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プロローグ

「大丈夫かな?アイツ」


アラドは今日の獲物、スリの成果の金貨の入った袋を


手で弄んでいた。


人気のもうない広場、夕方を過ぎるとここは寂しい。


山を削って作られた街の奥にある広場は、


日陰になっていて、昼間は朝採れた野菜や果物なんかを売っている店が並ぶ市場になるが、


夜は闇が深くなるので、街の手前の広場に行ってしまって、誰もいなくなる。


スリをやるような下層民の待ち合わせ場所にはもってこいだ。街の奥へ続く階段に腰を下ろし、静まり返った広場を眺めていると向こう、通りの方から、小男が駆けてきた。アラドはホッとして言った。


アラド「おせーな、ビーラ。」


ビーラ「すまねえ、アニキ。」


アラド「それで?いい物は手に入ったのかい?」


ビーラ「そこそこでさぁ。」


ビーラは懐から小袋を二、三取り出した。


アラド「お前さんも板についてきたな。」


さて、換金は明日にして引き上げよう。


ねぐらのアジトに戻ろう。アラドは立ち上がって、


顔を広場に向けると、


そこには賑やかな露店が賑わっていた。


アラド「は?」


見たこともない人々、見たこともない服装、見たこともない品々、食器、刀剣、色とりどりのヒヨコ。


広場につながる向かいの道と、


広場を隔てるように出現している柱だけの赤い門。


赤い門の先に見える通りには誰もいない。


暗いままだ。気がつけば、ビーラもいない。


辺りを見渡しても人混みの中にはいない。


おかしなこともあるもんだ。


アラド「こうなりゃ、もうひと稼ぎだ。」


アラドは人混みの中に入っていった。


見る顔、見る顔、どうも霞んで見える。


目を凝らせば確かに目鼻立ちは分かる。


けれども、パッと見、顔の真ん中に大きな穴が空いてるような?


アラドは恐怖を感じずにはいられなかった。


アラド「ここはどこなんだ?こんな奴らいたか?」


アラドが立ち尽くしていると通りの方から広場へ歩いてくる女性が見えた。


永い豊かな銀髪が月夜に照らされて光っているのか、


妙に眩しくくっきりと輪郭が闇夜でもわかった。


ようやく見つけた顔の分かる女性。


少し虚ろな目、スラッとした鼻、透き通るような肌。


身につけている宝石の数々。


アラド『こいつは大物だ。』


女性は広場を抜けて、路地に入っていく、アラドも気づかれないように後をつけた。


強盗。


家に行けばもっとすごいお宝があるに違いない。


何、女は縛ればいい、たとえ男が出てきても、


その時は、この腰の業物の出番、アラドは多少、


近接格闘の心得があった。


しかし、


アラド「……こんな道あったか?」


進む路地、狭い階段、少し歪んだ建物。


長年ココに住んでいるが、どうも記憶にない道だ。


アラドは不安を感じながらも、その金持ちそうな女性の後に続いた。




ついた所は街の中腹、長い階段てっぺんの高層階、


細長い家、女性は家の中へと入っていったが、


扉の鍵を閉める“カチャッ”は聞こえなかった。


アラド「不用心な、奴だ。」




アラドはそーっと扉から中には入って、暗い家の中を探索していった。


……この部屋はハズレだ、かさむ本しかない。


中には売ればとんでもない高値の物もあるのだろうが、価値が表紙だけでは分からない。中を時間をかけて読んでる暇もない。そもそも字があまり読めない。


次の部屋も、


壁一面に本だらけ。


その次も、その次も。


アラド「何だココは……」なんだこの家は、


仕方なしに掴んだ、机の上にあった金の燭台を見つめて呟いた。


部屋だけじゃない、細い見た目とは裏腹に部屋の数が多過ぎる。


引き返したほうがいいのでは?心がそう囁く。


アラドは背中を伝う汗を感じた。


アラド「……次の部屋で最後にしよう。」


窓から差す月明かりだけが照らす、人けのない廊下を


通る、窓から見える月はいつもより大きく見える。


高層階だからか?


次の扉からは光が漏れている。今さっきの女か?


臨戦態勢で中に入ると、


そこには一人少女、娘がいるだけだ。


今さっき見た女性と瓜二つ、こちらは銀髪というより


髪も白い、目の色も赤い。


娘は悲鳴をあげるどころか、無言でアラドを見つめるだけだ。


アラド「お嬢ちゃん、なんで俺を見てる?」


娘「……かわいそうだから。」


服装のことか?俺の生まれのことか?学がないことか?


きれいな声だ。それがアラドの心には突き刺さる。


アラドは部屋の中を見た。ここならいろいろある。


宝石箱、金貨もある、なんなら絶世の美女もある。


「どれがいい?」


アラドは後ろから声をかけられ、その場を飛び退いた。


驚いた心臓がバクバクしている。


ケタケタ笑うそのひとは今さっきの銀髪の女性だ。


銀髪の女性「アラド。」


アラドはなぜか動けなくなった。


銀髪の女性「私はマタルそっちの子はラウラだ。」


逃げたくても体が動かない。アラドは聞くしかできなかった。これで終わりか、そう思うと自然と涙が出てくる。


マタル「おいおい、泣くなよアラド、まだ話は終わっちゃいないぜ。」


マタルはアラドに顔を近づけた。




お前に頼みたいことがある。





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