キム・ジュアが生きた証 (4)
翌日になった。
いつものように午前6時になると、看護師のお姉さんが病室に入ってきて窓を開ける。
今日は、晴れやかだった昨日とは打って変わって、窓の外は暗い。
今にもにわか雨が降り出しそうなほど厚い雲が空を覆い、けたたましい雷鳴も聞こえてきた。
私は外の天気に顔をしかめながら、看護師のお姉さんに尋ねた。
「お姉さん、今日、雨降るの?」
「朝ににわか雨が降るって予報が出てたわ。」
「あ…はい。」
にわか雨の知らせを聞いた私は、気分がどんよりと沈んだ。
「今日は、死ぬのは難しいな。」
昨日、寝る前に私は完璧な計画を立てた。
母が朝に来たら完璧な姿で朝食を済ませ、介護士が来る前に病室を抜け出して屋上へ上がり、1階に飛び降りて人生を終える。
この完璧なエンディングには、3つの条件があった。
1. 愛する人たちに見せる最期の姿は、幸せな姿であること。
2. 飛び降りる姿は、愛する人の誰にも見つからないこと。
3. 絶対に死んでも後悔するようなことをしないこと。
ここで3つ目が引っかかった。
雨に打たれながら私の人生を終わらせたくなかった。
「でも、雨は9時から降るって言ってたから、お母さんが来るのには問題ないんじゃない?」
「え?」
「お母さんの出勤を心配して憂鬱な顔してたんでしょ。まだ雨は降ってないし、9時までは降らないから心配しなくても大丈夫だよ。」
「はい!」
看護師のお姉さんは私の考えを間違って捉えたが、関係なかった。
雨が降っても私の計画は十分に実現可能だった。
朝7時に母と朝食を済ませ、8時に母を見送った後、こっそり病室を抜け出して屋上へ上がる。
こんな天気なら誰も屋上にはいないだろうから、誰にも気づかれずに計画を実行できる。
そう考えると、すべてが完璧な状況になった。
朝6時30分、いつもと同じように母が病室に入ってきた。
「ジュア。起きた?」
「うん。」
「体は大丈夫?」
「うん。今日は大丈夫。」
「じゃあ、顔を洗いなさい。洗ってご飯食べよう。」
「うん。」
私は母の言葉通りベッドから起き上がり、トイレへ向かった。
私の病室は個室なので、専用のトイレが別についていた。だから他の患者と違って、病室の外に出なくてもすべての用事を済ませることができた。
もちろん、病室の外に勝手に出ることもできないという欠点もあったけれど。
とにかく母の言葉通り私は顔を洗い、身なりを整えた。
普段は青白くてたまらず、毎日ベッドに横になっているせいで髪も脂っぽいが、髪を洗い、顔を洗った今だけは、普通の高校生だと言っても誰も疑わないだろう。
母は私のそばで朝食を食べる様子を見守った。
シロサバフグのフライとキムチ、ジャガイモの煮物と卵スープが見える。
今日もまた昨日と同じく私が本当に嫌いな食べ物ばかりだったが、私は自分の素敵な最後の姿を残すために、美味しそうに食べる演技を始めた。
そんな私の姿を見た母は黙って微笑み、それを見た私は今日も無事に任務を達成したという達成感に口元に笑みを浮かべた。
母は私がご飯を食べて歯磨きをしている間、寝具を整えた。
寝具を整えた後には、床に落ちたものを拭きながら私の周りを掃除してくれ、私はそんな母に素敵な最後の挨拶を贈った。
「お母さん、今日も来てくれてありがとう。」
「ジュア。私もありがとう。一生懸命ご飯を食べて、一生懸命治療を受けて、完治したらお母さんと一緒に暮らそうね、きっと。」
「うん。もちろん!当たり前じゃない。」
私の言葉に母が微笑み、病室の中にかけられた時計に視線を移した。
午前8時。もうすぐ母が出勤する時間だ。
母は痛ましそうな顔で私を見つめた後、席から立ち上がりながら言った。
「うちの娘、何かあったら電話してね。分かった?」
「はい。何事もないから心配しないで。」
「フフ、そうね。行ってきます。」
「はい。いってらっしゃい。」
母が去った後、しばらく様子を伺った私は病室のベッドから起き上がり、入口へ向かった。
昨日とは少し早い時間だったので、昨日と同じように介護士だった彼が私を止めることはなかった。
私が廊下に出ると、互いに引き継ぎをしていた看護師のお姉さんたちが私を見て尋ねた。
「ジュア。どこ行くの?」
「あなたのお母さんが外に出しちゃダメって言ってたわよ。この前みたいに風邪をひいたらどうするつもり?病室に入っていなさい。」
お姉さんたちの言葉に、嘘の百段の腕前を持つ私は、自然な表情で言った。
「お母さんが病室に財布を置いていったので。1階で渡す約束をしたんです。」
「そうなの?」
「はい。財布だけ渡したらすぐに戻ってきます。」
「分かったわ。」
幸いにも騙されてくれた看護師のお姉さんたち。私はお姉さんたちの視界から遠ざかると、エレベーターではなく階段へ向かった。
階段で屋上まで上がった私は、今日は本当に完璧な計画を実行できるという期待に胸を膨らませた。
ところが屋上のドアの前には、その膨らんだ期待を遮る者がいた。
彼は屋上へ向かうドアにもたれかかり、階段の方にいる私を見下ろしながらぶっきらぼうに言った。
「今日も飛び降りるつもりか?」
「……。」
「介護士が聞いてるんだ。飛び降りるつもりかって。」
完璧な計画を遮る彼に向かって、私は目を釣り上げて答えた。
「そうだったら?」
「じゃあ、こっちに来いよ。ドア開けてやるから。」
「何?」
