運命の雫
マタル「町一番の富豪、アスリィ家から、
“運命の雫”を取ってこい。」
アラドはやっとのことで声を吐き出した。
まるで蛇に睨まれた蛙だ、金縛りに遭って体が動かない。
アラド「……アスリィ家。」
この国の大臣じゃなかったか?
高級住宅街の真ん中にある、高い塀に囲まれたデカい屋敷
まず下層民のような見窄らしい奴は高級住宅街に入る
事も出来ない。
アラド「ムリポ………」
マタル「あぁ、軍資金が必要か。引き受けるならそこの宝石箱をくれてやろう。前払いだ。どうだ?」
引き受けなければどうなるか?引き受けて逃げたらどうなるか?
銀髪の女性の目を見れば分かる。
消されちまう。
アラド「やる。」
マタル「見込んだだけはある。ちゃんとやれよ。」
砂漠の街、夜は冷える。
だが、地下の下水道へ続くココはそうでもない。
冬も燃料は少しあればいい、匂いさえ気にしなければ。
アラド「ビーラまだ起きてるか。」
ビーラは飛び起きた。
ビーラ「アニキ、探しましたぜ!」
聞けば、急に目の前から消えたらしい。さんざん探し回って、あきらめてねぐらに戻ったらしい。
俺は何時間いなくなってたんだろう?アラドはゾッとした。
アラド「なぁに、ちょいと空き巣に行ってたのさ。」
アラドは小刻みに震える足を押さえつつ見栄を張った。
ビーラ「こりゃすげー、箱だけでも大金になる!」
ビーラはアラドが持って帰ってきた宝石箱に歓喜した。
アラド「おっと、その手をしまいなビーラ。」
ビーラはお宝を山分けしてくれるもんかと思っていたので少し憤慨した。
アラド「ちげーよ、俺はコレを元手にアスリィ家に空き巣に入ろうと思ってんだ。」
ビーラ「そりゃ無理だ!入れねーですぜ!」
もし入れたとしても出られるかどうか……
捕まったが最後だ。
アラド「俺は堂々と正門から入って、堂々と出ていくつもりさ。そのための軍資金よ。」
コレよりさらに大きな稼ぎになるものを手に入れる。
夢のある話だ。
ビーラ「なんか、心当たりでもあるんですかい?アニキ。」
ビーラは宝石箱からめを離せない。これ以上のものの算段が、目星があるのか?そう聞きたいらしい。
アラドはさっきマタルの家を出る時に聞かされた話を持ち出した。
アラド「運命の雫って小瓶があるらしい、それには、巨万の富の価値があるって話だ。アスリィ家にある。
俺はそれを手に入れる。」
ビーラ「ただの小瓶?なんですかそりゃ?ガラスじゃねーですか?」
アラド「見りゃ分かるって言われたんだ。まあ、何でもいいじゃねーか、買い手も見当がついてる。手を貸してくれんなら、分け前をやるよ。どうする?ビーラ。」
何とも、歯切れの悪い会話だ、アラドはマタルの私のことは誰にも話すな、をなんとか学のない頭でやって
ビーラに協力してもらいたかった。
一人でやるには、無理がある。
ビーラ「?よくわかんねぇけど、アニキがそう言うなら手伝いますぜ。」
ビーラはバカだが、素直なやつだった。