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恋を知らないゆりかご、鈴の音に口付けを。  作者: 福与詩檻


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 小一時間六人で話をしていると教室内は暗くなっていた。私が全員と連絡先を交換すると明日お菓子やジュースを持って泊まりをすることが決まる。


 少しばかりの準備を済ませて眠ると朝になっていた。


 スマホのアラームをセットするも慣れた置き時計のほうで起きてしまい、結局朝食を済ませてから鳴っていることに気づく。慌ててアラームを止めると届けられたメッセージで現在私の家の前に桃と鈴蘭がいることが判明する。


 急いで着替えを済ませて玄関を開けると空気を含んだふわふわ髪の桃が笑顔で待っていた。肩ぐらいまで伸ばした髪の毛を風で揺らしながら私の手を握る。


「行くよ」


 隣にいた鈴蘭が指先をそっと触れさせて視線を泳がせた。


「鈴蘭ちゃんも」


 桃が鈴蘭と私の手を握らせると一緒に菫の家に行った。


「今日は家に誰もいないから好きにくつろいでいいからね」


 玄関で菫に迎え入れられた私達三人は既に彼女の部屋にいる椿と撫子に挨拶をする。撫子は立ち上がると手を伸ばす。


「よろしくね。鹿島さん」


 撫子が握手をすると鈴蘭は笑顔になる。


「鈴蘭でいいよ」


「それじゃ私も撫子でいいね。鈴蘭ちゃん」


「わかった。撫子ちゃん、そういえば桃ちゃんは菫ちゃんから聞いてる?」


「いや、何も」


 私は撫子に腕を掴まれて彼女の右隣に座らされる。


「専用のアプリをインストールして全員で協力すること」


 菫がゲーム機の準備をしていると鈴蘭が私の左隣に座った。


「詳しくは聞いてない。ただ、お菓子食べながらジュース飲んでごろごろするだけしかやらないと思ってた」


「桃ちゃんはスマホで菫ちゃんと百合ちゃんがメインにしようかなと思うんだ。やはり慣れてる人に任せたほうがいいだろうし」


「いいよ。百合ちゃんもいいかな?」


「私も慣れない側なんだけど」


「前作やってる人菫ちゃんと百合ちゃんしかいないらしいじゃん」


「仕方ないな……」


 鈴蘭の隣に座る桃はスマホを確認しながらベッドに腰を下ろす。椿と菫も同じようにベッドに座ると大きな画面でゲームが起動する。


「じゃあ、まずはコントローラーを百合ちゃん」


「はいよ」


 私達はジュースとお菓子を口にしながら専用のアプリをインストールして菫の説明を聞くことにした。


 いつでも交代できるようにしたが菫以外ゲームが得意な人はいないので必然的にコントローラーを持つ人は限られてくる。


 とりあえず私と菫がコントローラーを操作することが決まった。


 他の四人がスマホを使って猫みたいなキャラを簡単な操作でサポートするらしい。メインキャラを扱う側と違って負担が少なく、他の作業をしながらでも可能なようだ。光属性の猫と闇属性の猫に水属性の猫と火属性の猫を扱えるみたいで、菫のゲーム機に入っているアカウントに四人のアプリコードを入力して私達はゲームをスタートした。


 オープニングが流れると一瞬現れた登場人物を見て菫が「こいつは前作にいたな。お、グラフィックが向上してるねえ」と嬉しそうに呟いている。


「……菫ちゃん元気だね」


 鈴蘭から耳打ちされると思わず仰け反ってしまう。


「びっくりした……」


 菫の足で背中を蹴られて彼女を見る。


「百合ちゃん? 画面見てよね。今作の主人公はナイトホークで荒くれ者。夜の鷹と言われるが厳密には鷹じゃなくて宇宙の鳥だと思ってね」


 私はオープニングに登場する前作主人公のオウルを注目した。


「あれか、あのフクロウみたいな鳥を私が操作するわけね」


「自信ある?」


「まったくない」


「前作では主人公オウルが王の失踪を知って旅に出る話なんだ。今作は戻ってきた王の娘が敵の猫に命を奪われる展開から始まる。滅ぼされた惑星から脱出したオウルとナイトホークに王が敵の殲滅を頼んでいるのは事前情報で知ったけど……ナイトホークはやはりかっこいいな」


 確かにオウルと比べて荒くれ者のナイトホークは見た目としてもかっこいい。一見怠け者にも見える彼の鋭い眼光と大きな黒い翼。それと魅力的なハスキーボイスに思わず聞き入ってしまう。


「声優さんもいいね」


「でしょ!」


「ねえ、菫ちゃん。この声優さんって前に映画化されたアニメに出てた人?」


 後ろを振り向くと椿が笑顔になっている。


 そういえば声が似ているような。


「あの映画って評判いいらしいね」


「菫ちゃんも見なよ」


「え、椿ちゃんが良くても私は別に……」


「あれ面白かったから二回目行くなら連れてって」


「そうか。百合ちゃんも見たんだった。ね? 菫ちゃんも行こうよ」


「え……こういう時って妙に強引だよね。今度ね?」


 椿と会話しながらも菫はゲームを操作している。しばらくはチュートリアルなのか私達は持ってきたお菓子でお腹を満たすと撫子が「百合ちゃん、お昼は餃子だから食べ過ぎないでよ」と言ってきた。


「餃子買うの?」


「菫ちゃんの親が大量に買ったキャベツとニラがあるから消費してくれって言われて。私がひき肉買って餃子でも作ればって言ったらみんな本当に作る気みたいで。今日は私達家から出られないよ」


