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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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「ああ」


「ショートケーキノックアウトがメジャーデビューする時に私や他の人が興味本位で聞いてみたことがあったの。単純な世間話として高橋翔太先輩と付き合ってる理由を聞いた。それを聞く前は陰口も少なくて嫌ってる人もいなかったと思う」


「そういえば聞いてきたね」


「……あなたはゲロ吐く姿が面白かったとかふざけた答えが返ってきたの。私達は真面目に聞いてたのにね」


 確か彼が中学の時にマラソン大会の途中で吐いてしまったことがあった。彼が高校に行った後になって思い出して、それを理由に告白したら付き合えてしまった。


 今付き合ってる人がいないとかで簡単に成功してしまって若干拍子抜けした記憶がある。


「私が百合ちゃんのことを本気で好きなのは確かだと思う。その時は感じなかったけど違和感はあったの。あなたのことが好きな女子が邪魔者を排除しようと動いて孤立をさせていた」


 私が撫子を見るも彼女は目を逸らす。


「別に昔から一人だったよ」


「中学の時に色々あったのはすべて私のような人が嫉妬したからなの。でもね、それで一つ理解したことがあって。あなたのような人を好きな女子の気持ち。今の私なら理解できるの。そして孤立させてまで自分のものにしたいという独占欲であなたを傷つけてまで支配したい気持ち……理解できてしまうの」


「寒いから出るよ」


「私は百合ちゃんを愛してます」


 脱衣所に行こうとしてドアを開ける時「……私鈴蘭と付き合ってるの」と言って浴室から出た。体を拭き終えて着替えると急に鈴蘭が抱きついてきた。


「えっと」


「廊下から、声。聞こえてたよ」


「いたんだ」


「案外声って響くからね。撫子に付き合ってること言ったんだね」


「いつか言わないといけないと思ってたから」


 全員が揃ったところで私達が付き合っていることを伝えた。それぞれがパジャマを着ると私と鈴蘭を祝いながら夜を迎える。


 世間話をしながら昼に残した餃子を食べていると撫子が笑顔を崩さずに「付き合ったのはいつ?」と聞いてくる。


「私が休んだ日だから先週辺り?」


「へえ、なるほど」


 時折挟まる鈴蘭への気持ちなどを全員から聞かれた。正直何も彼女について知らない私は誤魔化すこともできずに「付き合ったばかりだからわからない」と笑うばかりだった。


 菫の部屋に戻ると各々が役割に応じて一致団結してゲームを攻略していく。みんなの手を借りてボスを倒しながら進められるメインクエストでは次々と惑星同士の間で戦争が起きていた。


 ラスボスとして君臨する猫は序盤に現れて以降姿を見せない。


 操作する猫達は小さくて可愛いがラスボスは非常に醜い姿をしている。


 ゲームは中盤になっていた。滅ぼされていく一つの王国を救おうとするもナイトホークとオウルで対立が起きていた。


 ナイトホークが「民の力あってこその王国だ。王は飢餓(きが)で民が苦しむ姿を見ようとしない」と食料などを与えないことを批判している。ナイトホークの批判を受けてオウルが貴族達との解決策を模索しながら彼らと会話をしていく様子が描かれていた。


「ナイトホークいいよね」


「菫ちゃんはナイトホーク推し?」


「舌打ちとかして態度悪そうなのにいざって時には意外と優しくて好印象かも」


「主人公だから悪人にはしないよ」


「百合ちゃんはすぐそういうこと言う」


 私と菫は会話をしていると他の人は黙って画面を見ながらお菓子を食べている。


 他の人達はサポートとしての役割を求められているのに不満はないのか判断ができない。


「ほら、あの箱」


「お、きた。いいね」


 菫が近くの箱を壊して出てきた素材を私に渡す。


 私が操作するオウルは主にナイトホーク専用の銃を作ることができる。菫一人でも命令すればオウルは銃を作ってくれるが、コントローラーで私が操作している関係で普段なら指定できない変わった武器も素材さえ集めれば作ることが可能だ。


「オウルもかっこいいんだよね」


「菫ちゃんはかっこいい人好き?」


「好きだよ。私は自分にないものを持ってる人って素敵だと思うから」


「お、ムービーだ」


 私と菫で黙々とゲームのストーリーに集中していると稀に撫子が会話に割り込んでくることがある。彼女からしても長編映画を見ているようで興味津々にキャラクターを眺めていた。


 ナイトホークとオウルが好きだった騎士が亡くなった王女の話をする。ナイトホークは新たに現れた敵国の王子に恋をしそうになる王女を応援して疲弊する他国との戦争を有利に進めたい。オウルは反対に王女の婚姻が自国にとって利益になるかわからないと首を振る。


