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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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 怒るほど興味を持てなかった。


「後は俺がバンドメンバーの亜子と歩いていたら百合に浮気を疑われたな」


「懐かしいね」


 亜子の表情から恋愛感情を持っているようには思えなかった。


「そんな前か?」


「前だね。あの後かな? デート中に電話がかかってきたのって」


「ああ、仲直りのデートをした時か。俺が通う高校の話をしたな。あそこで芳正と亜子から電話がかかってきて、曲の話をしたら彼女のほうが大事とか二人に怒られた気がする。そっちからかけてきたのに」


「そういえば高校生になったらここに通うのかなって話で盛り上がっていたが、なんで中学生の百合を高校に侵入させる話になったんだっけ?」


「偶然通りかかってここに行こうと誘ったんだよ」


「あの時困って芳正に電話して昔使っていた亜子の制服を借りて侵入することになったわけだ」


「サイズはあまり合ってなかったけど、翔太の家で着替えて学校に侵入したのは楽しかった」


 単純に私が彼との高校生活を思い描けなかったから多少強引に高校の制服を着て、廊下や教室内を二人で歩いて感情は変化するのか確かめたかっただけだ。


「結局あいつらも忙しくて、俺だけで制服を取りに行くことになったんだよな。時間かかったおかげで人少なくて良かったよ」


「まあね」


 私は今より余裕がなかった。


「誰もいない教室でキスをしたこと思い出すよ」


「思い出すほどでもないかな。でも、別れて良かったよ」


 誰もいない教室で彼は私に付き合っていることを広めたいと言っていたが、別に今更何をしても結果は変わらないので反対はしなかった。


「俺もだ」


「バンド活動が忙しくなるなら別れたほうがいいと言っても反対しなかったよね」


「あんなこと言われて嫌だとは言えない」


 彼は太陽を見上げる。


「翔太、今楽しい?」


「楽しくなかったら、また付き合ってくれるのか?」


「未練あるの?」


「ないよ……俺も前を向くから百合も頑張れ」


 彼は背を向けると走り去っていく。


 恋人の時には色々自分の話をしていたが暗い内容ばかりだった気がする。


 休憩を終えて中学の頃とは違う道を走り出した。汗を流すだけでも気分転換にはなるが普段とは違う景色を見るのは心を癒やしてくれる。


 あまり遠くまで行かないように修正しながら自宅の近くまで行くと桃の家まで来てしまう。家の前で止まると清水先生が現れた。


「おはようございます」


 少し驚いたようだが清水先生は軽く頭を下げ「おはよう」と言ってポストに入っている新聞紙を取り出す。


「朝早いじゃないか」


「最近運動をしてなかったので」


「そういえば……やらないとな」


 清水先生は自分のお腹に触れる。


「ダイエットしたらどうです?」


「ちょっと怠けすぎか。昔は太りやすいからと体調管理をしてたんだが娘に痩せてると家の前にファンが来るとか……娘を言い訳にするのは駄目だな」


「本人は言わないですけど、かっこいい父親というのもいいと思いますよ」


「最近は話もできなくて。去年誕生日プレゼントをした時は喜んでくれたんだが、今年同じものを渡したら怒ってしまって……」


「本人が貰って嬉しいものをプレゼントすればいいわけで」


「嬉しいものか……ショートケーキノックアウトだ!」


「好きみたいですね。いいと思いますよ」


「……友人に関係者がいる。そうだ。チケットがあればいいか……聞きたいんだが君は桃と一緒にショートケーキノックアウトのライブに行ってくれるか? 二人で出かけた時は毎回機嫌が悪くてな……」


「いいですけど……その」


 どうしようか。


 桃と少しは仲良くなったが話す内容が思いつかない。それに清水先生がいるとはいえ他の女と遊ぶのは気分のいいものではないはずだ。


 いい加減鈴蘭とデートをしたい。


 だが、前に彼とデートした時はトラブルばかり起きていたからいい思い出がないのも事実だ。それに恋人とまともにデートをしていないのに他の女とばかり出かけるのも嫌な奴にしか思われない。


