15
「うん、ありがとね……」
中学の時も似たようにプレゼントを受け取ったことはあるが、値段関係なくしてくれたことにはお礼などで返さないといけないという考えが私の頭にあった。それ故に昔から与えられることに少しだけ否定的なところがある。
「あ、そうだ。私バッグ見たい!」
「待って!」
菫に手を引っ張られて店内を走る。彼女と一緒にバッグを見ていると椿がショルダーバッグを見せてきた。
「このバッグ。色はホワイトでさっきのにも似合うと思わない? これ後で持っていってね。プレゼントだよ」
「うん……そうね」
一方的なプレゼントは正直嫌だが強く否定できない。
別に嫌なものではないからだ。
「これハンドバッグにもなるんだよ」
「へえ、いいじゃん」
意外にも悪くないものだから厄介で楽しく思えてくる。
「そういえば菫ちゃん? あれ?」
姿が消えてからすぐに菫がリップを手にしながら走ってきた。全速力で走ってきた様子だが疲れているようには見えない。
「このリップ。これあげる」
「困るよ」
「甘い香りで好きなんだ」
「後で払うね」
「安いから大丈夫」
私はみんなが買ってくれた商品の金額を聞き、すべて払い終えるとフードコートを出ることを伝えた。
今月のお小遣いがすべて消えてしまったが仕方ない。
帰ろうとするも他の四人が突然用事があったと言って鈴蘭とフードコートで残されてしまう。鈴蘭が荷物を送ってくれるというので車を待つことになる。
「みんなに気を遣われたかもね。百合ちゃんは楽しかった?」
「家族以外と楽しく遊んだ記憶があまりないから良かったよ」
「私は高校になって初めてこんなに長いこと遊んだな……それまでは友達って作る機会に恵まれなかったから」
「意外だな。人付き合いが上手なイメージがあるのに」
「私の何を見てきたのか聞きたくなったよ。結構今日も緊張してたんだけど」
「鈴蘭ちゃんのこと私は何も知らない。本当に……全然知ろうともしなかった。これからもっと知りたい」
「いっぱい遊ぼう」
「これから楽しみ」
きっと仲良くなるのが怖かったんだ。
手を繋ぎながら話をしていると鈴蘭が遠くに止められた車を指差す。彼女に手を引かれて広い車内に乗り込むと男性が腕を組んで座っている。こちらを睨む男性の反対側に鈴蘭と一緒に座り「彼女が?」と聞かれると微笑みながら頷く。
「ええ、私の好きな人」
「なるほど」
厳しい目つきの男性に怯えていると車が動き始める。
「俺は鈴蘭の父親で鹿島空木だ。君とは初対面だが色々と聞きたいことがある。ここでは純粋な君の気持ちを知りたい。娘のことをどう思ってる?」
「好きです」
「それは聞いてる。二人の気持ちが本物だということも」
少なからず動揺していた私は鈴蘭と繋いでいた手を強く握る。
「パパ? 怖がらせちゃ駄目だよ」
「そんなつもりはなかったんだが……いや、わかった」
空木は窓の外を見る。
「この辺りは昔から俺が住んでいた場所で娘にも外国じゃなくて、ここで過ごして欲しいという気持ちがあった。広い世界を知って欲しい気持ちと狭い世界で過ごして欲しい気持ち。両方を持っていた。この日本で……安全な世界で暮らすことを考えていたのは、あいつも同じでアメリカで暮らそうとは言わなかったんだ」
「ママと会ったのはアメリカだっけ?」
「外国で暮らしていた時に偶然出会ったんだ。その時も日本のほうが住みやすいとか言ってたな。ま、なんだ……そんな話をしたいんじゃない。結論を言おうか。娘とはどうしたいんだ?」
空木の真っ直ぐな瞳を見つめるだけで私は動けなくなる。
「……だろうな」
「パパ、百合ちゃんは考えてるの」
「岸辺百合と言ったな。娘と別れてくれないか?」
「別れる……」
「恋人を優先するなら娘の気持ちを大事にしたい。親としても愛する人がいるなら将来のパートナーとして君を選ぶのなら構わないが、一時期なものだとしたら鈴蘭にはやるべきことを進めさせたいと思っている。この考えをこちらは何度か伝えてはいるのだが……」
鈴蘭はうつむいたまま動かない。
何か重要な話のようだが聞ける雰囲気ではなかった。