「お前が死にたいなら、止めない。昨日みたいに俺が写真撮るわけじゃないから、お前の計画通りで構わない。」
彼はむしろ屋上へ上がれと手で屋上のドアを指し示した。
私は彼の行動に呆れたが、それでも私の完璧な計画はまだ進行中だったので、階段を上がって屋上のドアへ向かった。
屋上はガラス戸になっていて、ガラスの向こうを見ることができた。
私はガラスの向こうの風景を見て、私の完璧な計画が完璧ではなくなったことを痛感した。
病院の屋上ではザーザーと雨が降っていた。
それもかなり激しい雨がにわか雨のように降り始めていた。
彼はそんな雨を見てにやりと笑った。
「どうした?」
「……。」
「死なないなら降りろ。先生の回診時間がもうすぐだから。」
「うっ…。」
なんだか悔しかった。
本当にとても悔しかった。
しかし怒ることはできなかった。
今日、彼は私を止めなかった。むしろ私の完璧な計画を応援し、励ました。
しかし天気が私の決断を延期させた。
こんな日には死ねない。
キム・ジュアがにわか雨の降る日に、雨に濡れてずぶ濡れのネズミのように地面に落ちて血まみれになった結末は、家族にとっても、友達にとっても完璧ではないだろうから。
午前9時、医者の回診時間。
私の隣には介護士のソンフンがいた。
医者は真っ先に昨日何か変わった症状があったかを尋ねた。
「昨日は投与量を減らしてみたんですが、どうですか?耐えられましたか?不整脈はひどくならなかったですか?」
「はい。大丈夫だったと思います。」
看護師のお姉さんが頷きながら出ていき、医者は次の病室へ回診するために病室を出て行った。
そしてそんな私を彼がじっと見つめながら言った。
「大丈夫か?」
「何が?」
「お前の心臓、壊れてるんだろ。薬物治療を受けたら良くなるのかと思って。」
彼の質問に私が少し考えた後、言った。
「正直、良くなるのかは分からない。でも方法がないじゃない?私が専門知識があるわけでもないし。お医者さんが言う通りにするしかないでしょ。」
私の言葉にソンフンが吹き出した。
「自分の体のことなのに分からないなんて、それくらいは勉強すべきじゃないのか?」
「勉強は十分にやったわ。どんな意味なのかも知ってるし。」
「なのに?」
「心臓は思っているよりも複雑なの。特に私の心臓は生まれた時から肥大していて、弁の形が他の人とは違う形で生まれたんだって。だから不整脈もあって、たまに倒れることもあるの。私の病気について全く知らないわけじゃなくて、まだ完治できる病気じゃないから分からないって言ったのよ。」
私の主張にソンフンが口元に笑みを浮かべた。私は彼のやんちゃな表情がひどくいけすなく見えた。
「なんで笑うの?」
「全く方法がないわけじゃないだろ。心臓移植手術、手術を受ければ完治することもある。」
心臓移植手術という言葉に、私は彼を睨みつけた。
実は私は心臓移植手術を受けるために待機して3年以上になる。
それなのに、いまだに順番が回ってこない。
適切な提供者がほとんどいないというのもあるし、仮に適合したとしても私よりも先に待っている患者が多いからだ。だから私は心臓移植にあまり期待していない。
「簡単に言わないで。心臓移植手術は誰でも受けられるものじゃないの。免疫学的検査も一致しなきゃいけないし、血液型も合わなきゃいけないし、提供してくれる人も生きている状態じゃなきゃダメなの。」
「だから受けないって言うのか?」
「そうじゃないけど…。」
「そうじゃないけど?」
「私に心臓をくれたら、その人は死んでしまうじゃない。それはあまりにも悲しいことよ。」
「でも、その人は自分の臓器を提供することで、死んでも他の人たちの命を救うことができる。俺も他の人の腎臓をもらったから、慢性腎不全を患っていたにもかかわらず、こうして元気に生きているんだ。」
「……。」
私の目の前にいるソンフンは、誰かから腎臓をもらった。
そして元気な姿で私の目の前に座って、私を見て話していた。
私は一瞬、彼に腎臓をくれた人が誰なのか気になった。
果たして彼は腎臓をあげてどうなったのだろう?どうしてあげることになったのだろう?
「ドナーが誰だか知ってるの?」
「うん。」
「家族なの?」
「いや、俺は家族はいない。」
「いないって?」
「交通事故で小学校の時に両親とも亡くなった。だから家族は俺だけだ。」
知らなかった。いつも笑っていて、いつもおどけていて、幸せそうに見えたから、何の悩みもない人だと思っていた。
しかし予想とは異なり、彼の家庭事情は私の家族に比べて何一つ良さそうに見えなかった。
「どうして?悲しい?」
「いや…悲しいと言えば悲しいけど、どうして平気な顔をしてるの?」
「そりゃ当然、平気だからな。もうずいぶん前のことだし。」
ソンフンの言葉に私が答えようとした瞬間、看護師のお姉さんが入ってきて微笑みながら言った。
「ジュア。注射するね。」
「はい。」
「点滴もいいものに替えてあげるから。横になってゆっくり休んでね。」
ベッドに横になると、お姉さんがアスピリンを含んだ点滴を入れてくれた。
再び視界がぼやけ、心に安らぎが訪れる。
でも、まだ話したいことが残っている。
「じゃあ今、どこに住んで…るの?」
「フフ、後で目が覚めたら教えてやるよ。お前、口ごもってるぞ。」
聞きたいことが残ってるのに…。
今は少し休むべきようだ。
「あ…うん。」