫の声を聞きながらベッドに寝転がる。


「菫ちゃんって撫子ちゃんのこと好きなんだ」


『嫌いにはなれない。私だけかもだけど、良くしてくれるから。私が百合ちゃんが好きと言ったら驚いてたけど、最終的には応援するよって言ってたの』


「私も菫ちゃん好きだよ」


『ありがとうございます……それで撫子ちゃんは好きなものを言えば素直に聞いてくれるの』


「そこまで長い付き合いじゃないから性格はわからない」


 自分で言って未だに人のことに興味を持っていないことに気づいた。


『……百合ちゃん?』


「あ、えっと。そうだ! 動画投稿どうしようかな。消そうか迷ってるんだよね」


『フォロワー増えたのなら続ければ?』


「何も思いつかないんだよ。菫ちゃんは良い案ってある?」


『詳しい子呼ぶか』


 菫は悩んだ末に椿をグループ通話に呼んだ。


『……はい』


「椿ちゃんは私が動画上げてるの知ってるよね。それで私手伝って欲しいの……わかると思うけどさ」


『あ、そりゃ知ってるか……百合ちゃんに教えたもんね。菫ちゃんにも言ったことあったかな。いや、思い出せないや』


 椿は以前私の画像を勝手にネット上に上げていた。今は私を応援するというアカウントに名前を変えている。


「これからは三人で考えて動画投稿しようかなと思ってるの」


 夜の間に私達が考えた内容のほとんどが他のインフルエンサーの真似で、結局菫のゲーム実況ぐらいしか妥当なのがなかった。


 椿に至っては「百合ちゃんが可愛いならなんでも」と考えてもくれない。


 翌朝になって学校付近で鈴蘭に会うと動画投稿を続ける話をする。


「それじゃ百合と私がいちゃいちゃするものを見せようか」


「嫌だよ」


 授業の間も動画について考えていたが何も思いつかずに結局ゲーム実況をすることに決めた。


 動画ではなくライブ配信という形になってしまったが非常に緊張しながら慣れないゲームをする。口を動かせば手が動かない。両方動かそうとするとまともなゲームにならずコメントを見ることが一切できなかった。


 若干登録者は増えていたが私は素直に勉強をすることにした。


 勉強にも集中できずに眠ったことで気分が悪い。


 電車に揺られながら桃と一緒に登校すると彼女は最近流行りの音楽を話していた。


「音楽……カラオケ行ってないな」


「鈴蘭と行けばいいのに」


「今日とか空いてるかな」

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