「娘は君を幸せにしたいらしいな」
「はい。そう聞いてます」
「無償の愛なんてこの世には存在しないと思ってる。恋愛に対して憧れを持つことは悪くない。娘もそういう気持ちで君を好きになったのかもしれないが……」
何が言いたいのだろうか。
「パパ……もういい。百合ちゃんのこと何も知らないでしょ」
「ああ、今は問題ない」
よくわからないが鈴蘭と空木は睨み合っている。
「娘はわざわざ日本にある私立の高校なんて入った。そして幼稚園の頃から将来の目標を家族に伝えていたんだ。抽象的な話だったが俺を納得させるには十分なものだ。君を幸せにするという、少々重いような気もしたが行動で示すなら問題ないと言った」
「私と百合ちゃんは付き合ったばかりで、まだまだこれからなんだよ」
「そうだな。俺も普通の恋人で終わるなら構わないと思っていたが娘は頑固だ。昔自分が決めたことを覆すのは俺に悪いと思っているのだろう。彼には悪いことをした」
「ねえ、パパ? 私は具体的な将来の話をしたし、百合ちゃんには顔を見せるだけとも言ったよね」
微笑む空木は私の顔を見る。
「……言いたくないなら別に構わないよ。まだ時間はある。俺からはどちらでもいいと言ってはいるが……やはり縁というものを大事にしたい。選ぶのは自由だ」
車が私の家で止まった。
「……じゃあね」
「うん、また」
ドアが開くと運転手が荷物を私に持たせる。
少し多いせいか荷物が重たく感じた。
あれから鈴蘭とは連絡を取っていない。恋人になったというのに何を話せばいいかわからなかった。
夜に起きてスマホで鈴蘭とのやり取りを確認するも明るい彼女と違って私は暗く感じる。挨拶や日常会話なども短いメッセージだけで客観的に見ると機械と話しているようだ。
幼少期から家族という存在や友達という存在にも関わりがほとんどなかった。恋人という存在も深く繋がれたとは思えない。
朝早く起きると気分転換に走ることにした。
中学の頃は毎日走っていたが最近は運動をしていない。
今日は久しぶりに走りたい気分になった。
数十分走ると疲れてきた。ゆっくり歩きながら進むと目の前から高橋翔太が現れた。彼は私に気づくと頭を下げる。
「久しぶり、でもないか」
そう呟く彼に私は懐かしさを感じた。
「あの時告白したこと覚えてる?」
「高校一年の夏ぐらいか。メジャーデビューが決まって忙しくしていた頃でメンバーにも彼女ができたことを話した記憶があるな。中学の時にゲロ吐いたことがきっかけで好きになっただったか」
「酷い話だよね」
「当たり前だ。かっこ悪くて思い出したくないことなのに、なんで好意を持ったきっかけなんだと戸惑ったよ。いや、恐怖に近かった」
「それぐらい努力したんだと思ったから思わず言ったんだと思う」
「そうなんだ……意外と見ていたんだな。評価されていたことに気づけなかった。なんか前より自分が好きになれそうかもしれないな……」
汗を拭う彼は「何か買う?」と言うも私は首を振る。彼が自販機で水を買うと一気に飲み干す。
「初めて告白されたのも、こうしてお互い走っていた時だった。今日暇かと言ってデートをして映画や百合が好きなアニメのコラボカフェに行ったよな。当時ファンの女性に囲まれて恋人だと言おうとしたが百合は友達で恋人じゃないと否定したっけ」
夜景を見ながら周囲の恋人と私達を比べたが場違いな気分だった。
「……そっちから告白してきたのに全然楽しそうじゃなかったよな」
「楽しかったよ」
「ま、俺も悪かった。後々みんなに聞いたらもっとリードしろとか、さっさと手を出せとか言われたんだよな」
「そんなことする人じゃないと思ってたからね」
あの時流されても良かったが、唇を重ねてもわからなかった一般的な恋心を私が理解できるとも思えない。
「体調悪いのかと思ったんだよ。あれで家に連れて行ったら最低だろうが」
「ま、結局何もせずに帰ることは間違いなかったね」
「その後は百合と連絡が取れなくなって、色々あって喧嘩したんだよな」
「喧嘩というほどのことはしてないかな。私怒ってなかったし」




