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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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「聞きたいな。彼氏ができたことのある百合ちゃんにどうしたら男子にモテるのかを」


「特別な能力なんて使ってないよ」


「まあ、私は別に聞かなくてもいいな」


 そう呟いた鈴蘭が私を真っ直ぐに見ると彼女は髪の毛を撫でてくる。そのまま頬に触れると暗闇の中で自然と唇を重ねてきた。


 相変わらず大胆だなと思うも私が言えた義理じゃないと反省する。


 私の背中に触れていた撫子の手が肩へと移る。彼女は私の耳まで口を近づけて「百合ちゃん」と囁いた。驚き彼女の顔を見るも何事もなかったかのように「鈴蘭ちゃんは彼女ができて楽しい?」と微笑む。


「とてもね。楽しいよ」


 みんなが楽しげに私の話をするも眠くて頭に入ってこない。


 時折相槌を打つ桃の声を聞きながら目を閉じると朝になっていた。


 私の目の前に寝息を立てる撫子の顔が見える。起き上がるとカーテンを開ける鈴蘭が待っていた。


「おはよう」


 鈴蘭が私のおでこにキスをするとドアを開けた。


「朝食できてるから行くね」


 開けられたドアを呆然としながら見つめると隣で起き上がる撫子が背伸びをする。彼女はパジャマを着たまま部屋から出て行く。


「いちゃいちゃ……」


 何やら呟いていたが気にせず着替えを済ませて一階に行くと、焼いたパンにベーコンエッグとオレンジジュースが置いてあった。菫と椿で作ってくれていたようで全員が揃ったので手を合わせる。


「いただきます」


 鈴蘭は作ってくれた二人に感謝して味わいながら食べている。桃と撫子はお腹が減っていたのかすぐに食べ終わってしまった。


 一生懸命パンを食べる鈴蘭を見ていた椿が「鈴蘭ちゃんは美味しく食べてくれるね」と言った。


「え? だって美味しいじゃん。普段は味噌汁や鮭ばかりだし。パンって食べること少ないよ」


「意外」


「うちのパパが好きなんだよ。それにママも日本食が好きみたいでさ。家政婦にもお願いしてるみたいなんだよね」


「自分で作ったことないの?」


「あまりないな。健康に悪いから作られるのは……素材の味というか。自分で買う時は別だけどね」


 そういえば折角スマホを持っているのに鈴蘭と話をしていない。二人で会う機会も増えているとは言えない状態では少々不安に思えてくる。


「いいな。家政婦とか」


「菫ちゃんがなってくれる?」


「バイト代くれるならやる」


「掃除もお願いしようかな」


「やっぱ無理!」


「どうなのかな、お金持ちは」


 撫子がテーブルに手を置くと鈴蘭の顔を覗き込む。


「どうって言われても」


「私はモデルの仕事もしてるけど、ほとんどみんなと変わらない生活してるよ。お金も自分で働いた分でやりくりしてるが違うんでしょ?」

 

「昔は甘えさせて貰ってたけどね。今はバイトもしてるよ」


「ん? 鈴蘭ちゃんってそんなお金持ちなの?」


「菫ちゃんは何も知らないんだ。彼女はフロックスっていう多国籍企業の社長の娘なんだよ」


「はい、私の話は終わり。それよりも食べ終わったらどうするの? 菫ちゃんの親が帰ってくるまでに家を出るんだったよね?」


「そろそろゲームも終盤になりそうなんだよねえ。うーん、どうしよ。お昼はどこかで食べるつもりだけどさ。近くに六人で食べられる場所ってあるかな」


「占拠すれば席なんて簡単に確保できるよ。ま、迷惑になるだろうな……桃ちゃん?」


「ああ、歯でも磨こうか」


 撫子は席を立つと食べ終わった桃と一緒に洗面所に行ってしまった。


 昨日の今日だが他の人も少し話を聞く限りだと家の中で暮らしてばかりだと聞く。


 私達は想像以上にインドア派なのかもしれない。


「そろそろ親も帰ってくるし、終わらせたいな」


「菫ちゃん、終わりそう?」


「多分」


 少しお腹が空いてきたが私達は菫の家でまだくつろいでいた。


 菫が言うには親は自分を信頼しているらしいが、それでも心配して家に大勢を迎え入れるのに反対していたと語る。一人で留守番するのも心配だが大勢に来られると何かあった時に子供では対処ができない。


