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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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19/22

19

 運転中の清水先生と桃の話が終わる頃には私の家に到着していた。


 翌日以降も特別遊びの予定を入れるわけでもなく、家で勉強を続ける日々に辟易していたが時折鈴蘭と通話で話すのが楽しみとなっていた。


 夏休みが終わっても周囲が大きく変わるわけではない。普通は変わらないはずだが、清水先生の周りは変化していた。


「清水先生人気者だね」


 桃は不満そうでため息をつく。


「痩せると面倒だからなあ」


 女の子達が清水先生を取り囲んでいる。


 耳に入る女の子達の声は騒音として処理しなければならない。


 私が席を立つとスマホに『グループチャットに招待された』と通知が届く。


 廊下を歩きながら見る。


 そこには鈴蘭と桃が追加されていた。


『ここで話そ』


『桃ちゃんのパパかっこよくなったね』 


『元々かっこいいから』


 鈴蘭に褒められても桃は照れているのか必死に否定しようとする。会話を鈴蘭に任せて外の空気を吸っていると話が変わり、お笑い芸人についての内容になっていたが桃の様子がおかしい。


『ごめんなさい。間違いました』


『誰と勘違いしてんのよ』


 急に会話が変わったので変に思っていると桃は現在別グループとも会話をしているらしい。


『撫子達ともグループチャットを作ってて、そこでの話と間違えてしまって。他の友達ともやり取りしていたせいもあるかも』


『桃ちゃんは私と違って友達が多いみたいね』


 私が打ち込んだ途端に先程までの桃は返信を待たずにメッセージを送り続けていたが、急に「あの」という一言だけで次の言葉が続かなくなってしまう。


 教室に戻ると桃の表情は暗くて元気がないように思える。


『実はすごく悩んだんだけど、撫子から鈴蘭と仲良くするなと言われているの』


 私達はそれぞれの席に座る。


『それって今も私に対して実践しているの?』


 無表情の鈴蘭は桃の方向を見ない。


『本人の前ではちゃんとやっていると言った。違うクラスだからね』


『そういうことする人なんだ』


『よくあることだよ。私も結構卑怯者だからどっちにもいい顔しちゃうけどさ』


『人間関係は複雑だから仕方ない』


『鈴蘭は強いな』


『諦めているだけだよ。それに私って元々個人行動が好きなタイプだから気にしない』


『私も同じだ。別に友達は他の高校にもいるし』


『私はいないけど、家族がそういうタイプだからというのもあるかも』


『あー、確かにそれだ。お婆ちゃんとか一人で何でもするわ』


 桃と鈴蘭を見るも二人は笑顔になっている。


『そろそろ授業始まるよ』


『わかった。あ、そうだ。鈴蘭には言っておくけど。今言った話重要だからね』


『一人が好き?』


『違う。撫子の話。あの子、中学の時はめちゃ暴れてたから』


 確かにすごかったな。


『そんなに?』


『鈴蘭には言ってなかったね』


『そういえば桃、私のこと鈴蘭って言ってる』


『確かに』


『これからも、それで』


 予鈴が鳴って清水先生の周りにいた女の子は自然と散っていった。


 授業を聞いているだけでいいと思っていたが流石に今後を考えると厳しいと思えてならない。


 休み時間もノートを開いて先程の授業で習った部分を勉強していると鈴蘭が声をかけてきた。彼女から教えようかとも言われたが苦手科目の克服に助けはいらない。丁寧に断ると悲しそうな顔をしたが本当に助けがいる時だけ頼りたいと考えて、その日は家に帰って勉強を続けることにした。


 定期テストで良い成績を維持することが重要だ。


 将来を考えるなら大学に行くべきだと思う。


 それに今後私は家で肩身が狭い思いをするはずだ。


 血の繋がらない家族として私だけ暮らさなければならない。


 鈴蘭からメッセージでデートの誘いがきても勉強を理由に断ってしまった。


 それでも鈴蘭は『愛してるよ』と言ってきたので『私も愛してる』と返す。


 悪いことをしたと思ったが鈴蘭は怒らずに夜は寝るまで話をした。メッセージだけのやり取りでも彼女の声が耳の中で残る。夜に通話をすれば目を閉じる時にも彼女の声が頭に響く。


 私は既に満足していた。


 数日間で数え切れないほど鈴蘭と過ごしたが充実しすぎて夢のようだ。


 学校に行くまでの間も彼女と会えるのを楽しみにしている自分がいる。


「おはよう」


 振り向くと撫子がいた。彼女の後ろには椿と菫がいて、仲良く手を繋いで話をしている。


「おはよう。まだまだ暑いね」


「百合ちゃんは涼しそうだけど、もっと下に着たほうがいいよ」


「暑いんだもん」


 撫子は不意に私から目を逸らすと前を歩く男女のカップルを見た。


「私も彼氏欲しいな」


「どうした?」


「クラスの友達が彼氏ができて、他にも何人かいるみたいなの。なんだか話題に参加できないことが嫌でね……」


「そんなに焦らなくてもすぐできるよ」


「……私って恋愛ドラマのような素敵な男性から告白されたいと思ってるんだ。誰にも選ばれないと私には価値がないのかもとか思ったりするし」


「撫子ちゃんは可愛いよ」


「ありがとう。告白はされるんだよ? でも、かっこよくてもなんとなく断っちゃうの。お試しで付き合ってみたらとか聞くけど、他人事だから言えるんだと思う。私は怖くて仕方ない」