 徐々に猫以外の異形の生物達や蛇の敵キャラとの戦いで翻弄されていくナイトホークとオウルの会話で選択肢が出現する。


「選択肢が出てきた。俺達は生きてる、死んだ奴に執着するな。歴史を守るのも重要だ、それを決めるのは王女だが俺もオウルの意見に賛成だ。どっち?」


 誰か決めてくれるかと思ったが答える人がいない。


「ねえ、撫子ちゃんは?」


「私は下かな。歴史を守るのも重要だのやつ」


「うーん、私は上にしたいな」


 鈴蘭の声を聞き撫子が「なんで?」と聞く。


「新しい恋をしたほうが王女の為だから」


「なんで敵国という表現なのかわからないみたいだね。王女は過去の恋愛を手っ取り早く忘れたいだけ。この王子が本当に彼女を幸せにしてくれるかわからない」


「今問題になってるのは別の国の話。あくまでも昔は敵国だったというだけ。協力を得られるならいいと思う」


「恋を簡単に決めるのは良くないと思う」


「きっと王女も簡単に決めたわけじゃない。それに王子も悪い奴じゃなさそうだったよ」


 結局のところ私は誰がどうなろうと興味はない。


 一応意見を聞いてみたが元々決めていた。


 私は出てきた選択肢から「俺達は生きてる、死んだ奴に執着するな」を選ぶとナイトホークとオウルの会話が進む。新しい恋を応援しないオウルと興味を示さないナイトホークが王女に話をする。


 滅びる惑星に関わるラスボスの居場所が徐々に明らかになっていくと王女は敵国の王子と協力をお願いした。


 二つの国が共同で敵を包囲すると一斉に攻撃をする。ナイトホークとオウルはムービー中も忙しなく動いて敵を倒していく。


 ムービーを見ながら鈴蘭が「前作のギャラクシーパラディンでの主人公がオウルなんだよね。評判はどうだったの?」と菫に聞く。


「調べた限りだと評判は良かった。私も面白いと感じたよ」


「前作をやってないからわかんないけど、このオウルって王の娘が好きなの?」


「そんな会話なかったけど」


「最初に王の娘が死んだ時にオウルがすごい表情してたし、王との会話で娘の話が出る度に悲しそうな顔してた。それにオウルが王女の新しい恋を応援しなかったのも、王の娘が死んだことが関係してるのかなとも思ったの」


「ナイトホークは死んだ者に執着するなと言っていた時にオウルと喧嘩してたね。ま、別の選択肢選んでも同じだったのかな」


 菫は画面を見ながら「そういう考察好きな人だ」と背を伸ばしながら鈴蘭を見る。


「ちょっと眠くなってきた」


 撫子が目を閉じかけていた。


 ゲームも終盤になってきたが私も眠気に襲われそうだ。


 戦闘が終わると敵キャラの蛇が惑星を支配しようとするラスボスとの話をして消えていく。


「これで終わりか」


 私が菫の顔を見ると彼女は目を閉じている。


「菫ちゃん? 眠い?」


「ちょっとだけ」


 菫をベッドに運ぶと私達は寝る準備をする。菫の部屋で全員寝るのは狭かったが詰め込めば問題はないと結論が出た。


 菫と椿に桃の三人がベッドに行く。鈴蘭と撫子の間に私を入れた状態の三人が布団。そうして全員電気を消して眠ろうとしているのに何故か長々と会話が続いていた。桃が何気ない会話から将来の進路について話すとはっきりした答えを持っていた人は誰もいなかった。


「就きたい職業とかないんだ」


「桃ちゃんは教師じゃないの?」


 私の言葉に桃が笑う。


「なりたいとは思えないな」


「撫子ちゃんはないの?」


「私はないな」


「そういえば昔撫子ちゃんが保育士になりたいとか言ってなかった?」


「椿ちゃんもよく覚えてるね。周りが言ってたからなんとなくそう思っただけで夢ではない。ちょっと言い方は悲しいけど……ねえ? 私には何も持ってないんだ。叶えたい職業も好きな人もみんな誰かのもので私自身が選んだものはない。どうしたらいいと思う?」


「そんなのわかんないよ。モデルがあるじゃん」


「椿ちゃんは前から同じこと言うよね。桃ちゃんは?」


「今日だけで撫子ちゃんのことを知ることができたら、それも言えたかもね」


「百合ちゃんはどうしたら私変わると思う?」


 暗闇から聞こえる撫子の声はよく響いた。


「……撫子ちゃんは形だけ他人を真似ることが嫌なのかな。もしそうなら……自分が尊敬する人を順番に選んでいく。一番目に尊敬する人。二番目に尊敬する人。そうしていくうちに一人だけを真似ていたら叶えられなかったものを得ることができると思う。だから何も持ってないことは問題ない。私は考えることができる人を尊敬したい」


 沈黙が続いて心配になると急に撫子が私の背中に触れる。


「みんなは好きな人っている?」


 顔は見えないが撫子は声が上ずっていた。


「私は……私は特にいない」


 眠そうな桃の声が聞こえると椿が少し悩みながら「桃ちゃんと同じで私もいない。同い年の男子はちょっと子供にしか思えなくて」と笑う。


「へえ、椿ちゃんは年上が好きそうだもんね」


「そう?」


「現役アイドルは偉い人と出会う機会多そうだし」


「私を尻軽だと思ってない?」


「思ってない」


「そこも複雑で女として見られるのは好きなんだけど、あまりにも女扱いされると私個人を蔑ろにされてる気がして」


「わかるよ」


 桃と椿の会話を聞きながら眠りそうになる。


「あ、百合ちゃん。前々から気になってたんだけどさ。なんで高橋翔太先輩と付き合ったの?」


 桃の声に目が覚める。


「そういえば詳しく話してなかったね」

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