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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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「いいんじゃない?」


「鈴蘭から聞いてないの?」


「聞くって」


「聞いてないならいいんだ」


 授業が終わってからは撫子と一緒に図書室で勉強をして帰ることが多くなる。彼女と過ごすうちに椿や菫も一緒にいる時間が増えてきた。その二人と過ごしながらも教室内では鈴蘭とも話していたが、私の間違いを正そうとしても別の話題にされてしまう。


 気づけば私と鈴蘭以外にもお揃いのキーホルダーを鞄につけていた。度々六人で話す機会が多くなったのは楽しいが撫子のペースに流されているようで疲れそうになる。


 最近では私達六人は揃って食堂でお昼ご飯を食べるようにしている。正直撫子の意図がわからず困惑するしかないが誰かと話すのは楽しかった。


 ハンバーグを食べ終わると食後のプリンを口に入れると不意に撫子がハンカチで私の唇を拭く。


「ちょっとだけついてたよ」


「……ありがとう」


 鈴蘭が席を立つと桃からの視線に気づき残ったプリンを喉に流し入れる。急いで立ち上がって食器を片付けると鈴蘭を追うも姿は見えない。


 教室にいても鈴蘭と目を見て話せる自信がなかった。鈴蘭の側にいる桃とは謝ることを決めたが決断を先延ばしにしてしまっている。近頃話す機会の増えた撫子はスキンシップをしてくることが多く、会話も一方的で私は毎日鈴蘭に浮気判定されないか怯えていた。


 必然的に面倒な人間関係から距離を置こうと椿や菫に会うことが増える。昼休みになってからも二人とだけは会っていた。


「撫子ちゃん、空気読んで私達とお昼ご飯食べなくなったし。仲直りしようよ」


「あ、え。なんだろう……別に喧嘩はしてないよ」


「百合ちゃんから避けられているって言ってたけど」


「そんなことないと思う」


 菫の口に椿がサンドイッチを入れると彼女は頬をいっぱいにする。喋れなくなった菫の隣で椿がスマホを見ながら「私や菫とばかり会ってるの知ってるみたいだよ」と言って、また菫の口に別の具材が入ったサンドイッチを放り込む。


 私は苦しそうにしている菫の膨らんだ頬をつつく。


「私だって困ってる」


「撫子ちゃんは自分の仲間だと思った人には優しいよ」

 

「……椿ちゃんはよく仲良くできるね」


「私も菫も平和にいきたいから」


「なんで鈴蘭が敵なの?」


「よく知らない」


 食べ終わった菫が「私の出番だね」と言ってスマホの画面を見せる。そこにはラガッツィバカンスというゲームが表示されていた。彼女は自信満々に友情を深める方法は同じ目標に向かうことだと言いながら私達にアプリゲームをインストールさせる。


 菫は放課後になると私達を自分の家に集めた。


 普段なら図書室でいるところをゲームをすることになった。不思議と菫のお願いを断る人は誰もいない。椿は当然だが撫子は菫に仲良くゲームをしようと言われたら頷く。


 ラガッツィバカンスは休暇中に悪夢で支配されたと大きな文字で書かれているだけだ。詳しい内容は画像や動画を見たが選んだキャラクターが選ばれたステージの障害物を避けるシンプルなゲームらしい。


 菫はソロプレイでランキング入りする実力者で私達をパーティーに招待するとゲームがスタートした。


「みんな本名でやってる」


「いいでしょ。それぐらい」


「良くないんだよ」


 暗い空気で唯一明るい菫に話しかけられている私は必死に天井から降ってくる蜘蛛を避ける。数十名程度が競い合うゲームで生き残ったチームの勝ちとなるも私達は徐々に減り始めた。


 左右で電車が通り過ぎていく時、一緒に時計が落ちてくるステージで桃が脱落。大声を上げる人の声量がビームのような形となって次々と襲いかかるステージは撫子。高いところから落ちる瞬間に墓のマークの地面がある場所を選ぶと落ちるが、他の地面は落ちないが繰り返す度に墓マークが増えるステージは椿が脱落してしまった。