 昼を過ぎた辺りでラスボスの猫と対峙しながら菫が「流石に六人も来ることを想定してないから後で怒られる」と笑いながらコントローラーを操作する。


 壮大な音楽と共にラスボスの分身が攻撃してきた。回避しつつも密着しながら足を攻撃していくと瞬時に背後を取る。


 全員で一斉に攻撃を仕掛けると徐々に動きが弱まっていく。


 ようやく敵が苦しみながら消えていくとエンディングが流れた。


 何度も死にながら挑んだ末の勝利は全員コントローラーを握っていなくても変わらぬ達成感らしく、菫が飛び跳ねる姿を撫子も真似ていた。


 その後は撫子はゲームのレビューを見ながら感心したように頷き、椿と桃は攻略動画を鈴蘭に見せて興奮している。


「良かったね」


「何が?」


「菫ちゃんの好きなものが広まったこと」


「まあ、ね」


 多分、菫にとって理由はなんでも良かったはずだ。一番は自分が好きなものでみんなが喜んでくれることだが、誰かと一緒に話せる話題があればゲームじゃなくても構わないと思う。


 クリアデータで遊んでいると王の娘を救う手段があるらしく、過去の世界に移動してラスボスを倒すことに成功した。


 最終的な結論として圧政を敷いていた王は処刑され、ナイトホークが英雄となって王国を繁栄させることになる。しかし、ナイトホークはオウルに国の運営を任せて旅に出ることになった。


 全部攻略情報に書いてあったことで正しい内容かわからないが、オウルと王の娘は親密な関係で前作での話も王の失踪は仕組まれたものではないかという話だった。


 英雄となったナイトホークはオウルとの話し合いで邪魔者を排除する役割となった。元々英雄なんて柄ではないと思ってる彼からしたらオウルの提案は受け入れてもいい内容だ。


 菫が私に今度はおすすめのゲーム実況を教えるねと言って立ち上がるとやる気のない私達は揃って家を出た。


 電車を降りると近くにあるフードコートに入る。全員お腹が減っていたようで、混み合った店内を歩き回りながら好きなものを注目していく。菫がハンバーガーに決めて椿と菫が同じメニューにしたが、私と鈴蘭はうどんを選んだ。撫子がラーメンを指差すと桃が彼女と同じメニューにしようと提案して、各々が席について食べ始める。


「服でも見たいな」


 ハンバーガーを口いっぱいにしながら菫が喋ると撫子はスープを飲みながら「いいね。色々と見に行こうか」と言って私を見る。


「百合ちゃんは欲しい服とかないの?」


「特にないかな」


「買ってあげようか?」


「必要ないよ。借りを作りたくないからね」


 鈴蘭はうどんを食べ終わったようで私を眺めている。


「何?」


「なんでもない」


「ねえ、百合ちゃん? 服選んであげようか」


「選ぶだけね」


 全員が食べ終わると服を見ることになった。全員に普段着ない服を選んでも駄目だよと言い聞かせると不満そうにしながら店内を見て回る。


「あくまでも私が買うんだからね」


「頑固だな……百合ちゃんのお財布にも相談するとあまり買えないよ?」


「いいんだよ」


「迷惑だとしても買ってあげたいの!」


 撫子の必死な表情に困惑して鈴蘭を見るも彼女は共感するように頷いている。


「わかった。センスに自信はないけど、私が選んだもので指摘したくなったら言ってね。買ってくれるのは嬉しい。それでも私は友達から一方的にお金を使わせたくないの。可能な限り安いやつにするから」


「気にしなくてもいいのに」


「撫子ちゃんと仲良くなりたいから言ってるの」


「私はモデルの仕事もしてるよ」


「信用してくれるのは嬉しいけどね」


 私は自分が着れそうなものを手に取る。


「このカットソーにスラックスの組み合わせはどう?」


「ブルーのカットソーにホワイトのスラックスか。いいんじゃない? それなら」


 撫子が遠くまで走っていくと私が手に取ったものを購入した数分後に彼女がサンダルを持ってくる。


「そのサンダル買ったの?」


「頑固な百合ちゃんの為に比較的安いものを選んだよ。このブラックのポインテッドトゥサンダル。それに」


 彼女がバッグからゴールドのピアスを見せる。


「これは?」


「私からのプレゼント」

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