 私は下駄箱で靴を取り出す。


「ねえ、百合ちゃんは将来男の人と付き合ったりする?」


「わかんないけど」


 靴を持ったままの私を椿と菫が通り過ぎる。


「憧れはある。それでも……あんな大きな体で迫られてみんなよく平気だと思うの」


「自分だけを見てくれる人を見つけた。そう思ってるから平気なだけで誰でもいいわけじゃないでしょ」


「百合ちゃんも自分のことを見てくれる男の人から告白されたら……そんな人から特別扱いされて抱かれてしまって……幸せに暮らす。そういうのって嬉しい?」


 高橋翔太とはキスまでしかしていないが想像したことがなかった。


 きっと私は嬉しいと思うかもしれない。


 まあ、ここで否定は良くない。


 少し話を合わせよう。


「私のことを真剣に見てくれる男性から告白されて、付き合うことになったら嬉しいと思う。恋してる女の子が素敵なのって物語だと定番だし、彼氏欲しいよ」


「やっぱりね。百合ちゃんがそう思うのなら私も彼氏作ってみようかな」


「やってみなよ」


「百合ちゃんも彼氏作るならね」


「ま、どうかな」


「さっき彼氏欲しいとか言ってたじゃん」


 私と撫子が靴を履いていると後ろで立ち止まる鈴蘭に気づく。彼女は持っていた靴を落とした。表情の変わらない彼女は靴を履く。


「おはよう。鈴蘭ちゃん」


「うん、おはよう。撫子ちゃん」


 撫子が去っていくと鈴蘭は私の横を素通りしていく。鈴蘭に声をかけるのが怖くて立ち止まっていると先程まで大勢いた人が消えている。


 教室内に入っても私は鈴蘭と話すことができない。休み時間も彼女と目が合う度に気まずくなって図書館に行くことが増えてきた。

 

 最近は鈴蘭と夜に通話することがなくなってしまった。


 授業でわからないところは清水先生に聞くことで済ましてきたが、これを機に鈴蘭と話をして勉強を教えて貰おうと考えているも勇気が出せない。


 放課後になって図書室で一人勉強をしていると撫子が近寄ってきた。


「勉強? へえ、わからないとこある?」


「ここ」


「あー、なるほどね」


 数学の過去問を見ていると撫子から小一時間教えられてしまった。彼女は以外にも勉強を教えるのが上手で終始和やかな雰囲気で過ごす。


 勉強が終わると私の手を引っ張る彼女と一緒にイタリアンレストランまで行くことになった。以前鈴蘭が働いていたところだが彼女の姿は見えない。


「今日はありがとう」


「いいよ。私も勉強になったし」


 流石にあまり長く一緒にいると浮気を疑われそうで早く帰りたい。


「ジュース飲んだら帰ろうか」


「今来たばかりだよ? ジュースだけでいいの?」


「勉強あるからね」


 撫子と一緒にジュースを飲んで会話を終わりそうなタイミングで鞄を持って立ち上がる。


「あ、それ」


「これ? みたらし猫トースト、めっちゃ可愛いでしょ!」


 私は撫子に鞄を渡す。


「可愛い……どこで買ったの?」


「スーパーのカプセルトイ」


「いいな……どこでも買えるのかな」


「買えると思うよ」


 撫子に鞄を返してもらって店を出ると暗くなってきていた。


「じゃあね!」


 撫子が手を振って去っていく。


 私は夜道を一人歩いていたが好きなものを教えられて嬉しくなっていた。


 翌日になって学校で普段のように過ごしていると桃が近づいてくる。


「鈴蘭との喧嘩って終わった?」


 桃はなるべく鈴蘭に聞こえないようにしていたが流石に気づいている。


「いや」


「私が気まずい。何をしたの?」


「彼氏が欲しいと言ってしまって」


「彼女がいるのにか」


「はあ……困った」


「さっさと頭下げなよ」


「わかってるよ」


「あ、そうだ。撫子ちゃんから聞いた?」


「急に何」


「その反応聞いてないね」


 桃は撫子からのメッセージで『私達六人、みんなでお揃いのみたらし猫トーストを鞄につけよう』という内容を見せる。そこには撫子が自分の鞄にみたらし猫トーストをつけている画像が一緒に貼られていた。


「私達六人って誰のこと?」


 桃が順番に私や鈴蘭を指差していく。


「他は私に椿と菫じゃないかな」


「なんで?」


「知らないって。私達六人って急に集まっただけで別に仲良かったわけじゃないし」


「つけるの?」

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