「菫ちゃんはゲームが上手だな……」


 撫子の手はゆっくりと菫の頭に触れる。


「集中できない」


 迷路のステージに飛ばされると大きな口が現れた。大きな口から逃げながら私が変な模様を選ぶと音が鳴り響く。


「あ、待って! そこハズレだ!」


 菫が叫ぶと私は大きな口に吸い込まれてゲームオーバーとなった。


 残りは菫と鈴蘭だけとなる。


「鈴蘭ちゃん! そこジャンプ!」


 ハズレの模様を選ばないように菫の誘導されながらゴールを目指す。自分のスマホでは二人がどのルートを通って進んでいるのかわかるようになっている。


「す、菫ちゃん!」


 他の参加者にぶつかってハズレの模様を踏んでしまった鈴蘭は大きな口に吸い込まれる。


「大丈夫」


 残ったのは数人だった。今まで数十秒に一回のペースで起きる地面が切り替わる瞬間が、終盤ともなると数秒でランダムにハズレの模様が表示される。


 残ったのが菫だけとなると迷路に水が流されて遠くから銃を撃つ人が出現した。身動きが制限されながらも銃弾を避けてゴールに到達する。


「よっし!」


 まるで自分のことのように私は菫がゴールした瞬間喜んだ。


 全員の心が動かされていたようで菫を中心に楽しそうに笑っている。


 結局私は鈴蘭が菫の家からいなくなってから本来の目的を思い出した。


 撫子と椿が帰っていく姿を眺めながら桃と二人で歩く。


「今日は楽しかったね」


「そ、そうね。鈴蘭、何か言ってた?」


「何も」


「あれは誤解だって言わないといけないんだけど言えなくて」


「そうなんだ……最近は私なるべく鈴蘭と話さないようにしてるからわからないな」


「あー、そうか。撫子ちゃんの」


 桃は周囲を確認しながら私の耳元で「撫子ちゃんの中学時代って知ってるよね?」と囁く。


「知ってるよ。色々やられたからね」


「怖くないの?」


「嫌な思い出はすぐ忘れちゃう、そんな都合の良い頭をしてますから」


「私がはっきり断言することはできないけど、中学の時に起こった百合へのいじめ。あれを総合的に考えると撫子がすべての原因だと思う。私ってそれなりに友達多いから人を通して聞くと、そこには必ず撫子ちゃんがいるんだ」


「でも、私色々やられたけど撫子ちゃんが関わったこと一度もないよ」


「私の友達は撫子ちゃんの知り合いから言われてやった。他のもそう。あの人自分の手を一度も汚してないの」


「確証ないでしょ」


「ないよ。でもさ、どう考えても集団で百合をいじめようという雰囲気に持っていくのは偶然とは思えない。私達は催眠にでもかかったのかと疑いたくなるの」


「どうでもいいよ。終わったこと蒸し返しても嫌なだけだし」


「百合が許すならいいけど」


 私は桃と別れてから菫に通話をしてみる。


『どうしたの?』


「声が聞きたくて」


『彼女にしなよ』


「恥ずかしい」


『いいけど……それが悩み?』


「うん、菫ちゃんは解決したい問題がある。それでも一歩踏み出せなくて自分が嫌いになりそうな、元気のない時って何をしてる?」


『あまりないな……強いて言うなら今人気のSNSの動画を見るかも。後は音楽とかを聞いたりするかな』


 夏が終わったというのに夜でも暑さは変わらない外を歩いていると気分が落ち着いてくる。


「鈴蘭に何をしたらいいのかな」


『……相手のことを思うなら自分の為じゃ駄目。そして好きなものを与えるだけでも駄目で思いを伝えることが大事だよ』


「簡単に言うね」


『いっそのことSNSで謝罪動画でも投稿すれば? あの有名人も炎上した時は頭下げてたし』


「動画か」


『冗談だよ。別に有名人でもないのに素人がいきなり頭下げても意味わからん』


「ありがとう、参考になったよ」


『あ、じゃあね』


 通話を切ると家に帰り、早速以前作った私のSNSのアカウントで動画投稿をすることにした。

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