 ようやくオウルが登場した。私の操作するオウルの少年らしい声を聞いていると「百合ちゃん! 行くよ!」などと声をかけながら菫が私に抱きつく。


 顎を頭に乗せながら菫が操作するナイトホークが敵を倒していく。私もオウルを使って邪魔な敵を次々と倒しながら進む。


 その都度他の四人が操作する猫が敵を豪快に倒す。特別なことは何もしていないのに盛り上がっていた。


「みんなとゲームできて楽しい?」


「楽しいよ!」


 笑顔の菫の頭を撫でる撫子は我が子を慈しむような感情を感じた。


「撫子ちゃんって結構菫ちゃんのこと好きだよね」


「そう見えたか」


「見えちゃったね」


 慣れない操作に苦戦しながらも協力して現れた猫のボスを倒す。


「そろそろ餃子でも作ろうか」


 椿が立ち上がると全員が一階に行き、皮に餡を乗せて包んでいく作業をする。他愛ない会話をしていると皿には大量の餃子が置かれていた。


「これ全部食べられるかな?」


 不安そうな私に「夜も食べればいいじゃん」と言い始める菫の言葉に頷く撫子と椿。不満そうな桃が「タレ次第で変わるからいいか」と言った。


「じゃあ、作ろうか」


「百合ちゃんは座って! 私達が作るから!」


 腕まくりをする菫と椿が胸を張るとフライパンを用意して焼き始めた。


 素直に私達が座ると出来上がる度に餌待ちをする雛鳥のようにテーブルに置かれる餃子を食べていく。当初は醤油と酢だけで食べていたがラー油も加えるようになる。餃子がほぼ全部焼き上がると菫と椿も一緒に食べ始めるようになった。


 お昼ご飯を済ますと歯磨きを終わらせて順番でお風呂に入ることになる。


 寝る準備をするみたいで持ってきたパジャマを見てちょっとだけわくわくした気持ちになってきた。

 

 菫と椿が一緒にお風呂に入ると次が私と鈴蘭の番になるが、汗を流したいと言っていたのに「一人でいい」と顔を背けてしまう。


 私が鈴蘭に目を合わせようとするも彼女は他の方向を見ている。スマホを見ながら立ち去ってしまうので後を追おうとするもスマホに通知が届く。


『一緒にお風呂なんか入ったら私緊張しちゃう!』


『そうなの?』


 裸を見られたくないのだろうか。


「ねえ? 入らないの?」


「……私が先に入るから撫子ちゃんは後からね」


「うん。後からね」


 撫子と二人で話をしていると菫と椿が出てきた。二人と交代して浴室に行くと全身の汗を流してゆっくりと浴槽に浸かる。


 目を閉じていると誰かが浴室に入ってくる音が聞こえた。心地よい気分で眠りにつきそうな瞬間、肌に触れる感触がして驚き飛び上がった。


「起きちゃった?」


 浴槽に浸かっていた撫子がこちらを舐め回すような視線で見つめる。静かに彼女の両手が私の指を絡ませると全身から汗が滲み出てしまう。


「百合ちゃんの肌気持ちいいね……」


 私の足の間に彼女の足が入っていくと絡まっていた指をあっさり解いた。


「あ、ごめん」


 目を泳がせた撫子が狭い浴槽で体を丸めると両手で顔を覆ってしまう。


「後からって話だったよね。ちょっと早いような」


「嫌だった?」


「嫌というか。私が出てから風呂に入ってという意味で言ったわけで」


「ごめん……」


「いいけど」


 今日の撫子は変だ。


「普段と違う感じで戸惑ったけどさ。何かあった?」


「少しだけ興奮しそうになった。いや、なんでもない」


 そういえば撫子と二人で話す機会はなかった気がする。


「……あのね。私聞いてみたかったことがあるの。撫子ちゃんは嫌いな相手と話す感覚ってどう思う? 例えばいじめてた女の子と仲良くなる気持ち私にはわかんないな」


 真剣な表情の撫子が私の手に触れる。


「今思えば好きだからやったことかもしれない。授業中はどんな表情で勉強してるのかな、帰ったら何してるのかなとか。毎日一緒の帰り道で話すことがあったら嬉しいなとか。この手に伝わる体温と柔らかな肌を手にしたい……時々この胸が苦しくなってくるの」


「残念ながら気持ちには応えられないな」


 私が立ち上がると浴槽から出る。


「……私知ってるよ。中学の時ちょっとした嫌がらせのつもりで私達にキスしたんでしょ?」


「思った以上に楽しかったから……それが何よ」


 浴槽から出てしまい少しだけ寒く感じてきた。


「あなたをいじめていた時はみんなが一緒で今のような特別な理由なんてなかった。私は高橋翔太先輩みたいな人が好きだった。そんな彼が好きな人からしたら妬ましくてストレスのはけ口に都合が良かったから。そして他にもあなたみたいな運動のできる顔のいい女の子が好きだったのに、結局は男を選ぶんだと裏切られたと思った人もいた。両者の都合でいじめられていたのは偶然」


 撫子が髪の毛を触り始めた。


「すごい偶然だ」


「まさか誰も助けないとは思わなかったよ」


 よく言うよとは言わずにため息をつく。


「男子にも無視されたからね。ねえ、私さ……撫子ちゃんが中心となっていじめてたのかと思ってた」


「責任逃れのつもりはないけど、誰もが主導権を握ってたと言っていいのか……いや、私は恨まれても仕方ないと思うのは確かだね」


 あの時に色々とされたが階段から突き落とされた時は流石に驚いた。やった張本人は出来心でやってしまったと謝ってきたが、前にいた男子がクッションにならなければ怪我をしていたはずだ。


「確かに中途半端な形で誰とでも仲良くなった。結局運が悪かったのかもね。ま、私がみんなと馴染めなかったのが原因だろうけど」


「一応だけど言い分も聞いてくれるかな。引き返せないところまできたきっかけを」

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