 そもそもなんで私がこんなことで悩んでいるのか。


「どうした?」


 前に菫の家で集まったが同じことをすればいいのかもしれない。


「……チケット六人分を用意することって可能ですか?」


「任せろ」


 清水先生には詳細が決まり次第桃経由で連絡をするように言って家に帰るとシャワーを浴びて学校に行く。


 学校内でも鈴蘭と世間話をする程度で恋人として関係を深めることができなかった。


 桃には喧嘩をしているように思われたが何もしていない。


 鈴蘭と話をしようと思いながら一人で校門まで歩く。


 私は鈴蘭の帰りを待とうスマホで時間を確認していると、背の高い女性がこちらを見ていることに気づく。日本人とは思えない彫りの深い顔立ちとスタイルをしている。


「ねえ、ちょっと」


「なんです……か」


 他の女性より多少背が高いと自負しているが彼女を見ると自信がなくなる。


「今暇?」


「暇だとは思うけど……え?」


「ならさ。ちょっとだけ付き合ってよ」


 意外にも流暢な日本語を喋る彼女に手を引かれて歩いていく。


 強引さに多少の怖さもあって何も言えずにいるとカフェに連れてかれる。店内の奥に座ると彼女は自己紹介をした。彼女はランディシュ・パリスデイジーでロシア人とフランス人の祖父を持つアメリカ人で日本には何度も来ていると私に話す。


「あなたのことも聞きたいな。私ばかり話してるよ」

 

「私は岸辺百合。高校一年」


 彼女は若そうには見えるが未成年とは思えない。


 正面に座っていた彼女が突然隣に座ると私の手に触る。


「今恋人とかっているの?」


「いる」


「そうなんだ。付き合って何ヶ月?」


「……そんなこと聞いて楽しい?」


「楽しいよ」


「一ヶ月まではいってない」


 私達の席に同じ二杯の紅茶が運ばれてくると彼女は一口だけ飲んだ。


「不満ありそうだね」


 紅茶を一気に飲み干すと私は目を逸らす。


「言わない」


「言ってもいいと思うな」


「……一生付き合うことになりそうで困ってる」


「重く感じたんだ」


「別に悪いとは思ってない。いいとも思ってないけど」


「なるほどね……いい彼氏さんだ」


「彼女だよ」


「そうなの?」


「ええ」


 彼女の肩と私の肩が触れる。


「別れたら? 結局他の男に行くだけなんだから、さっさと別れて色々と経験したほうがいい。恋愛なんて好きにするものだよ」


「わかってはいるんだけどさ」


「それなら私と付き合う?」


「別にいいです」


「どうせ学生の時ってすぐに別れるんだから、私みたいな人と遊んでみても楽しいと思うよ。気軽に考えちゃいなって」


「本気で私と付き合いたいわけじゃないですよね?」


「そう見えるの?」


「なんとなく」


「確かに半分は冗談で言ってる。でも、私可愛い女の子好きだよ」


「だろうね。恋愛というより愛情なのかわかんないが……なんだか母親と話してる気分になってたから」


 私の母親とは血が繋がってないせいか半分友達のような気分だからそう感じたのかもしれない。


 彼女は「困ったな」と笑う。


「どうしました?」


「私には娘がいるんだけど、なんだか現実に引き戻された感じがして……」


「そんなに歳上だったんだ」


「あなたと同じくらい」


「……そんな人にアプローチされてたんだ」


「冗談って言ったじゃん!」


「でも、半分はって」


 私の顔を見ていた彼女が急に向きを変える。


「あ、鈴蘭」


「何してんのさ、ママ」


 見下ろす鈴蘭に驚く私は何も言えずにいた。


「ママは相変わらず変わらないね。校門で待ってたのに突然私の彼女を連れて行くから気になったの。それでさっきから見てたら……警察のお世話になる?」


「彼女って鈴蘭の? そうなんだ! あ、ごめんって怒らないで。だって……可愛かったから」


 鈴蘭に頭を叩かれると手を掴まれて反対側の席に座らされる。


「二人って親子なの?」


「不本意だけどね」


「あの人とは随分前に離婚しているの。鈴蘭とは日本に来ると会うようにしてるんだ」


「ママは私が小さい頃、幼稚園ぐらいかな。パパと別れて、それ以降もたまに会うことがあって。前にアメリカで会うことがあった時は家に入ったらタバコ臭くて、なんで吸ってるんだろうと気になって聞いてみたら今付き合ってる男がやってたからって話してたよね」


「あの人か。別れたよ」


「意外。いい人そうだったのに」


「見る目ないな。他に女作ってたんだよ」


「そうなんだ……いや、ママに言われたくない」


「あー、これは言い返せないな」


「それで? 今は誰と付き合ってるの?」


「今? 誰とも付き合ってないな。それよりも将来のこと考えなさいよ?」


「わかってるよ。ママこそ、遊んでないで働いてね。男に媚びてないで一人で暮らしたら?」


「鈴蘭だって親の金で暮らしてんじゃん」


「私は子供だけどママは大人。いつもみたいに股を開いて金でも稼いだら?」


「やってない! まったく……あの人どういう育て方してんのよ」


「なら、帰ってきたらいいじゃん」


「私煽って楽しい?」


「楽しくなかったらやってない。私はパパの子だからね」


「毎回思うけど、あんたと話をするとパパとやった喧嘩を思い出すわ」

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